Kimono Master 山龍
間違えだらけの着物選び私の着物デビューの反響は絶大であった。しかも、まだ2回しか人前に出ていないのにである。友達はみんな口を揃えて「カッコイイ!」と絶賛。「女らしい」でも「清楚」でもなく、「カッコイイ」というところが微妙であるが、洋服における私のキーワードが“カッコイイ”なので、着物でもそういわれるのはかなり嬉しい。山龍師匠にいわせれば、「そんなん、当たり前やん! 僕の着物着て、かっこよくならへん奴はおらんよ」 となるわけで、着ている私のセンスなんていうのはまったく無視である。ちょっと悔しいが、私の初めての着物選びが彼のお陰で大正解だったことは事実だ。私みたいな体験をしたら、ファッションに興味のある女性は、みんな着物を着たくなるだろうし、好きになると思う。それなのに、そういう人が少ないのはなぜだろう? 「それはコーディネイトがダサイから。選び方を間違ってるからやと思うわ」 思えば遠い遠い昔、私が成人式で初めて作ってもらった振り袖も、オレンジに御所車やら花やらがごちゃごちゃ描かれた、相当ダサイしろものだった記憶がある。当時は、着物というのは、ガラスケースに入った絢爛豪華な日本人形みたいなものなんだと思いこんでいたので、似合うとか似合わないなんて関係なかった。振り袖を着る……という非日常的出来事が、それだけで大イベントで、早い話が、仮装大会の延長上みたいなものだったのだ。だから自分のワードローブに着物を加えるなんて、考えつきもしなかった。 「だからな、着物を着るのに成人式とか結婚式いう式服から入るのが、まず間違いなんよ」 今さらいわれても、もう私の青春は取り戻せないが、着物のある生活をエンジョイするのは、今からでも遅くない。というか、今だから、こうやって反響を呼んでいるともいえるし。 そこで、「普段の生活で着物をどんどんかっこよく着て欲しい」という山龍師匠に、失敗しない着物選びを伝授してもらった。 その壱 「飾ってある着物から選ぼうゆうのがアカンの。まず着尺(きじゃく)から選ぶ」 ん? 着尺って何? 「丸巻きしてある反物のこと。まず自分が素敵だなと思う生地を選ぶわけ。着尺は式服やないからね」 着物は洋服と違って、カッティングやフォルムにおけるデザインはどれも変わらない。違うのは、生地と装飾。中でも大事なのは生地選びだということだ。刺繍なども含めて“柄”が命だと思っていたのは、どうやら大きな勘違いだったらしい。 その弐 「着物にしかないような色を選ばない! 失敗せんとこ、と思ったら、洋服と同じ感覚の色を選ぶに限るな」 前にも書いたが、かっこよく着こなすのに、着物と洋服の感覚の違いはまったくない、というのが山龍式着物術だ。色の組み合わせ、コーディネイトもしかり。その教えに従って、私もすんなり着物に馴染めたし、予想以上の好評を博しているから間違いない。 その参 「着物だけに力を入れて選ばない! 予算割合は、帯7:着物3ぐらいにしないと、絶対にダサくなるで」 でも、メインはやっぱり着物のほうでしょ? 「違う。呉服屋は着物を売りたいからそういうねん。着物を着たことない人は、帯は派手なベルトぐらいにしか思ってへんけど、着物はどんな帯をするかで決まってくるんよ」
Kimono Mastar=日本一の作り手の言葉は、やはり説得力が違うのであった。 ヴェルサーチ風かエルメス風か?こうやって、巷に蔓延する着物選びの間違いを並べていくと、自分も含めて、いかに着物に対する知識に無頓着だったかがわかる。洋服を買うときは、まずファッション誌をチェックして流行を知り、買いたいものをリサーチし、ブランドや色まで絞り込んでショップに行くのに、着物に関してはそれをしない。いや、できないのかな……。「参考になるような本もないし、リサーチしようがないから、脳死状態やな(笑)」 笑いごとではありません! すると、山龍極めつけの、最後の間違いチェックが入った。 その四 「色や、目的もそうやけど、着物を着てどんな風に見えたいのかを、店の人にハッキリいわなアカン」 しかし、それが結構難しいのである。「かわいく」とか「きれいに」などという抽象的な表現では曖昧過ぎるし、ヘアサロンのように、モデルの写真の切り抜きを持っていくわけにもいかない。洋服だったら、アルマーニっぽくとか、ベルサーチっぽくという表現でイメージを伝えられるんだけど、というと、意外な返事が返ってきた。 「それでええよ。ブランドのイメージでいってくれたら、テイストがわかりやすい」 もちろん、洋服と和服では表現する世界観が違うが、ブランドからイメージする雰囲気は、着物でも表現できるというのだ。それではと、今回このコラム用に、『エミリオ・プッチ風ファニー』『ヴェルサーチ風ゴージャス』『エルメス風シック』の3つをテーマにしたコーディネイトをしてもらった。(写真参照) 山龍テイストを踏まえた上でのコーディネイトなので、デザイナーの差ほど極端な差はないけれど、プッチ風は、総絞りの大きな楓の葉がファニーだし、ヴェルサーチ風は、ゴールドの龍の帯がいかにもである。そしてエルメス風は、上質の素材感の漂うシックな世界と、なるほどの仕上がり。特に、山龍の本領発揮の世界といえば、本物の素材と職人の技に裏打ちされたメゾンの逸品志向なので、エルメス風のコーディネイトは、思わず目を奪われる素晴らしさであった。これなら、和風『エルメスを来た女神』も夢じゃない。 しかし、当然、金額もエルメス風、いやそれ以上かもしれないわけで……。 よし! 着物選びの達人を目指して指南を受けつつ、今年は絶対宝くじを買うぞ! (2007.1.1)
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