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中華街「海員閣」の完璧な食べかた 横浜中華街(*1)で、連日行列をなす店のひとつに、「海員閣」(*2)があります。メインの通りから一本路地に入ったところにあるので、目立たないのですが、すごい行列ができています。先日初めて食べに行ったのですが、そこで目撃した、計算しつくした無駄のない注文をする人のお話をしましょう。 降りしきる雨の中、1時間以上待って、ようやく店内に入ることができました。4人がけのテーブル席に、僕ら2人と、カップルだか夫婦だかわかりませんが30歳代くらいの男女2人組が、向かい合せに座ります。着席はほぼ同時です。 こちらは、エビがうまいという情報しか入手していないので、あれやこれや何を注文しようか相談していると、向かいの2人組は「シュウマイと、牛バラ飯(*3)と〜」と、メニューも見ず首尾よく注文を済ませていました。 我々がもたつきつつも、ようやく注文をしようする頃には、向かいの2人のところには、すでにシュウマイが運ばれています。「ビールと、車海老のから煮(*4)と、牛バラ飯と海鮮うま煮。とりあえず、それで」と我々が注文すると、「追加は基本的にダメなんだけどね」と向かいの男がボソリといいます。ピクッ。まあ、店のおばちゃんは、追加でも大丈夫だといってくれたので、ひと安心です。 食事を済ませたほとんどのお客さんが、会計の時にあるものをお土産に買っているのに気づきました。どうやら、シュウマイのようなのです。これはきっとうまいのだろうということで、“追加”でシュウマイを注文すると、「ごめん、シュウマイ終わっちゃた」といわれてしまいました。「シュウマイは来たらすぐ注文しなくちゃ…」と、シュウマイを食べ終わり、牛バラ飯に移ろうとしている向かいの男がブツブツいっています。 ビールで乾杯していると、ようやく我々のところにも、牛バラ飯がやってきました。腹がとても減っていたこともありますが、これがまた絶品。何度も中華街に来ていて、いつもなら見向きもしないメニューなのですが、なぜか頼んでいました。我ながら、自分のうまいものを嗅ぎ分ける能力に感心します。その後、海鮮うま煮と、車海老のから煮がやってきました。向かいの2人組にも、車海老のから煮が届きます。 それまでお茶を飲んでいた向かいの2人組は、突然ビールを注文しました。食事のスタート時ではなく、途中からビールを頼む人を僕は初めてみました。「このエビには、ビールが合うんだ」と2人は話しています。 それにしても、この車海老のから煮のうまいのなんのって。殻がやや食べにくいですが、そんなことはおかまいなしに、思いっきり食べてしまいました。さすが、行列の絶えない店だけあります。どれもこれも、本当にうまいのです。我々が海鮮うま煮を堪能している頃、向かいの2人はすでに食事を終え会計に入っています。帰り際、男は我々に「これが海員閣の食いかただ」といわんばかりの一瞥をくれて去っていきました。 あとでわかったのですが、海員閣のおすすめベスト3は、シュウマイ、車海老のから煮、牛バラ飯だったのです(それ以外も充分おいしいです)。我々は幸運にも、そのうちの2つを味わうことができましたが、向かいの2人は、すべてを食べています。それ以外は食べていません。着席と同時に注文し、腹をほどよく満たしつつ、かつその店のうまいものだけを効果的に食す注文、おまけに相性を考慮して、ビールは途中からという完璧さ。彼らは毎回、同じ注文しかしないのでしょう。その計算しつくされた食べかたにただただ脱帽の我々でしたが、けっして彼らのような、ワンパターンのマニュアル化された食べかたはしたくない、という意見で一致したのでした。
車海老のから煮
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