よりどりみどり〜Life Style Selection〜


灼熱のYoga

3年ほど前からの『パワーヨガ』にハマっている。瞑想から始まって、一つ一つのポーズをゆっくり行う元祖ヨガと違って、ポーズを連動して行うことによって、筋力トレーニング性も取り入れた、ガツン! と男前なヨガである。トレーニング歴10数年の私には、ぴったりのシロモノだ。名前に“パワー”と付くところがまたいい。

ヨガが話題になり始めた頃、たまたま通っていたスポーツクラブでクラスがスタートし、体験に参加して、すぐに気に入ってしまった。エアロビクスのように激しく動くわけではないのに、体からジワジワと汗が出てくるし、ひねったり伸ばしたりの多いヨガのポーズのお陰で、全身の血の巡り、リンパの廻りがよくなる。内臓も活性化される。そしてここがポイントなのだが、足や腕の筋力を必要とするポーズや動きが多いので、始めはかなりの筋肉痛になる。言い方を変えると、“効く”のである。基本に『太陽礼拝のポーズ』という、一連の動きがあるのだが、それをやるだけで、足の裏側、二の腕、背中、胸、腰のトレーングになる。

マシントレーニングに飽きてきていた私は、日々の運動のベースを、この『パワーヨガ』に切り替えた。インストラクター歴14年の赤沼直美さんという、しっかりと教えてくれる優秀な先生に出会えたのもラッキーだった。半年ほどレッスンに通えば、自宅でも自分のペースでできるので、忙しくてなかなか定期的に通えない私には、まさにピッタリのエクササイズだ。ヨガがこんなにブームになるとは思わなかったが、一足早く始めた分、ちょっと優越感?

ところがこの5月の中旬、いつものように新聞の折り込みチラシをチェックしていたら、『BIKRAM YOGA6月オープン!』と書かれたブルーのチラシが目に飛び込んできた。ビクラムヨガって何? 読んでみると、

「室温摂氏40度、湿度55%の環境で、厳選された26のポーズを行う、日本でブームになっているヨガの元祖です」

と書いてあった。ま、早い話が『ホットヨガ』の元祖らしい。インド人のビクラム・チョードリーという人が発案し、30年以上前にビバリーヒルズにヨガ・スタジオをオープンして、ハリウッドのセレブにも人気なんだそうだ。生徒に、マドンナとかブルック・シールズ、ニクソン元大統領なんかの名前が出ていた。まあ、このハリウッド・セレブというやつは、『パワーヨガ』『ハリウッドヨガ』などにも名を連ねているので、どこまで本当に通っていたのかは、怪しい。体験で1回来たとか、友達と来たことがある、程度でもこのぐらいの書き方になるからね。

『ホットヨガ』というのは、室温の高い中でやることによって筋肉や関節が柔らかくなり、よりポーズをとりやすく、また血流がよくなるという効果を目的としている。しかし、どう考えても暑いよね。汗をダラダラ流しながらヨガなんて、辛すぎないか? だいたい、サウナの中で運動をするのは危険だからやめましょう、という注意書きがあるくらいなのに、いいんだろうか?(ま、サウナほどの温度ではありませんが……)もともと私は、サウナさえも好きではないほうなので、これまであまり興味がなかった。

しかし、世界に1500以上スタジオがある最大級のヨガチェーン『BIKRAM YOGA』が日本に上陸し、広尾にもオープンするというのだ。私の家から歩いて15分という近さだった。しかも、5月中に会員になれば、入会金がタダ、レッスンチケットが永久に10%Offになるというのだ。これは、入るっきゃないしょう! だって、1回やってみて、嫌だったらそれでやめても、全く損はないんだもん。暑いところで運動なんかしたくない。サウナは嫌い……と、否定的な要素満載ではあるが、取り敢えず、これだけブームになるには、何かいいことがあるはず。それは一度体験してみにゃわからん! ……入会金無料の一文字で、私の好奇心がムクムクと芽生えた。我ながらわかりやすい性格である。そしてそこに、もっとわかりやすい性格の親友のY子が便乗してきた。

「あっ! 私もやる! ヨガ、やってみたかったのよ。なんかそれ、私に向いてるかも!」

何を以て向いてると判断したのかはわからないが、Y子はすっかり乗り気。さっそくウエアを買い、「もう、家でも来てるの、ルンルン!」と、わけのわからないことを言って浮かれている。それでも、40℃+湿度55%には、さすがにビビっているらしく、

「あのさ、私は北海道出身ってことにしといてくれる?」

と、既に言い訳まで考えていた。ちなみにY子はバリバリの沖縄人。確かに、沖縄の人間が40℃ぐらいでビビっているのはおかしい。わかった、わかった、あんたのつぶらな瞳は、アイヌの血ってことにしといてあげる。

私は『パワーヨガ』の経験もあるからいいが、Y子は普段からほとんど運動をしていない。いきなりスタジオで倒れたら危ないので、とにかく一緒の日にレッスンに行くことにした。

定員30人のスタジオは、想像以上に暑かった。湿気のあるモワ〜ンとした感じは、ガルーダ・インドネシア航空機で、バリ島のデンパサール空港に着いたときの感じ。インストラクターのお姉さんは、ビキニ? と思ってしまうほどの格好で登場した。それだけで、灼熱地獄絵図が浮かんでしまう。レッスン時間は90分。結構長いぞ〜!

「あのさ、苦しかったら無理しないで休みなね。外に出ても大丈夫だから」

一瞬、スタジオで失神して運ばれていくY子の姿が浮かび、自分も初心者のくせに、やたらとY子にアドバイスなんかしてしまう私。

「うん、わかった」

妙に素直なY子。そしてレッスンが始まった。
最初は呼吸から。基本がハタヨガなので、深いハタ式呼吸を立ったままで行う。ス〜〜〜! ハ〜〜〜〜! ウワッ! これだけでもう全身から汗が吹き出して来た。なんなんだ、これは! レッスンには、バスタオル2枚(1枚はヨガマットの上に敷くため)とフェイスタオル1枚、ミネラルウオーター1000ml1本が付いている。慌ててミネラルウオーターを飲んだら、あんなに冷えていたのに、もうぬるくなっていた。

呼吸に続いて、体側や体全体を伸ばすポーズを行い、バランス系のポーズを2セットずつ、次から次へととっていく。インストラクターは、わけのわからない言葉(たぶんヒンズー語。ポーズの名前だろう)を織り込みながら、立て続けに言葉を発し、我々生徒を追い込んでいく。

「はい、もっと引っ張って、引っ張って! 上に上に……5、4、3! ……ハイ!」

ってな感じ。息つく暇もなく次のポーズへと進む。前半がバランス系、後半は座っての、いかにもヨガっぽいポーズ。この頃になると、汗はもうしたたるくらいになり、タンクトップもびしょびしょ。しかし、暑い〜! とか、辛い〜! とか考える間もなくポーズが続くので、鏡に映る己の姿を見てポーズを取ることでいっぱいいっぱいで、そんなこと愚痴っている余裕はなかった。隣のY子も懸命にチャレンジしている。

「大丈夫?」
「うん、平気!」

北海道も沖縄もないといった真剣な表情で頑張っていた。やるじゃん!

後半の座りのポーズは、体の柔らかさを競うのではなく、内臓を自分のペースで刺激していく、『BIKRAM YOGA』の効果がいちばんわかるものらしい。後ろを向いて休みのポーズを入れ、また前を向いてポーズをとり、また後ろを向き……と、慌ただしいが、確かに内臓にはよさそうだ。タオルで全身の汗をぬぐい、生ぬるいミネラルウオーターを飲みながら、100分(ホントは90分だが10分延長になった)ノンストップのレッスンは無事に終了した。もちろん、Y子も完走!  偉いぞ!

確かに、ものすごく暑かった。すっごい汗だった。ふだんあまり汗をかかない私なので、たぶん今までの人生でいちばんの汗をかいたと思う。さぞかしグッタリしただろうって? ……いやいやそれが、意外に爽快なのだ。説明にあったように、筋肉や関節に負担が少ない分、疲労しないのかもしれない。『パワーヨガ』60分のほうがずっと疲れる。

この暑さの中で行うことで、背中の歪みや体のバランスも整いやすくなるのだそうだ。『パワーヨガ』が攻めのヨガなら、『BIKRAM YOGA』は守り、補修のヨガといったところか。攻守ともによくなれば、それに越したことはない。う〜ん、『BIKRAM YOGA』、悪くないかも……。

ちなみに、翌日Y子は、ものすごい筋肉痛だと騒いでいた。

「立ったり座ったりするたびに、すごく痛いの。これってさ、すぐまたやれば、治るんじゃない? 今週、いつ行く?」

うあわ! すっげえやる気になってる!
さて、『BIKRAM YOGA』の効果がどのように現れるか、タイプの違うモルモット2匹の臨床結果をお楽しみに!

『BIKRAM YOGA』 http://bikramyoga-japan.com/
『lululemon athletica』 http://www.lululemon.com/