かつては日本の食卓には欠かせなかったクジラも、今ではすっかり姿を消してしまいました。1987年、IWC(国際捕鯨委員会)による商業捕鯨禁止の決定以後、日本人がクジラ肉を口にすることはほとんどなくなってしまいました。折しも、山口県下関市ではIWCの総会が開かれ、捕鯨の是非を問う議論が交わされています。今回はクジラ問題を考えてみましょう。




私はクジラを食べたことがないのですが、本当においしいの?

クジラがおいしいか、おいしくないかは個人の味覚の問題ですが、かつては学校給食などで日常的に食べられていました。最もたくさん食べられていたのは1960年代で、年間20万トンものクジラが捕獲されていました。戦後の日本は食糧も乏しく、クジラは貴重なタンパク源として国民の絶大な支持を受けていました。その当時、クジラのベーコンや竜田揚げを食べたことのある人はみな「おいしい」と感じていたようです。


なぜ突然クジラを捕ってはいけないことになったのですか?

その答えはIWC(国際捕鯨委員会)の歴史が物語っています。IWC(国際捕鯨委員会)は、クジラの保護と管理を目的に1946年に締結された「国際捕鯨取締条約」に基づいて設立された国際機関で、日本は1951年に加盟しました。以後、IWC体制の下、日本は順調に漁獲高を伸ばしてきました。ところが、1970年代から1980年代にかけて、欧米の環境団体などから「クジラは絶滅の危機に瀕している」との声があがってきました。次第にこうした声は力を増し、クジラを食べない国が次々とIWCに加盟。反捕鯨の声は一段と高くなってきました。さらには、かつては捕鯨国だったアメリカ、イギリス、オランダなども反捕鯨に回り、1982年、賛成多数で商業捕鯨の禁止が決定しました。




よく聞く「調査捕鯨」ってどんなもの?

1987年、商業捕鯨の全面禁止が実施され、世界でも屈指の捕鯨国だった日本は調査捕鯨を開始しました。この調査捕鯨は、当初ミンククジラだけでしたが、2000年の調査からマッコウクジラとニタリクジラも加えました。調査は実際にクジラを捕獲して胃袋の中に何が入っているか、つまり何を食べているかを調べたり、クジラの年齢、どの海域にどんなクジラがいるのか、年に何頭出産するのか、などを事細かに調べます。余談ですが、こうした調査捕鯨で捕ったクジラは「無駄のないよう利用すること」と定められた条約に従い食用などになります。今でも専門店でクジラ料理が食べられるのは、この調査捕鯨で捕ったクジラがあるからです。


クジラは本当に絶滅の危機に瀕しているの?

秘結論からいえばノーです。日本の調査捕鯨の結果やIWCの調査などによると、一部の種類を除いて、ほとんどのクジラは増えつつあるとされています。こうした結果を踏まえ、「年間これだけのクジラを捕獲しても固体数の減少とはならない」という科学的な数式も開発されています。日本はこうした事実に加え、クジラは食糧として大量の魚を食べるため、世界的な漁業に影響が出ると警告しています。適度な数のクジラを捕獲することで漁業資源を守る、というわけです。これに対して、反捕鯨国や環境団体などは、これらのデータにことごとく疑問を呈しています。




将来的に商業捕鯨はどうなっていく?

はっきりいって、みなさんはクジラを食べたいですか? 今、日本でクジラを食べたいという世論が盛り上がっているわけでもありません。また、仮に商業捕鯨が再び解禁となっても、コストの面などでこれから捕鯨に手を挙げる漁業会社はないだろうと言われています。筆者が子供のころは、クジラの主食はオキアミと学校で習った覚えがあります。しかし、その後の研究でクジラは魚を食べることがわかりました。特に日本人が好むサンマやサケを食べるクジラもいます。水産庁のデータによれば、世界中の鯨類が年間に食べる魚は約5億トン、対して人間が食べるために捕る魚は年間9000万トンといわれています。実に人間が食べる量の5倍以上を鯨類が食べている計算になるわけです。あまり魚を食べない欧米人にはどうでもいいことかもしれませんが、魚介類を日常的に食べる日本人には、無関心でいられません。下関で開催のIWC総会の行方に注目したいと思います。

(2002.5.12 取材/金子保知)