恵比寿駅から2〜3分とはいえ、商店街でもない、地味なマンションの1階にある店なので、数年前にできたときは「なんじゃい、このキムタクみたいな名前は」と思って素通りしたくらいだ。その頃は、行列どころか、ランチでもガラガラだった記憶がある。
店内はとんかつ屋というよりは、創作和食の店という感じのインテリア。メニューを見ると、普通とんかつ屋に必ずある「ひれかつ定食」とか「ロースかつ定食」という文字は見当たらず、「梅じそ」「黒こしょう」「にんにく」という、アレンジメニューが並んでいる。おまけに、ご飯はササニシキかコシヒカリかをチョイスして、一人分ずつ注文してから炊くのだと言う。ふ〜ん、やっぱりその手のこだわり系の店なのね……。キャベツは別盛りで、コース料理の様に最初に出てくる。しかも、いっしょに運ばれてきたのは、ソースじゃなくて特製ドレッシング。京風の上品なおしんこ、お茶は燻り茶ときた。燻り茶とはその名の通り、燻ったような独特のクセのあるお茶で、京都から特別に取り寄せているのだという。ふ〜ん、ここもこだわってるわけね〜。この時点で、とんかつ通のお客だったら、「ふざけんじゃね〜〜!」と叫んでしまうような店である。
そして極めつけはとんかつ。きれいな長方形の分厚い肉にサクサクと包丁を入れ、脂がしみないように、網を引いた信楽焼のお皿に盛られて来る。ソースおろしぽん酢は別の小皿に注がれてきて、それに肉を付けながら食べる。お上品! またもや通の「ふざけんじゃね〜〜!」が聞こえてきそうだ。
しか〜し、これが食べてみると、めちゃくちゃウマい。サクサクのころもの揚げ具合もなかなかで、ジューシーな肉汁が口の中に拡がり、見事にとんかつの醍醐味をクリアしているのである。柔らかいけれど、ひれかつの様なぱさぱさ感はない。あまりのおいしさにお店の人に聞いてみたら、なんとここのとんかつ、超薄切りのロースを28枚くらい積み重ねてギュギュッと固まりにした、ミルフィーユ状のとんかつなのだという。積み重ねた肉の間に梅じそとかニンニクだとかを挟んで、それがバリエーションになっているのだった。
ついでに、小釜で炊いた炊きたてのご飯もめちゃウマで、私はすっかりこの店のファンになった。友達が遊びに来たときは、必ず『キムカツ』に連れて行き、「このお茶はね……」「この肉はね……」と講釈をたれて「へ〜〜!」と言わせて楽しんでいた。まさに、私だけのめっけもんの店だった。
ところが、それから数か月たった頃、この店がテレビに出ちゃったのですよ! しかも『とんねるずのみなさんのおかげでした!』の人気コーナー「食わず嫌い王決戦」のお土産コーナーに。ゲストが何となく手みやげのお菓子なんかを持ってくるようになり、コーナー化されたものだ。すっごい高級品とか、超有名な店というのではなく、ゲストのタレントが普段本当に好きでよく買うようなモノを、友達感覚で持ってくるという感じが私も気に入っている。
『キムカツ』の持ち帰り用とんかつを持ってきたのは、女優の秋吉久美子だった。女優がとんかつ……さすがである。それだけでも気になるのに、ミルフィーユとんかつなんていったら、そりゃあ食べてみたくなるでしょう。そして、このお土産のベスト10を決めるグランプリ大会の特番で、見事1位に輝いてしまったのである。
いや〜な予感がした。そして、翌日のランチタイムからその予感は的中! いつもはあまり人通りのない『キムカツ』の前に、11:00ぐらいから長蛇の列ができているではないか。
「ああこれで、しばらくはここのとんかつ、食べられないかも……」
と思ってから1年たつのに、この列はいまだになくなっていない。
この1年で『キムカツ』は急成長。銀座三越のすぐ近くに支店もでき、この間は、恵比寿の前を通る都バスのボディに宣伝のペインティングがしてあるのを目撃した。恵比寿店はついに、深夜2時まで営業することになったそうだ。そうでないと、並んだお客をさばききれないのだろう。
当たり前の話だが、私のささやかな口コミよりも、テレビの影響力は凄いなと思う。お陰で、街のたれ込み屋のあたしゃあ、自慢げに宣伝することも、ダチを連れてくこともできなきゃあ、自分自身が食べることもできなくなっちまったい!
思えばこの私、昔から旨いモノを見つけてはマイブームに止めておくことができず、周りの人間に大宣伝して小さなブームを起こすのが好きだった。そんな規模でブームと言えるか? と突っ込まれても困るが、それなりに売り上げには貢献していると思う。
麻布十番に住んでいるときは、近くに『きんときや』という、鳴門の金時芋を使った和菓子の店があり、そこの「きんときぽてと」というスイートポテトがお気に入りだった。友達の家に遊びに行くとき、撮影の差し入れ、打ち合わせのお茶うけと、ちょこっと何か手みやげというとき、必ずこれを買っていった。1年ぐらいで麻布十番から撤退してしまい、以来口にしていないが、飯田橋店と所沢の本店は健在らしい。
恵比寿に越してからはまったのが、アトレの中にある和菓子屋『えびすさん』のミニ和菓子。大福や桜餅、草餅などの一口サイズのものが丸いプラスチックのパックに3個入って100円也! という驚くべき安さで、これを何種類か買っていくと、どこでも喜ばれた。見栄えはチープなので、勝負土産には向かないが、ちょこっと手みやげには絶品の品だった。採算が合わないことに気づいたのか、最近なくなってしまったのが惜しまれる。
そして、まさに今オンタイムで気に入っているのが、恵比寿三越のB2にあるパン屋『Johan』(ジョアン)のミニワンコーナーで売っている「こがしふらんす」である。『Johan』は全国の三越に入っているフランスパンで有名なパン屋で、「チョコブレッド」で人気を呼んで、焼き上がり時間には主婦が列を作ったという伝説の店である。
ミニワンコーナーは、ミニクロワッサンなどを量り売りするコーナー。ミニクロワッサンが100g¥137,ミニチョコクロワッサンが100g¥158。100gで4個ぐらい入ってくるので、なかなかお得である。中でもミニチョコクロワッサンは、生地にチョコレートが入っているだけでなく、とろ〜りと間からビターなチョコレートが出てくるのが美味しい。店頭で焼いているので、熱々を200gぐらい買うと、ついつい一人で食べきってしまうほどだ。
そのチョコクロワッサンの隣に、最近並び始めたのが「こがしふらんす」である。フランスパンを小さく切ったものに、カラメルソースみたいなものをしみ込ませてこんがり焼いてある。見た目はあまり良くないが、すっごく美味しい! かりかりの歯ごたえと、しつこくない甘さ。カロリーも抑えめかも。チョコクロワッサン一筋だった私も、一度食べてころりと寝返った。焼いている女の子に聞いたら、切ったクロワッサンにバターと黒糖をまぶして焼くのだそうだ。黒糖がオーブンの中で溶け、バターとドッキングしてこのハーモニーが生まれるわけね。単純にシロップがけじゃないところが、ますます気に入った!
このミニワンコーナー、最近夕方頃に行くと、10人ぐらいの微妙な列ができていることが多くなった。まあ、ここで食べるわけではないので、並んでもそんなに時間はかからないが、これが増殖していったら……と、少し不安である。私は美味しいモノは大好きだけど、並ぶのは大っ嫌いなのだ。友達には教えたいけど、あんまり流行っちゃ嫌! 人って本当に勝手なもんですね。
みなさん、この情報は他言無用でござるぞ!
『キムカツ』http://www.kimukatsu.com
『きんときや』http://www.kintokiya.co.jp
『ジョアン』http://www.johan.co.jp/