遊覧船。順番に運転をさせてくれるサービスがある。




夕食の「伊勢エビコース」。ひとりずつ、伊勢エビのお刺身がつく。




「東海館」の座敷に飾られている、明治・大正の頃の雛壇。




「東海館」の4階は、展望室になっている。



昨年はロス、ベガスに始まりロンドン、釧路、広島、富山などたくさんのところに旅行へ行く機会があったが、それって本当に珍しいことで、基本的にインドアな人間の私は、都内から出ることも滅多にない。

外出自体があまり好きではないのだが、中途半端に出かけるのは嫌いだけど、日常から切り離される旅行はやっぱり好きである。ただ旅行って、やはりダイエッターにとってはかなりの脅威ではあると思う。だって旅行の楽しみって、観光スポットを回ることと、あとは食事であろう。

観光する時にとにかくメチャクチャ歩く、という点ではダイエットに有利だが、とにかくメチャクチャ食べる、という点において、ダイエットには向かない。「別にそんなに食べなければいいじゃん」と言われればその通りなのだが、海外ならばその土地の珍しいのもを食べたりするし、国内ならやはりその土地の「名物」なんか食べたくなる。

海へ行けば魚は美味しいし、山へ行けば山菜が美味しい。何より、旅行というのはすべての食事が「外食」になるわけで、それを三食しっかり食べれば、どうしたってポイントオーバーは免れない。その上、アルコールが付く場合がほとんどで、「旅先」という非日常空間では、「今日くらいダイエットなんて気にしないで食べてしまおう!」という気持ちにあっさりなってしまう。

昨年、連載が終了した途端、なぜか旅行の予定が次々に入り、それも私が痩せなかった理由のひとつだと思うのだが、ここ数か月は都内から一歩も出ずに生活し、体重もとりあえず安定した数字を保っている。

ところが今週、再び旅行に出てしまったのだ。行き先は「伊東」。知り合いから「たまには温泉にでも行かない?」と誘われ、ほいほいと行って来てしまいました。伊東というのは、特に観光スポットがない場所で、本当に「温泉に入る」ために行った旅行である。出発も昼からとゆっくりで、その日の食事は電車の中で弁当を食べる、というスタートになった。

伊東へは踊り子号に乗るため、品川駅で一緒に行く人と待ち合わせた。お弁当は駅弁ではなく、その人が適当に買ってくると言っていたので、何も買わずに待っていると、何と昼間からとんかつ屋の「ミックスフライ弁当」を買ってきてくれた。エビフライと小さ目のトンカツと、それにクリームコロッケが入っている。

旅館の夜のメニューは「伊勢エビコース」で、そちらが結構な量であることは想像するに難くない。恐らく、夜の食事だけでポイントオーバーしてもおかしくないくらいだろう。だからお昼は控え目に…と考えていたのだが、本気でそう思っているなら、人任せにせず、自分で買えばいいものを、すでにその辺りから「旅行」という非日常の感覚に陥っているのだ。それでもとりあえずご飯を半分残し、差し出されたお煎餅などは遠慮して、伊東へ到着する。

伊東は本当に何もないところで、遊覧船があるくらいだ。2時には着いてしまったので、その遊覧船に乗ることにした。天気がよかったので気持ちよかったが、富士山が見えるほどの天気ではなく、どうも中途半端な感じが残る。ただ、順番に船を運転させてくれるというサービスがあり、それだけが印象的だった。

旅館は駅から歩いてすぐの商店街の中にあり、着いてすぐに温泉へ。実は私は特別「温泉」に対する愛情はない。「広いお風呂」という程度の認識しかなく、効能がどうのということにもあまり興味がないし、普段もダイエットのために腰湯と称して長々と入ることはあるが、多分本来はあまり長風呂が好きなほうではないと思う。

早々とお風呂に入り、早々に食事を運んでもらうと、確かに「伊勢エビコース」らしく、大きなエビのお刺身が出てきたが、「エビづくし」という程ではなく、焼き魚、煮物、刺身、和え物など淡白なメニューである。唯一の油ものは天ぷらで、ここにもエビが入っていたが、他は野菜ばかり。

一緒に行った人がお酒を飲まない人なので、ふたりでビールを一本飲んで、ご飯は軽く一杯で済ませると、食べ終わったとき「やばい、食べ過ぎた!」と思うほどの満腹感はなく、ほどよい量で終わることができた。

これは旅先では結構な奇跡である。せっかく温泉に来たというのに、その後はひたすら喋りまくり、ダラダラと夜中まで過ごしたため、寝るときにはお腹もこなれていて、これなら体重に影響がないかも…と安心して眠りについた。

次の日は唯一の観光地である「東海館」へ出かける。昭和初期に建った旅館で、今は地元の資料館になっているという。建物そのものが古いため、それ自体が「資料」ということらしい。与謝野晶子など著名な作家が逗留したこともあるらしく、それらのものが資料として残っていた。

古い建物なのに4階まであり、展望室まで備え付けらていることから、当時としてはかなり大きな旅館だったのだろうと思われた。座敷には明治、大正の頃の雛壇が飾られ、趣のある場所である。

お互い仕事があるため、「東海館」を見てすぐに東京へ帰って来た。朝食は焼き魚や茶碗蒸しなど結構豪華だったので、東京へ着いてから駅のうどんを食べて解散となった。

まっすぐに家に帰った私は、とりあえずすぐに体重計に乗ってみる。結果は「1kg増」だった。朝昼食を食べた後の「1kg増」である。これって旅行での食事が全然影響しなかったと思っていいのではないだろうか。実際、次の日にはすぐもとの体重に戻っていたし。

やはりお酒を飲まなかったことがよかったのか、量は多くても淡白なメニューだったのがよかったのか、ある程度歩いたことで食べた分を消費できたのか、多分、そのどれもがよかったのだろうと思うが、昨年、旅行に出るたび「太る危機」を経験した私にとっては大いなる成果である。

今年も、もし去年みたいに旅行へ行くチャンスに恵まれたら、今回の結果を忘れず、非日常空間の中でも心を引き締めて、ダイエッターとして正しい旅の過ごし方を見出して行きたいと思う。