「どうってことのない映画なんだけど、サンドラ・ブロックが、よくこの役を受けたなあと思って……ウフフフ」と、意味不明なコメントと笑顔付きで貸してくれた。

その品性の欠ける演技がなかなか絶品で、A女史の言った意味はすぐにわかった。ま、後に美容コンサルタントの手によって、すっばらしい美女に変身するのであるから、下品な演技はそのための伏線。変身後の美しさに自信ありで、サンドラも割り切って熱演したのだろう。
さてこの映画、原題は『Miss CONGENIALITY』という。“CONGENIALITY”って、いったいどういう意味なのかと思って辞書を引いてみると、“相性・適合性”と出ていた。『ミス相性』?……どうもよく意味のわからないタイトルである。しかし、その謎は、映画のラストで見事に解けた。
ミスコンに出る女なんてチャラチャラした馬鹿女ばっかりだと思っていたグレーシーが、捜査でミス○○州なんていう子たちと知り合う内に、みんなそれぞれ悩みを抱きながらも頑張っているのだということを知り、だんだんと心を開き、彼女たちの悩み相談を聞いたりして仲良くなる。そして、無事に事件が解決したとき、みんなから「あなたは、ミス・ベストフレンドよ!」と、タスキをかけてもらうシーン。そのタスキに書かれた文字が、“Miss CONGENIALITY”だったのだ。
なるほどねえ、日本語に訳せば“ミス・ベストフレンド”ってことだったわけか。この映画は、突っ張って女を否定して、友達もなく仕事ばっかりに無気になっていた女の子が、女同士の友情を知り、自分に素直な素敵な女性に目覚めていく……という部分を訴えたかったらしい。でも、サンドラ・ブロックの体当たりの演技を見る限りでは、『デンジャラス・ビューティー』も悪くない思った。
しかし、あまりにもひどい邦題のために、腹が立つこともよくある。最近では、『ミニミニ大作戦』がそうだ。

よくある内容ではあるが、都会の渋滞した道を逃げ切るために、ローバーミニを使うというところがこの映画のミソなのだ。普通だったら車なんか通れない狭い路地や、屋敷の廊下、はたまた階段を走り下り、ホームを走り抜け、ついには地下鉄の線路を疾走。さっそくビデオを借りて観たが、なかなか楽しめる映画だった。
しかし、確かにミニが大活躍するとはいえ、『ミニミニ大作戦』はないだろう! これじゃあ、『黒ひげ大旋風』とか『弥次喜多珍道中』と同じような乗りじゃん! 主役のエリート窃盗団は、ベニスでの快挙から「Italian Job」と呼ばれており、原題はそのまま『Italian Job』……これでいいではないか! 日本の関係者は、エリート窃盗団よりも、ミニの走り回るシーンを強調したかったのだろうが、もし予告映像を観ずに、『ミニミニ大作戦』というタイトルだけだったら、どうせどたばたカーチェイスものだと思って、私は絶対に、ぜ〜ったいに借りなかったと思う。
この映画、ベニスの運河、ロサンゼルス市街で大規模なロケーションを敢行して撮影されたもので、あまりに派手な撮影だったため、今後ベニスでの映画撮影が一切禁止になったとか、ロスの中心街を完全封鎖したカーチェイス撮りでは、30kmの渋滞が起きたそうだ。そう、実写の限界に迫る、金と時間をかけた作品なのだぞ。役者だって、エドワード・ノートン、ドナルド・サザーランドイなんて名前も連ねているのだ。ああ、それなのに……。まあ、ビデオショップでは、それなりの場所に、ずらりとかなりの本数が並んでいるため、たまたまちょっと興味を持ったという方がたくさんいることを、心から祈りたい。
ついでにもう1作。タイトルは『オーロラの彼方へ』である。聞いただけで、おいおい! って感じでしょ? イメージとしては、北欧を舞台にした古くさいラブストーリーか、はたまた『南極物語』風の動物もの? とにかく、似たようなタイトルがありそうで、実にインパクトが薄い。ところがどっこい、この作品は、30年前に死んだ父親と時空を超えて交信し、連続殺人犯を捕まえるというSFサスペンス&ヒューマンドラマの傑作なのだ。

タイム・パラドクスをうまく使った、なかなか面白い作品だ。幼い頃に断たれた父親との絆を、もし再び取り戻すチャンスがあったら……そんな親子の愛を核にした、心温まる作品でもある。そう、『フィールド。オブ・ドリームス』にちょっと似てるかな。だからさあ、『オーロラの彼方へ』なんていう、腑抜けたタイトルじゃあ困るのだよ!
原題は『Frequency』(周波数)。う〜ん、無線の周波数と、途切れていた親子の周波数といったニュアンスだろうが、確かにちょっと堅い。おそらく日本の配給会社も、そう思って変えたのだろうが、それにしても『オーロラの彼方へ』っていうのはどうかと……。少なくとも『Frequency』のままだったほうが、記憶に残るタイトルになったのではないだろうか。
『ミニミニ大作戦』も『オーロラの彼方へ』も、私が友達に薦めたい映画ベスト20に入る。ただし、どちらも説明するときに、「あっ、タイトル聞くとつまらなそうなんだけどさ」といういい訳を用意しなければならないのが、実にかったるい。基本的には、タイトルも含めての作品。どうしてこういうタイトルにしたのかと、監督の胸の内を想像するのも、また楽しみの内だと思う。小技を使って勝手に変えてしまうより、そのままにしておくのが筋ってものなのではないでしょうか。