ここ数日、鏡を見る度に憂鬱になる。
先月からなぜか仕事がだんご状態に重なって、髪を切りに行けないのだ。中途半端に伸びた襟足がうっとうしいし、トップが重たくて、うまくセットがキマらない。前髪も邪魔くさいし、サイドは耳にかかりすぎだし……も〜〜、どこもかしこも気にいら〜ん! この猛暑のせいか、イライラはそろそろ頂点に達してしまいそうである。
私はショートヘアなので、カットをして3週間もすると、襟足のあたりやトップのボリュームのバランスが微妙に崩れてくるのが気になって仕方がない。ショートカットの宿命なのだが、ベストのスタイルを保持している期間と言ったら、恐らく10日間ぐらいしかないのではないかと思う。そして、この微妙な不快感は、なぜか本人にしかわからないらしく、私が「ああ、髪伸びちゃって、うっとうしい!」などとぼやいていても、友達はきょとんとして必ずこう言うのだ。
「何言ってんの? 短いじゃん!」
う〜ん、そういうことじゃないのよね〜〜。問題は長さというより、ちょっとしたバランスなのである。
私はこれまでの人生の大半をショートヘア一筋で生き抜いてきた。だから、このバランスには人一倍こだわりを持っているのだ。髪の量も多く、かなり根性の座った髪質故に、そのバランスが崩れ始めると、とたんに手に負えないわがままヘアになってしまう。トップがちょっとでも重くなってくると、全体的に髪がボワンと膨らみ、鏡の中にいるのは、おばさんヘアの無様な私。いや〜ん、軽やかに跳ねていた毛先はどこに行っちゃったの? イレギュラーにハサミを入れて遊ばせたサイドは、ただのギザギザになってるし……。
私の経験によると、ショートヘアのスタイルの限界は3週間だ。と言っても、なかなかそんなサイクルでカットに行けるわけはなく、頑張っても1か月に1回というペース。そのため、最後の1週間は、気に入らない髪型に四苦八苦する苦痛の毎日となる。早く切りたい! 早く切りたい!……今がまさにそんな時期なのである。
生まれながらのこの髪質故に、私は10代の頃から、美容院、シャンプー、スタイリング剤には相当こだわってきた。サラサラのしなやかな髪だったら、どんなに楽だろうと、何度も己の髪質を恨んだが、こればっかりは顔や肌質と一緒でどうしようもない。少女漫画に出てくる美少女達の、風に揺れるロングヘアや、くりくりの巻き髪、クシュクシュと手ぐしで整えるミディアムヘアや、パーマを生かしたソバージュ、そのすべてが、私の頑固一徹な髪には合わないと気がついた時から、私の研究と戦いは始まったのだ。
いい美容室があると聞けば、すぐに飛んで行った。青山の伊藤五郎から、ショートカットで一世を風靡したモッズヘアへ鞍替えし、そこで担当だった美容師が自分の店をオープンしたので、そちらに移り……。それでも、なかなかこれだ! という納得のヘアスタイルを見つけることはできなかった。雑誌の切り抜き片手に、髪型ジプシーとなって、都内の美容室を10年ぐらいは放浪したような気がする。
私のような根性のある髪を手なずけるには、美容院での完成度を、家でも再現できる、つまりセットの簡単な髪型である必要があった。それには、髪質は当然のこと、私の理想のイメージをちゃんと理解してくれる美容師との出会いしかない。もしあの時代に、今のカリスマ美容師ブームがあったら、私は誰よりも先に予約を入れ、「この髪をなんとかしてみて!」と、挑戦状をたたき付けたことだろう。
しかし、何事も諦めずに頑張れば報われるもので、たまたま雑誌に載っていたスタイルが気に入って行った六本木の美容室で、武井さんという男性の美容師に出会った。彼は当時、そのサロンの店長だったのだが、私の聞き分けの悪い髪を、見事に手なずけてくれたのだ。また、自宅でセットするときのドライヤーの使い方のコツや、スタイリング剤の種類などを教えてくれたので、“サロン帰りのヘアを自宅でも”という、どこかのキャッチコピーみたいな世界が、本当に再現できて、感動したのを覚えている。
以来10数年、私はずっと武井さんにカットしてもらっている。彼が独立して、都心からちょいと離れた郊外に美容室を開店したので、毎月片道1時間かけて、そこまで通い続けているのである。私の住んでいる恵比寿や六本木、青山あたりには、名のある美容室が軒を並べているけれど、どう考えても、私の髪のクセと好みを知り尽くしている彼にかなう美容師がいるとは思えないからだ。
耳を全部出したショートのときは、サイドの内側の髪を少し剃って、髪が浮かないようにするなんていう、私仕様の技を彼は駆使して、いつも私を満足させてくれる。カラーリングも、なかなか色の入りにくい私の髪と根気よくつきあってくれて、理想の色を出してみせた。トリートメントの研究などもしている人なので、髪の痛みにも気を遣ってくれるのが、またうれしい。
今年の春頃から、耳が隠れるくらいにサイドを伸ばし、ちょっと毛先に遊びをつけたスタイルにした。そのときも、全体にハサミを入れて、思いっきり髪を減らしてうまく軽さを出してくれた。
「あとは、ワックスでトップの髪やサイドを跳ねた感じにするともっと軽く見えますよ。髪がしっかりしてるから、硬めのワックスがいいですね」
そんなアドバイスに従って、最近では、ドライヤーで乾かした後、ワックスを全体に付けて、ツンツンと髪を遊ばせるスタイルがとっても気に入っている。もちろん、そのワックスも、「艶のある髪」「マットな仕上がり」「自然にホールド」「ハードにキープ」……なんていう説明書きを手掛かりに、各メーカーのものを試し、やっとこれだ! というものも見つけた。今なら、市販されているスタイリング剤に関しては、たぶんレポートが書けると思う。
シャンプーも、資生堂の「ティアラ」から始まり。同じく資生堂のたまごプロテイン入りの「プロテア」、そして現在は、カネボウの和漢生薬エキス入りの「クローチェ」と、こだわりの逸品を探し求めて来た。
いやはや、ここまで来ると、扱いにくいじゃじゃ馬みたいな自分の髪も、かえってそれなりに愛しく思えてしまう。扱いづらさも、髪質も含めて、これが自分の個性なんだと、何となく納得できたからかも知れない。以前、ストレートパーマをかけようかどうか相談したとき、武井さんがこんな話しをしてくれた。
「ストレートパーマをかけると、本当にまっすぐになりますよ。まっすぐ過ぎて、何だか人形の髪みたいにね。人間の髪は、みんな何らかのクセがあるもんで、それがなくなると、かえって不自然で扱いにくいっていう人、意外と多いんですね」
やっぱり、長年つきあってきた自分の髪がいちばんってことでしょうか。それにしても、そろそろ言うことを聞かなくなった我が相棒のじゃじゃ馬を、早くなんとかしに行かなくては!
先月からなぜか仕事がだんご状態に重なって、髪を切りに行けないのだ。中途半端に伸びた襟足がうっとうしいし、トップが重たくて、うまくセットがキマらない。前髪も邪魔くさいし、サイドは耳にかかりすぎだし……も〜〜、どこもかしこも気にいら〜ん! この猛暑のせいか、イライラはそろそろ頂点に達してしまいそうである。
私はショートヘアなので、カットをして3週間もすると、襟足のあたりやトップのボリュームのバランスが微妙に崩れてくるのが気になって仕方がない。ショートカットの宿命なのだが、ベストのスタイルを保持している期間と言ったら、恐らく10日間ぐらいしかないのではないかと思う。そして、この微妙な不快感は、なぜか本人にしかわからないらしく、私が「ああ、髪伸びちゃって、うっとうしい!」などとぼやいていても、友達はきょとんとして必ずこう言うのだ。
「何言ってんの? 短いじゃん!」
う〜ん、そういうことじゃないのよね〜〜。問題は長さというより、ちょっとしたバランスなのである。
私はこれまでの人生の大半をショートヘア一筋で生き抜いてきた。だから、このバランスには人一倍こだわりを持っているのだ。髪の量も多く、かなり根性の座った髪質故に、そのバランスが崩れ始めると、とたんに手に負えないわがままヘアになってしまう。トップがちょっとでも重くなってくると、全体的に髪がボワンと膨らみ、鏡の中にいるのは、おばさんヘアの無様な私。いや〜ん、軽やかに跳ねていた毛先はどこに行っちゃったの? イレギュラーにハサミを入れて遊ばせたサイドは、ただのギザギザになってるし……。
私の経験によると、ショートヘアのスタイルの限界は3週間だ。と言っても、なかなかそんなサイクルでカットに行けるわけはなく、頑張っても1か月に1回というペース。そのため、最後の1週間は、気に入らない髪型に四苦八苦する苦痛の毎日となる。早く切りたい! 早く切りたい!……今がまさにそんな時期なのである。
生まれながらのこの髪質故に、私は10代の頃から、美容院、シャンプー、スタイリング剤には相当こだわってきた。サラサラのしなやかな髪だったら、どんなに楽だろうと、何度も己の髪質を恨んだが、こればっかりは顔や肌質と一緒でどうしようもない。少女漫画に出てくる美少女達の、風に揺れるロングヘアや、くりくりの巻き髪、クシュクシュと手ぐしで整えるミディアムヘアや、パーマを生かしたソバージュ、そのすべてが、私の頑固一徹な髪には合わないと気がついた時から、私の研究と戦いは始まったのだ。
いい美容室があると聞けば、すぐに飛んで行った。青山の伊藤五郎から、ショートカットで一世を風靡したモッズヘアへ鞍替えし、そこで担当だった美容師が自分の店をオープンしたので、そちらに移り……。それでも、なかなかこれだ! という納得のヘアスタイルを見つけることはできなかった。雑誌の切り抜き片手に、髪型ジプシーとなって、都内の美容室を10年ぐらいは放浪したような気がする。
私のような根性のある髪を手なずけるには、美容院での完成度を、家でも再現できる、つまりセットの簡単な髪型である必要があった。それには、髪質は当然のこと、私の理想のイメージをちゃんと理解してくれる美容師との出会いしかない。もしあの時代に、今のカリスマ美容師ブームがあったら、私は誰よりも先に予約を入れ、「この髪をなんとかしてみて!」と、挑戦状をたたき付けたことだろう。
しかし、何事も諦めずに頑張れば報われるもので、たまたま雑誌に載っていたスタイルが気に入って行った六本木の美容室で、武井さんという男性の美容師に出会った。彼は当時、そのサロンの店長だったのだが、私の聞き分けの悪い髪を、見事に手なずけてくれたのだ。また、自宅でセットするときのドライヤーの使い方のコツや、スタイリング剤の種類などを教えてくれたので、“サロン帰りのヘアを自宅でも”という、どこかのキャッチコピーみたいな世界が、本当に再現できて、感動したのを覚えている。
以来10数年、私はずっと武井さんにカットしてもらっている。彼が独立して、都心からちょいと離れた郊外に美容室を開店したので、毎月片道1時間かけて、そこまで通い続けているのである。私の住んでいる恵比寿や六本木、青山あたりには、名のある美容室が軒を並べているけれど、どう考えても、私の髪のクセと好みを知り尽くしている彼にかなう美容師がいるとは思えないからだ。
耳を全部出したショートのときは、サイドの内側の髪を少し剃って、髪が浮かないようにするなんていう、私仕様の技を彼は駆使して、いつも私を満足させてくれる。カラーリングも、なかなか色の入りにくい私の髪と根気よくつきあってくれて、理想の色を出してみせた。トリートメントの研究などもしている人なので、髪の痛みにも気を遣ってくれるのが、またうれしい。
今年の春頃から、耳が隠れるくらいにサイドを伸ばし、ちょっと毛先に遊びをつけたスタイルにした。そのときも、全体にハサミを入れて、思いっきり髪を減らしてうまく軽さを出してくれた。
「あとは、ワックスでトップの髪やサイドを跳ねた感じにするともっと軽く見えますよ。髪がしっかりしてるから、硬めのワックスがいいですね」
そんなアドバイスに従って、最近では、ドライヤーで乾かした後、ワックスを全体に付けて、ツンツンと髪を遊ばせるスタイルがとっても気に入っている。もちろん、そのワックスも、「艶のある髪」「マットな仕上がり」「自然にホールド」「ハードにキープ」……なんていう説明書きを手掛かりに、各メーカーのものを試し、やっとこれだ! というものも見つけた。今なら、市販されているスタイリング剤に関しては、たぶんレポートが書けると思う。
シャンプーも、資生堂の「ティアラ」から始まり。同じく資生堂のたまごプロテイン入りの「プロテア」、そして現在は、カネボウの和漢生薬エキス入りの「クローチェ」と、こだわりの逸品を探し求めて来た。
いやはや、ここまで来ると、扱いにくいじゃじゃ馬みたいな自分の髪も、かえってそれなりに愛しく思えてしまう。扱いづらさも、髪質も含めて、これが自分の個性なんだと、何となく納得できたからかも知れない。以前、ストレートパーマをかけようかどうか相談したとき、武井さんがこんな話しをしてくれた。
「ストレートパーマをかけると、本当にまっすぐになりますよ。まっすぐ過ぎて、何だか人形の髪みたいにね。人間の髪は、みんな何らかのクセがあるもんで、それがなくなると、かえって不自然で扱いにくいっていう人、意外と多いんですね」
やっぱり、長年つきあってきた自分の髪がいちばんってことでしょうか。それにしても、そろそろ言うことを聞かなくなった我が相棒のじゃじゃ馬を、早くなんとかしに行かなくては!