もともと私は、自他共に認める図太い神経の持ち主であるが、こと睡眠になると、これが意外と神経質なのだ。飛行機の機内でなんか、とてもじゃないけど眠れないし、ベッドのマットが柔らかくてもなかなか寝付けない。一度ロンドンで泊まったホテルのベッドマットが柔らかすぎて眠れず、マットの上に敷いてあるベッドパットを引き抜き、それを床に敷いて寝たことがあるくらいだ。
枕にも、かなりうるさい。高さの高い枕というものが苦手で、ずっと羽毛の枕の中身の羽毛を3分の1ぐらい抜き出して、かなりペチャンコにしたもので寝ていた。ヘタな枕を使うくらいだったら、枕なしで寝たほうがまだマシなくらいなのだ。温泉旅館なんかに必ずある、あのもみ殻の枕なんか、言語道断である。スポンジでパンパンに膨れあがった枕も問題外。この2つは、修学旅行の枕投げの武器以外、私にとってはなんの意味もないシロモノである。強いて言えば、ホテルのベッドで2段重ねになっている内の、ペシャンコのサブピロー(って言うのかどうか知りませんが)が、辛うじてOKかなという感じである。
『大奥』などを見ると、お殿様が漆塗りの木製の箱枕でお休みになっておられるが、あれは見ているだけで首が痛くなってくる。ちょんまげを結っていたからとはいえ、あんなモノでよく眠れたものだと思う。おまけに、布団は肩の下あたりまでしか掛けていないときてる。暖房もない、すきま風だらけの江戸城は、絶対に寒かったに違いない。地球温暖化なんかもまだ始まっていなかった時代だから、今より5℃は気温が低いはずなのに、首まで掛けなくていいんかい? 箱枕と首の段差でできた隙間はすーすーせんのかい? と、よけいなことまで気になってくる。私なんて、冬は鼻あたりまで布団に埋もれてますから……。
とまあ、ちょっと話は逸れてしまったが、とにかく、これだ! と思える枕には、なかなか出会えなかった。
ところが、数年前からの健康ブームで、『正しい睡眠』というものが医学的、人間工学的に叫ばれるようになり、一躍枕くんが脚光を浴び始めた。百貨店の寝具売り場に、枕のフィッティングコーナーが新設され、世界中から集められた様々な素材や高さの枕から、好みに合ったものを選べるようになった。専門のアドバイザーなんていう、よくわからないスタッフも配置され、布団の脇役だった枕くんも、やっと市民権を得た上に、ブランドものまで登場し始めた。
中でも、注目されているのが、テンピュールに代表される、ポリウレタン製の低反発の枕だ。テンピュールの商品は、もともとは1970年に、NASAの研究センターで開発されたモノ。最近は、化粧品から電器製品、枕にいたるまで、この“NASAで開発された”のひと言が、“宮内庁御用達”並の説得力をもっているのだから、面白いやねえ。素材開発の目的は、ロケット打ち上げ時の宇宙飛行士にかかる強烈な加速重力の緩和及び宇宙船内の座席を快適にすることにあったらしい。いわゆる体圧分散素材ってヤツで、手を広げてブニュッと押すと。その形にへこんで戻らないという、密度の高いスポンジみたいなあれである。形も、首に沿った曲線になっているので、首の骨に負担がかからないというのが売り文句。
実際、この低反発枕で安眠をゲットした方々は多いらしく、見た目、質実剛健、いかにも“NASA!”の枕は、大人気のようだ。たぶん、体にはすごくいいのだろう。
しかし、私はこの低反発枕というやつも、どうも好きになれなかった。イマイチ枕本来のふわっと感に欠けるのと、自分がクッキーのタネになったみたいな型押し感覚がしっくりこないのだ。だいたい、枕の形に合わせて寝るというのが気に入らない。ご主人様はこの私なんだから、枕くん、キミが合わせなさい! である。体圧分散式は間違いなくいいのだから、その辺を、もう少し考えたものがあればいいのにさ……。
と思っていたとき、見つけてしまいました、これだ! という枕。最初に目にしたのは、カタログハウスで毎年出している『ピカイチ事典』だった。日常生活用品の優れものを集めたこのカタログ本の中でも、この枕はダントツ人気の商品だという。見た目もふわっとしていて、何と言っても高さがあまり高くないのがいい。ちょうど首にあたるところには、ウレタンフォームの芯が入っていて、しっかり首を支えてくれる。頭の部分はポリエステル綿で、重みに合わせて沈むような構造になっているらしい。大きさが75センチ×45センチとかなり大きいのも気に入った理由の一つだ。

値段は¥12,800。ネットで探したら、やっぱり安く販売しているところが何か所かあり、私は¥7,800で賢くゲットした。

こうして、現在の私の睡眠環境は、かなり完璧に近くなった。どんな高級ホテルの、超ゴージャスなベッドルームよりも、ウチのベッドで寝るのがいちばん! 次は、もっと寝心地のよいマットを追求して、まさに極楽気分の睡眠を極めてみたいと思う。