よりどりみどり〜Life Style Selection〜


指輪物語

幸いなことに、私は宝石というものに全く興味がない。

なぜ“幸い”かというと、私は興味のあるもの、好きなものには、心もお金も惜しげなくとことん注ぎ込んでしまう性格だからだ。「もしあんたが大酒飲みの宝石好きな女だったら、とっくに貯金を使い果たしてるわね」」と、友達にもよく言われる。全くその通りだと思う。酒が飲めない体質に産み、宝石に興味を持たない性格に育ててくれた両親に、心から感謝したい。という前に、次々好きなものを買ってしまう、こらえ性のない性格を何とかしろって話であるが……。

大学時代の友人のM子は、大の宝石好きマダムである。学生時代は、豊富な親からの仕送りで、やれオシャレだ、海外旅行だとちゃらちゃらやっていたのに、大学を卒業後、親の言いつけに従って田舎の愛媛に帰り、お見合いで結婚。不本意ながら、慎ましい松山の奥様におさまってしまった。そして、その鬱憤をすべて吐き出すかように、宝石に夢中になり、鑑定士の資格まで取ってしまったのだ。

と言っても、歩く一億円と呼ばれる某女社長のように、両手に石ころぐらいの大きさの指輪をはめて歩いているわけではない。彼女は、弟が経営する宝石店で、ジュエリーアドバイザーとしての頭角をめきめきと現し始めたのだった。

「私はね、自分が宝石大好きだから、お客様の気持ちがよくわかるのよ。これを買ったら、次はこれが欲しくなる、とかね」

なるほど、宝石ってそういうものなのか。M子いわく、最初はみんな小粒のダイヤの指輪を買うけれど、そのうち絶対もっと大きい石がほしくなるし、ダイヤの次はルビーやサファイアといった、色のあるものが欲しくなるんだそうだ。

「いい石はね、やっぱり輝きが違うのよ。見ていて、本当に美しいわよ。なんか、吸い込まれてしまうっていくか……」

M子はうっとりした表情でそう語るが、私には全く理解できない世界だ。そんな私に、彼女はよく電話してきた。

「みどりも一つもっていると、パーティなんかで役に立つわよ。いい宝石は、一つ身につけただけで、存在感が全く違うから」
「そんなもんかしらね〜。まあ、指輪の一つぐらいちゃんとしたのを持っていてもいいような気もするけど」

何気なく言った一言に対する彼女の反応は素早く、1週間もしない内に彼女は、松山から総額数千万の指輪数十個をケースに詰めて、わざわざ私の家まで来てくれたのだ。そんな高額なものを、好き勝手にいじれる機会なんてめったにない。私は友達数人に声をかけ、我が家は、ちょっとした「春の貴金属受注特設会場」となった。「ねえ、いちばん高いのってどれ?」「きゃ〜〜! これで400万円もするんだ!」「ど〜お? お金持ちっぽい?」……ゴージャスな指輪とっかえひっかえはめては、みんな言いたい放題。もちろん、それらを本気で買う気のあるヤツなんて一人もいない。それでもM子は、うれしそうに石の説明などをしてくれた。彼女は心底宝石が好きなのだなあと、しみじみ思った。

画像1そんな彼女の気持ちがうれしかったこともあり、その後、「すごくグレードの高いダイヤが入ったから、これで指輪はどう?」という勧めに従い、私は大粒のダイヤの指輪を一つオーダーすることにした。ちょうどその頃、私は会社を設立したばかりで、まあ、自分へのご褒美という気持ちもあった。ダイヤは私の誕生石でもある。1.04カラット、約6.7ミリの等級VS-2というダイヤを、プラチナのボディにゴールドの爪ではめ込んだ、オリジナルデザインの指輪にしてもらった。

サファイアの指輪のおまけ付きで、国産の小型ファミリーカーが買えるぐらいの値段だったが、それでも半額以下だった。デザインがとても気に入ったせいか、はめてみると、体の一部みたいにしっくりと馴染んだ。そしてそれ以来、本当に体の一部になった。さすがにいい石らしく、宝石に詳しい人はすぐに気づいて褒めてくれる。そんなときにあらためて、ああ、やっぱりいいものはいいんだなあと思う。でも、そんな程度。それ以降も、宝石への興味は一向に膨らんでいない。

ただし、このダイヤの指輪をはめるようになってから、指輪が大好きになった。ここ数年はシルバーアクセサリーがブームで、ロイヤル・オーダーやらローリー・ロドキン、ごっついほうでは、クロム・ハーツ、A&Gなど、デザイン性の高いものが話題を集めている。それに見事にハマってしまった。もともと私は、ピアノとバレーボールで鍛えた逞しい指をしているので、繊細なデザインの指輪は似合わない。ボリュームのある、シルバーもののほうが合うのだ。それに、シルバーは、クラシカルなゴシック調のデザインが多く、これも私の好きな世界である。

そして、1年ほど前に、インターネットでたまたま見つけたのが、インドやインドネシアの、天然石とシルバーを使ったアジアン・ジュエリーだった。アジアものは、チープで質が悪いイメージがあったのだが、どうしてどうして、これがかなりカッコイイのだ。バリのチュルク村は、かつてのバリ王朝の宮廷に仕える宝石職人の町だったとかで、今でも優秀な銀細工の職人が多いらしい。チュルクの作品は仕上げも丁寧で、凝ったデザインと、いぶした感じの銀の輝きが何とも言えない。

また、半貴石ではあるが、ムーンストーンやオニキス、アメジスト、ブルートパーズ、ガーネット、瑪瑙といった石が安く手に入るせいか、大粒の石を使ったものが多いのも魅力だ。特に『PORT SHOP』という、アジアン・ジュエリー専門のネットショップは、他のショップより品揃えが豊富で、珍しい石や上質のデザインのものを選りすぐってある。今や、私のお気に入りの店の一つだ。リクエストに応じてくれたり、おまけとしてもう一つリングやピアスが同封されていたり、サービスも完璧。そして、何よりも値段がものすごく安い。

画像215ミリのムーンストーンがはめ込まれ、細かい細工の施されたポイゾンリングが、なんと2000円ぐらいで手に入るのだ。これには驚きである。10個買っても2万円ですぞ!(当たり前です)気に入ったものが、こんな金額で買えるって、幸せではありませんか? うれしくて、毎日アップされる新着品をチェックし、素敵! と思ったものをホイホイと買っていたら、1年で、シルバーの指輪が50個以上集まってしまった。そして、少しテンションは落ちたものの、まだまだ私のコレクションは増え続けている。何せ、我慢できない性格なもんで……。

毎日、着る服に合わせて、指輪を変える。もちろん、何本かの指に重ねづけするのが基本だ。シルバーは、しばらく身につけないでほったらかしにしておくと、すぐに黒ずんでしまう。そのため、取っ替え引っ替え身につけてあげなきゃならないわけだが、これがまた結構楽しい。

さて、鑑定書付きのヨーロッパの貴公子、ダイヤの指輪はというと、こんなアジアのワイルドな奴らと、文句も言わずにいつも仲良く並んでいる。そして、たまにご主人様がドレスアップしたときに、ひかえ、ひかえ〜!ひかえおろう〜〜! とばかり、晴れやかな姿でひとり燦然と輝くのだ。ピンで勝負できるところは、さすがである。

あれ? これって、何かと似てないか?……そうだ! 遠山の金さんだ!

『PORT SHOP』http://www.rakuten.co.jp/portshop/