読者のみなさんは、数あるカジノゲームの中でも大金が動くことで有名な「バカラ」というゲームをご存じだろうか。バカラをちょっと乱暴に説明すると、白か黒かのどちらかひとつを選んで賭けるようなものだ。二者択一のとても単純なゲームだが、単純ゆえにこれがどっぷりとハマる。

 

世界中の大金持ちが集まったバカラの夜

ラスベガスのシーザスパレスというカジノホテルの『大バカラ』は、ハイローラー(大金を賭ける人たち)が集まることで有名だ。今から7年前の1月のある日、シーザスパレスはいつにも増して賑わい、世界各国の大金持ちゲストが大集合していた。全部で16人座れる『大バカラ』のテーブルには、アメリカはもちろんイギリス、カナダ、フランス、インド、中国のゲストたちが座り、その中で日本人は、私たったひとり。しかも女性は私だけだった。

私が座ったのは、最低賭け金が約1万円(100 ドル)で、上は上限なし。つまり10分もかからない勝負1回につき約1万円かかるという高額のテーブルである。だが、その日はいつにも増して大金を賭けた勝負が行われており、他のゲストたちを見ると、最低賭け金が1回5〜6百万円から1千万円という凄まじさ。そんな大金持ちゲストたちに囲まれながら、私はちびちびと1回1万円〜5万円ずつを賭けていた。

 

 

 

この日の私はツキまくっていた
 

バカラに限らず、ギャンブルはいかに自分のペースを守るかで、勝負が決まる。自分のバイオリズムを考えながら慎重に賭けていた人が、隣に大賭けをする人間が座ったためにペースが狂い、結局負けてしまった、という話をよく聞く。これはいわゆる「あおられる」状態で、自分のペースで少しずつ賭けていた人が、つい隣の人にあおられて、分不相応な賭けをし、負けてしまった……ということである。

この日の私もケチケチと数万円ずつ賭けていたのだが、周りで高額勝負をやっているにも関わらず、意外にマイペースでゲームを進めることができた。と、いうのも隣近所も真向かいも、賭け金は1回に数千万円単位。ここまで財力に開きがあると、周囲にあおられようもない。
ゆえに自分のペースを守れたのだが、そのためかどうか、この日の私はツキまくっていた。3回勝っては1回負け、次には5回勝ち……という調子で、わずか1時間後には100万円以上勝っていたのである。

 

 

 

 

億単位の賭け金を背負ってカードを引いた私

そんな私に比べ、お金持ちのゲストたちは、みな揃いも揃って絶不調だった。1回ごとに1億円を越すチップが、どんどんカジノ側に吸い上げられていた。そのうち、マハラジャ風のインド人のおじさんが、突然立ち上って私を指差し、大声で叫んだ。
「彼女と同じところに賭けろ! 彼女にカードを引かせろ!」

『大バカラ』というゲームでは、ディーラーではなくお客がカードを引いて勝負をする。カードを引くには、順番やルールがあるのだが、他のお客が納得すれば、同じ人間が続けてカードを引くこともある。お金持ちゲストたちは、ツキのある私に賭けるポストを選ばせ、カードを引かせようというのだった。これまでもしばしば私は全ゲストを代表してカードを引いたことがあったが、さすがにこの日のように数千万単位の勝負をしたことはない。

あろうことか、私が代表してカードを引くことを承諾したとたん、お金持ちゲストたちはそれまでの負けを一気に取り戻そうと、それまでの数倍の金額を一斉に賭けたのである。どちらかといえば度胸には自信のある私だが、さすがにこのときは緊張した。私の考えにトータル3億を超えるお金がかかるのである。だが、たとえ私が負けても、勝手に私に乗った人が悪いんだから、と自分に言い聞かせ、私はカードを引いた。

 

 

 

4億のお金がたった10分で泡と消え……

私が代表となって第1回目の勝負は、私の勝ちだった。マハラジャおじさんは1億円を取り戻し、狂喜乱舞の様相だった。
第2回目。私がカードを引くときには、全員が総立ち。腕を振り回し、それぞれのお国言葉でエールを送ってくれた。私はゆっくりと時間をかけてカードをめくり、そして……勝った。

私にまだツキがあると見た大金持ちゲストたちは、そのほとんどが賭け金をつり上げた。マハラジャおじさんも調子にのって、2億円ほどをテーブルに置いた。「ちょっと待ってよ。本来ならここが引き時でしょ?」と、思ったのだが、今さら後にも引けず、3回めのカードを……。
そして案の定……負けた。

「おおおおおぉぉぉ」マハラジャおじさんの嘆きはすごかった。
なにしろ、おじさんにとっては、この日いちばんの大勝負だったからである。いたたまれなくなった私は、みなに挨拶してさっさとテーブルを立つことにした。私の責任でトータル4億円近くを、たった10分で失くしたとなれば、さすがに居心地が悪い。だがその一方で、人のお金とはいえ数億円の勝負ができたことに満足感を覚えてもいた。

ちなみにこの3回の勝負で、私が勝ったのは2万円、負けたのが1万円。差し引き1万円のプラスであった。