よりどりみどり〜Life Style Selection〜


咲いた咲いた、桜が咲いた

3月21日、WBC(ワールドベースボールクラシック)で日本が強敵キューバを10対6で見事に破り、優勝した記念すべき日に、東京で桜が開花した。

私は、桜が大好きだ。4月5日という、桜の花が見事に咲き誇る季節に生まれたせいか、誕生日といえば、桜の花といちごのショートケーキ……そんなイメージが頭にしみついている。さすがにこの年になると、いちごショートでお祝いなんていう、乙女のようなことは仕事に忙殺され、誕生日はいつも気が付かない振りして駆け抜けてしまうことが多い。それでも、取材で武道館に行った帰り、千鳥ヶ淵の夜桜に、しみじみと己の人生を噛みしめることはよくある。

私の名前“緑”は、父親の名前から一文字もらったものであるが、

「春の、とっても緑がきれいな季節に生まれたから、ちょうどいいなあと思ったのよ」

と、母親に言われたことがあり、なるほどなあと思った。それにしても、勢い余って“桜”にしてくれなくてよかった。どう考えても、“桜”っていうキャラじゃないもんなあ。

桜は、国花というだけあって、日本の風景にとてもよく合う。木の丈から枝振り、花の微妙な色合い、そのすべてに和の趣が漂い、日本人にしかわからない侘び寂び、花鳥風月の趣が深い。東京に住んでいると、みごとな桜並木の向こうに、無駄のないフォルムの高層ビル群が建ち並ぶ風景をよく目にするが、強い春風に、桜の花びらが花吹雪となって舞い上がり、無機質なコンクリートとガラスの要塞に、淡いピンク色の霞がかかった瞬間に、何だかホッと救われた気持ちになるのは私だけではないだろう。そんなとき、四季を愛で、自然を慈しむ和の心が、自分の中にも失われずに存在するのだなあと思う。神宮外苑の絵画館前のいちょう並木といい、都会の木立は本当によく頑張ってるなあ。

街のメインストリートや公園に植えられている桜は、そのほとんどがソメイヨシノである。「桜前線」なるものも、このソメイヨシノの開花状況が基準になっているという。このソメイヨシノ、エドヒガンとオオシマザクラの交配種で、江戸末期から明治初期に誕生し、「染井吉野」と命名されたのは明治33年(1900年)らしい。意外に歴史が浅いのには驚いた。接ぎ木だとか挿し木で増やす、いわゆるクローン植物なので、木の成長が早いのと、一斉に開花して華やかだということで一躍桜界のトップスターに躍り出た。特に戦後の荒廃した日本の国土をなんとかせねばと、日本中の街に爆発的な勢いで植林されたため、日本全国に分布する最もポピュラーな桜となったらしい。

しかしこのソメイヨシノ、なんと寿命が60〜70年と短いのだという。20歳〜40歳ぐらいまでは、見事な花を咲かせるのだが、50歳を過ぎると衰えを見せ始め、100年花を咲かせ続けるソメイヨシノなんていうのは、本当に珍しいのだとか。何だか人生とよく似ていませんか? 華やかに咲き誇り、ドラマチックに散っていくその姿に、栄枯盛衰、諸行無常を感じるだけでなく、その存在自体が、生きるということを私たちに教えてくれていたなんて、やっぱり桜って素敵ですね。

だからというわけではないが、数年前、私が手伝っているオーガニックコットンを軸にしたライフスタイルブランド『beluga』で、桜が描かれた有田焼の食器を作った。初秋の頃、有田焼の窯元の人がショップを訪ねてきて、有田焼の食器をおいてくれないか? といきなり言われたのが事の始まり。

「うちはオーガニックコットンのアパレルからスタートしているので、まだ食器までは……」

ショップをやっているといろいろな売り込みが来るので、belugaのCEOである親友のY子は、またか! と思い、じんわりと、しかしきっぱり断った。

「いえ、こういうお店にこそ置いていただきたいんですよ」
「でも、うちはまだ1店舗しかないので、そんなに数を発注できないし」
「いえ、1個からでも注文を受けますから。有田焼には優秀な作家がたくさんいるんです。でも、有田焼というと、5個とか6個セットの結婚式の引き出物のようなイメージが強くて、なかなか1点物の作品に目を向けてもらえない。作家たちには、それが悲しいんです。何かそちらにデザインイメージがあったら、みんな喜んで作ると思います」

意外にも相手は真剣な眼差しで食い下がってきた。

もともとbelugaには、オーガニックコットンという天然素材の魅力を軸に、ライフスタイル全体をプロデュースしていくという目標がある。土という自然素材に人の手のぬくもりと、アーティストの心がこもった器というのは、いつかは手掛けたいものだった。しかも、「1個でも作る」というのは、まだ資金のない我々にはうれしい言葉だ。

「じゃあ、試しに作っていただきましょう」

というわけで、さっそく手頃な湯飲み茶碗から頼むことにした。そのときY子の頭に浮かんだのが桜柄だったのだ。それも、よくあるような、小さな桜の花が散りばめられた柄ではなく、ど〜んと1輪、大きく力強く描かれたもの。しかも、お茶碗の内側にね。

「桜は春の花なので、秋の今、桜っていうのはどうなんでしょう? それに、内側だと、花びらの形なんかも変形しますよ」
「いいんです、季節は。桜は確かに春の象徴だけど、日本人の心の花でもあるでしょう? それは、季節なんて関係ない。私は毎日身近に桜があったらうれしいと思いますよ。お茶碗を手で包み込んで、のぞくと中で大きな桜の花が笑っている。素敵じゃないですか?」
「なるほど! 私らはどうしてもこれまでの常識にとらわれてしまう。そういう発想は、これからの有田焼に必要かもしれません。やってみましょう!」

なんだか安作りのドラマみたいな展開だが、これは嘘偽りのない実話である。こうして、内側で桜が元気に開花している、朱のお茶碗が生まれ、なかなか人気である。この湯飲み茶碗に渋めの煎茶を入れ、桜餅を食べるのは、私にとっての誕生日の儀式になっている。

ついでに、この桜餅の話。今、デパ地下に行くと、桜餅と草餅のオンパレードである。あんこが生クリームよりヘルシーだということから、ここ数年和菓子ブームで、和菓子の老舗も、若者にもアピールできるオシャレな和菓子作りに力を入れているようだ。

私のお気に入りは、近江八幡の和菓子屋『たねや』の桜餅。小振りの道明寺を桜の葉でくるりと巻き、桜の塩漬けがちょこんと付いた、見た目も可愛い逸品である。江戸時代に穀類や種を商っていたというだけに、つやつやした餅米の味や舌触りは絶品。しかも、中はピンク色の桜餡ときている。わざわざ琵琶湖まで行かなくても、都内の百貨店出で手に入るので、一度おためしください。ホント、美味しいですよ〜〜。人に差し上げると、かなりの高得点がもらえますぞ。

また、伊豆は松崎の『梅月園』のさくら葉餠もオススメ。知らない人も多いだろうが、松崎は桜餅になくてはならない桜の葉の塩漬けが特産品で、全国需要の7割を出荷しているのだ。『梅月園』のさくら葉餅は、あんこの入った餅を大きな桜の葉2枚でサンドイッチした、まさに桜の葉を味わうもの。1年中手に入るので、伊豆に行ったときは必ず買って帰ることにしている。

観てよし、味わってまたよし。排気ガスにも耐えて、今年も頑張って開花した桜からパワーをもらうべく、来週、お花見に行ってきま〜す!

『たねや』  https://shop.taneya.co.jp
『梅月園』 http://www.tecoplaza.com/izu/baigetsuen.htm