LADYWEB講座|Lady's Clinic

ドクター河村のレディース・クリニック


質問 卵巣嚢腫が見つかりましたが、手術が必要でしょうか?
先日会社の婦人科検診で、偶然卵巣嚢腫が見つかりました。精密検査のため病院へ行くよう指示されましたが、手術が必要なのでしょうか? 大きさは4cmくらいで、中身は水のようなものだろうといわれました。普段下腹痛も特にありません。できれば、お腹に傷をつけたくないのですが。(M子・30歳)


回答 手術必要性は、悪性の疑いがないか、大きさはどうかなど総合的に判断します
卵巣嚢腫とは、卵巣内に内容物が詰まった袋状のものができて卵巣が腫れる良性の病気です。内容物として透明な液体(漿液性嚢胞腺腫)や、粘液(粘液性嚢胞腺腫)、あるいは脂肪(皮様嚢胞腫:毛髪、歯、骨などの組織も入っている)などがよく認められます。

また、子宮内膜症という病気により、茶褐色の血液が貯留して卵巣が腫れた場合にはチョコレート嚢腫と呼んでいます。卵巣が腫れている場合にまず問題となるのは、その卵巣の腫れが、たまたま一時的に生じているだけなのか、それとも「卵巣嚢腫」という病気が本当にできてしまったのか、ということです。

排卵している女性は、排卵期になると誰でも2cm程度の卵子が入った水たまりの袋(卵胞)ができます。これは健常な証拠ですが、排卵しないまま卵胞がさらに大きく腫れたり、排卵後に腫れたりすることがあります。これらの場合には、卵巣の腫れは一時的であり、多くは時間とともに縮小し自然に治ります。一時的ではなく卵巣が腫れている場合にもっとも問題となるのは、それが良性かどうか、ということです。卵巣が腫れている場合には、悪性のもの(いわゆる卵巣がん)もあるからです。

がんかどうかを正確に診断するためには、組織を顕微鏡で調べ、がん細胞がないかどうかを確認しなければなりませんが、膣から細胞や組織を採取できる子宮と違い、卵巣は完全にお腹の中にあるため、一般的には手術をしないと組織を採取することができません。しかしながら、開腹以外の方法で、ある程度までは良性か悪性かの診断をすることができます。

たとえば、超音波検査、CT検査、MRI検査などの画像診断や、血液検査で腫瘍マーカーというものを調べることにより、がんの疑いがないかどうかを判断します。良性の可能性が極めて高ければ、定期的に経過観察する場合も多いですが、悪性の疑いがある場合には、手術せざるを得ません。画像診断も腫瘍マーカーも、がんの疑いが強いかどうかの目安にはなりますが、がんの確定診断には使えません。

卵巣嚢腫の多くは無症状ですが、大きくなると稀ながら圧迫による症状(腹部膨満感や、下腹部痛、頻尿など)や、卵巣がねじれたり(卵巣のう腫茎捻転)、破裂して激痛が起きることもあります。卵巣嚢腫茎捻転では緊急手術を要します。手術をする必要があるかどうかは、悪性の疑いがないかとか、大きさはどうかなどで総合的に判断することになります。

悪性の場合には、原則的に開腹術となりますが、悪性の疑いがほとんどなく、開腹術を避けたい場合には、腹腔鏡下手術を行うこともケースにより可能です。腹腔鏡下手術で治療できれば、お腹の傷はごくわずかで済み、やがてほとんど目立たなくなります。Mさんの場合、病院でさらに詳しく調べてもらう必要はあるものの、4cmとそれほど大きくなく、また水のようなものがたまっているだけであれば、ただちに手術が必要である可能性は低そうですので、あまり心配せず、婦人科を受診してください。(2003.8.19)