日本サッカーのフィジカル問題に斬り込むゾ!!〜その第1回

前回予告したように、これから何回かにわたって日本サッカーのフィジカルの問題を、専門家の先生にインタビュー形式で教わっていきたいと思います。

ご登場いただくのは、吉備国際大学社会福祉学部健康スポーツ福祉学科教授・竹内研先生です。
竹内教授は幼少の頃からサッカー選手の経験をお持ちで、ウエイトトレーニングの専門家でもあり、東洋武術への造詣と実践も深く、西洋式のフィジカルトレーニングの視点だけでなく、実に多彩な視野で独特の観点からフィジカルトレーニングの研究を続けておられます。

教授 皆さんはじめまして。プロサッカーには直接は関わっていませんが、競技を問わず、アスリートのフィジカルトレーニングをサポートしています。アスリートだけでなく老若男女の健康フィットネスにも力を注いでいます。サッカーはもちろん私のルーツですから、今でも日本代表やJリーグや海外でプレーする選手たちの動向は注視していますよ。

KOH 教授もたいへんご多忙なので、またフィジカルトレーニングというテーマは非常に奥が深いようなので、この新企画、不定期に何回にもわたってお届けすることになると思います。よろしくお願いします。

教授 こちらこそ。

KOH 早速ですが、どうしてもまず最初に伺いたかったことが。
なんで昨年のワールドカップでの日本代表チームは、あんなにコンディションがよさそうでなかったのか? 2006年ドイツ・ワールドカップの総括として、日本サッカー協会が昨年11月「テクニカルレポート」を発表しています。
http://ketto-see.txt-nifty.com/blue_sky_blue/2006/12/post_8b29.html

そして、今年1月に開催された「フットボールカンファレンス」でも、「コンディショニング」の失敗を認めているようです。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/soccer/japan/column/200701/at00011992.html

また、そもそもワールドカップ日本代表のフィジカルコーチが、日本サッカー協会が指導者向けに発行する「テクニカルニュース」の昨年9月号で総括めいたことを記述していて、それを読んだ私たちは怒・怒・怒…正直怒りを禁じえなかったのです。
http://ameblo.jp/futbol/entry-10017675339.html

教授はドイツ大会での日本代表チームの試合をご覧になって、いかが感じられましたか?

教授 「テクニカルレポート」にも触れてありますが、「ピーキング」の問題ですね。あの時点でよかったか悪かったを断言するほどの、資料なり情報を持ち合わせていませんが、大原則的な話としては、トレーニングは「ペリオダイゼーション」と言いますが、「期分け」を抜きにしては語れなんいです。

例えば、まずは「筋肥大」を目指して筋力トレーニングします、次に「筋力を高める」狙いでもってトレーニングします、次に「パワー」を高めます、そして最終的に試合に合わせて「ピーキング」に持って行きます…これは当たり前の話なんです。その「サイクル」をどう作っていくか。

で、それは非常に複雑な構造をしていて、1年で1回ないしは2回の大きな「サイクル」=「マクロサイクル」を想定するんだけど、例えば代表チームの試合というのは何か月に1回しかない、もちろんワールドカップは4年に1回ですね、しかし毎週Jリーグの試合がある、そういう中で、「短いサイクルのプログラミング」から、「中間的なサイクルのプログラミング」、そして「大きなサイクルのプログラミング」ということを同時並行で考えていかざるをえないわけです。ナショナルチーム(代表チーム)のフィジカルコーチという立場からすると、何か月、あるいは1年間を通してはそういう「期分け」「ピリオド」を考えていると思うんだけど、Jリーグのチームのフィジカルコーチはもしかしたら1週間単位かもしれない。これはそれぞれの立場からしてしょうがないんだけど、このすり合わせというのが果たしてどこまであったか、ですよね。

ただ“疲労があった”とか、“ワールドカップへ出発する何週間前までJリーグの試合があった”とか、そういうことだけの問題ではなく、トレーニングに関わっている積極的な立場から言うと、トレーニングの「サイクル」のすり合わせが双方でどれだけ行われていたか? そこに大きな疑問があります。

現状から見ると、選手はよいコンディションだったとは思いますよ。あくまで、“現状から見ると”…“現状の許す範囲では”…ですけど。ところがもっと改善すべきところが大いにある、という印象です。

KOH なるほど。一概にフィジカルコーチけしからん! というわけでもないんですね。う〜む。
もう1つ伺いたいのは、ドイツへ向かう前の国内合宿で、とにかく走り込んでいたというニュースが伝わっていました。私たちからすると、そもそもそんなトレーニングをこの時期にするもんなのかいな? と思ってたんですけど、そのことについてはどう思われますか?

教授 確かにそういう風にも思えますね。これも推察の域を出ないんですけど、やっぱりジーコ監督のブラジルとかのやり方、南米的なやり方と、日本のサッカーというよりもヨーロッパ式…日本のサッカーはやっぱりヨーロッパ式ですからね、そのやり方の違いかな。もしかしたらラテン的には、科学的な筋力トレーニングの意識は薄いかもしれない。

その1つの例でいうとディエゴ・マラドーナであって、身長は低いのにゴッツイ身体をしているのだけれど、あれは筋力トレーニングで造り上げたものではない。人種の違いもあるだろうし、さまざまな気候条件…空気の薄いところでやったりとか、サッカー自体をすることによって、フィジカル自体が彼らなりにある意味野性的な養われ方をしているの“かも”しれない。計画的・意図的なトレーニングというのは薄いと思いますよ。

KOH ほぉ、なるほど。確かに日本サッカーはブラジル人の選手やコーチが非常に多く携わっているけれど、元々はヨーロッパ的ですもんね。私も小学校2年生くらいからサッカーを見てきて、日本サッカー協会の教本とかも子どものくせに眺めたりしてきたけど、どう考えたって根本的にはヨーロッパ的ですもんね。

さて、日本人はフィジカルに劣るとずっと言われ続けています。でも、数値的には日本人が優れているところもあると言いますし、フィジカルっていったって、パワーであるとかスピードであるとか、敏捷性とか瞬発力とか、スタミナであるとか持久力とか、とにかくいろんな要素・側面があることくらい私たち素人でも想像できます。そもそもフィジカル問題というのは、トレーニングで解決していけないものなんでしょうか。

教授 まずね、一言で「フィジカル」というけれど、サッカー選手というのは、大きい選手から小柄な選手までいますよね。それは球技の中では珍しい点です。「筋力」とか「パワー」という時に、骨格と筋力の関係は「テコ」の関係なんですね。したがって、例えば“脚の長いと人”と“脚の短い人”がいた場合、仮に同じ筋力を持っていたとしたら、実際に出てくる脚先のパワーとかスピードとかが違うわけです。そこを踏まえて筋トレのプログラムを「処方」しないと、十把一絡(じゅっぱひとからげ)には行かない。もしかしたら、画一的なトレーニングに終わってしまっているのかもしれない。

Jリーグが開幕する前に各チームがキャンプをするけれど、身長190cm以上の平山と、160cm台の選手が同じようなトレーニングをしているとしたら、これは「オフシーズンの初期」のトレーニングとしてはよいかもしれないけれど…それは、“筋肉を太くしよう”というのが筋トレのスタートだから、その意味において「オフシーズンの初期」のトレーニングとしてはよいかもしれないけど、その後だんだんと試合期に向かって行く段階になったら、もしかすると、よいプログラミングができていないのではないか、ということは思いますね。

平山あたりはキックする時に、見てるほうのイメージとしてモーション的には「ゆっくり」に見えるんだけど、実際の脚先の動きは速いわけですよ。小さい選手はイメージ的には速く見えるんだけど、そうスピードは高くないわけです。で、そこでどうするか。

もう一方で、サッカーはコンタクトスポーツ、身体をぶつけ合うスポーツだから、相手に当たられた時に平山のような身長の高い選手は、関節の「体幹」に近い部分と言ったらいいのかな、ダメージを受けやすいわけです。逆に小さい選手は、そういった部分のダメージは小さいかもしれない。そういうことがまず言えるわけです。

ですから、「体格」…「リム」とも「レバーアーム」とも言うのですが、腕の長さ、脚の長さ、関節というのは「テコ」で言うとその支点、ボールを実際に蹴る足の甲は作用点、筋肉が例えば大腿四頭筋にくっついているところが力点、これら支点から力点まで、力点から作用点までの相互の距離=「テコ」の長さを考慮した筋トレをしなくてはならないわけです。

サッカーは、あれだけ体格差のある選手が揃っているわけです。そこまで考慮したトレーニングプログラムがなされているのか? それをまず1つ思いますね。