ただ、この雪だるま印を見ると必ず思い出すものが一つある。毛皮のコート。もう10年ぐらい前になるだろうか。バブルとはあんまり無関係な生活を送っていたつもりの私も、今から思えばバブルの世の中にドップリと浸かっていたのだろう。突然、“そうだ! 毛皮のコートを買おう!”と思ってしまったのだ。

でも、そのときは、そんなことに全く気づかなかった。とにかく、いい女は毛皮! とばかり、昔、高級婦人服を扱う仕事をしていた親友のY子に頼み込んで、毛皮店を紹介してもらい、買いに行くときも付き合ってもらった。決して安い買い物ではないので、目の利く人がいてくれないと、変なものを買ってしまいそうで不安だったのだ。そんなとこだけ慎重なのが、既に毛皮の身分ではないのだが……。
迷った挙げ句に、サファイアミンクをタップリ使ったコートを買った。Y子の口利きで半額ぐらいにしてもらっても、小型のファミリーカーが買えるくらいの値段だったから、毛皮自体は上質だ。これだけは今でも納得している。そして、忘れもしないY子の言葉。
「毛皮は1枚持ってると、絶対いいわよ。あまり手入れに気を遣う必要ないし」
ふーん、そうなんだ! 毛皮は手入れが大変かと思っていた。
「雨に濡れても、プルプルッてやればそれでいいしね」
体をプルプル震わせて真顔で言う彼女の言葉に、このあたりまでは、なるほど! と感心しながら聞いていたのだが……
「そのまま土の上に寝転がっても大丈夫よ」
そうなの???
「だって動物の毛でしょ? 動物はみんなそうじゃない?」
それって……絶対違うと思う!!! 私は、とんだ奴をアドバイザーに選んでしまったらしい。
慎重かつ大胆に購入したミンクのコートは、今でもきれいなまま、クローゼットに下がっている。この10年に、いったい何回着ただろう? パーティやら何やらに、確かにお供はしているが、だいたい車で行くので、その役目は助手席のアクセサリー。友達とカラオケパーティをやったときに着ていったら、思いっ切り場違いで、私だけ仕事帰りのホステスみたいだったのを覚えている。知り合いのレストランのオープニング・ディナーに招待されていた日が、たまたま大雪になったときが、唯一スポットを浴びた。ただ、吹雪の中、目黒通りでタクシーを求めてうろうろしている内に、ミンクが雪まみれになり、遭難した雪男みたいな有り様で、どう考えてもゴージャスではなかったけど。

よっしゃ! 来年の冬は、ミンクの出番が多い自分を目指すぞ!