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今そこにある、ラーメンブーム 日本人はラーメンが大好きですね。もう立派な国民食です。テレビや雑誌などでも、しょっちゅう取りあげられていますし、人気ラーメン店には、いつだって長蛇の列ができています。さまざまなこだわりを持ったラーメン店が続々誕生し、まさに群雄割拠時代に突入しております。ラーメン通(*1)のみなさんは、把握するのがさぞかし大変でしょう。それでは、うまいラーメンとは何なのでしょうか? 今回はそのへんを考えてみたいと思います。 日本テレビの番組『全国民が選ぶ美味しいラーメン屋さん ベスト99』で第1位に輝いたことのある、『らーめん天神下 大喜』(*2)や、『俺の空』(*3)などは、強烈な行列ができています。というより、整理券が配付されるので、それがなければ、いくら並んでも食べられないほどです。横浜の『くじら軒』(*4)の近くに住んでいる友人は、近所なのにもかかわらず、いつも行列ができていて、気軽に食べることができないそうです。食べるためには、昼前から覚悟して並ばないとダメだとか。たかが、ラーメンを食べるだけなのですが、それにありつけるまでには、そうとうの苦労が必要です。ラーメンブームには、すごいものがあります。 さて、このラーメンブームの一端を担っているのは、学生だと思います。「ラーメン通」ではないけど、ラーメン好きという人の大半は学生です。その次が社会人。行列に並ぶヒマがあるし、野郎にとっては、女子学生を気軽に誘える、いい口実にもなるし、安い値段で胃と心を満足できる。まさに、学生にはうってつけなのです。さらに、自動車が運転できるようになると、彼らは他に行くところもたいしてないので、ラーメン屋は格好の標的になるのです。こうして学生はラーメンにハマっていきます。ただ、東池袋の『大勝軒』(*5)に日中2時間近く並んでいる人の中には、学生ではなさそうな人が大勢います。彼らの職業はなんなのか、いまだに疑問です。 かくいう僕も、大学生の時にかなりのラーメンを食べ歩きました。東京都葛飾区堀切にある、『弁慶』(*6)で僕はデビューしました。当時は、『弁慶』もこの堀切店しかなく、立ち食い形式になっていて、注文すると割り箸がもらえるという、妙なシステムでした。ここで、こんなにうまいラーメンがあるのかと感銘を受けたものです。また、わざわざ葛飾区まで出かけていって、長時間ならんでまでしてラーメンを食べるという、一種のイベント性も、心惹かれるものがありました。 以来、数々のラーメンを食べてきました。ラーメン博物館だって行きました。大阪にだって行きました。そうすると見えてくることがあります。それは、人の好みは千差万別だということです。 白濁のとんこつラーメンが好きな人、醤油ラーメンが好きな人、みそや塩が好きな人…。醤油の中でも、すっきり澄み切ったのが好きな人と、とんこつベースのこってり系が好きな人…。さらに、麺の好みも、具の好みも、みんなバラバラです。ですから、人とラーメンの話をしていると、行ったことのないラーメン屋の名前がよく出てきます。逆に、好みのラーメン屋が合致することはあまりありません。げんに、僕の今現在のいちおしラーメンは、地元足立区の『雪花亭』(*7)の味噌つけめんですが、ほとんどの人が知らないでしょう。前述の『全国民が選ぶ〜』や雑誌のラーメンランキングなどでは、そうとう量の少数意見が寄せられているのではないでしょうか。第1位のラーメン屋の得票数は、総数の何%を占めているのか知りたいものです。たぶん、えらく低いはずです。 余談ですが、ラーメン通っぽい人は、ラーメンを食べる時、無表情というか、楽しくなさそうに見えるのはなぜでしょうか。ひとりでやって来て、仏頂面でもくもくと食べて、さっさと帰っていきます。それでも、次の日もどこかのラーメン屋に出かけて行くのです。ラーメンというものは不思議です。
『近藤家』(神奈川県横浜市)
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