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「女房にも“勝子”と改名しろと言ったんですが“死んでも嫌です”と抵抗されましてね。で、しかたがないから、飼い犬の名前をカツにしました」
最初は冗談かと思って聞いていた私だが、彼の表情は真剣そのもの。ギャンブラーたるもの、そういうことをおろそかにしていては絶対に勝てないのだ、と彼は力説した。
確かに、ギャンブルの勝ち負けを支配するのは、最終的には技術や経験ではない。“ツキ”という人知では測れない何か、である。ギャンブラーは、自分のツキのバイオリズムを知り、それに合わせて勝負をコントロールするべきであり、技術や確率論に頼って押しまくるのは、プロェフッショナルとはいえないと、勝部さんは言う。
「ギャンブルに限らず、勝負に臨むときにいちばん大切なものは気合いです。気合いがあれば、幸運を呼び込める。だから、ギャンブラーはジンクスにこだわるんですよ。気合いをそがれるような縁起の悪いことは、勝負のときにはできるだけ避けたい、ということなんです」
勝部さんが言うように、ギャンブラーの世界にジンクスは欠かせない。日本古来のギャンブラーである博徒の世界でも“ゲンかつぎ”はさまざまな形で行われてきた。たとえば言葉。結婚式のスピーチではないけれど、博徒にとって「去る」「する」「ない」などは縁起が悪いとされ禁句だった。
そのため、猿を「エテ」、するめを「アタリメ」、ひげを剃るを「ひげをあたる」などと、日常でも言い換えて使っていた。
また、鉄砲の弾は「当たる」から縁起がいいと持ち歩いたり、カツレツを食べると「勝つ」から縁起がいいとするなど、ギャンブラーの世界には、勝部さんの“勝造”のようにゴロ合わせによるゲンかつぎがたくさんある。
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