日本サッカーのフィジカル問題に斬り込むゾ!!〜その第1回

(続き)

KOH 選手それぞれの体格に応じた、きめ細かな筋力トレーニングが行われているのか、ということですね。

教授 今回は第1回めということで、筋トレの話を進めて行くにおいて必要な概論のお話をさせていただいてるんですが、その2つめのポイントとして…

先にも言ったようにサッカーはコンタクトスポーツであることと、非常にクイックな方向転換とかを強いられるものですよね…。最近「スタビライゼーション・トレーニング」といったり、日本ではサッカーから出てきたのかな? 「ファンクション体操」なんていうのがサッカーの本として翻訳されたりしています。

「スタビライゼーション」というのは、関節の安定性…ベンチプレスを何キロ挙げたとか、スクワットを何キロ担いだとかいう以前に、まず「身体を支える」「骨格・身体を安定させる」能力のことを言うわけです。それを専門的に鍛えるトレーニングのことを「スタビライゼーション・トレーニング」と言います。

「ファンクション体操」というのは、身体をいくつかの「セグメント」「パーツ」に分けるんだけど、それらを最終的には1つの「繋がり」として機能させよう(=function)という狙いでもって行うトレーニングになります。

サッカーにおいては、まずもってこの「スタビライゼーション」が不可欠。コンタクトされても崩れないとか、クイックな動きをするためには、まず自分の重心がピタッと常に安定していないといけないわけです…重心の動揺が大きかったら次のプレーに入っていけない、方向転換すらできない…日本人サッカー選手はその辺の能力がどうなのかな、という気がしています。

結果としてスピードの違いとかで印象的には表れてくるんだけど、スピードというよりも重心をある一点に安定し続ける、そこから1つの方向にパッと動いて行ける…そういう動きを実現するためには、まずもって、筋力的にいうと「スタビライザー」と言いますが、関節や骨格を安定させる筋力、「筋」の働き、筋力の種類としていうと「アイソメトリック」な筋力ですね、今流行の「インナーマッスル」を含めたところの…そういうところの能力が問われるのではないかな。

じゃあ、日本のサッカー選手がそういうトレーニングをしているかどうか。通常のベーシックなマシーンや、バーベルなどのフリーウエイトを使った筋力トレーニングでは、そこは不充分なわけです。

一方で、日本古来の武術などの世界では、そういうトレーニングを凄くしたわけ。「スタビライゼーション」を高めるトレーニングを、もう一度サッカーの世界でとらえ直さないと、ちょっとマズイかなと思います。フィジカルトレーニングを見直す出発点としては。

KOH 「スタビライゼーション」というのは初めて聞きました。今年の1月にセリエAで森本が初ゴールを決めた映像を見て、18歳でも「体幹」が強いな、と思ったんですが、「体幹」という言葉の使い方間違ってません? もし「体幹」が強いという言い方してよいなら、中田英寿なんかもそうだったと思うんですが。

教授 そうですね、間違ってないですよ。「スタビライゼーション」とともに「繋がり」ですね、この両方をヨーロッパではトレーニングします。で、日本人選手で言えば、「スタビライゼーション」に優れているのが中田英寿、「繋がり」に優れているのが中村俊輔でしょうか。

KOH え? 中村俊輔は「スタビライゼーション」に優れているとは、もちろん素人目にも思わないけど、「繋がり」には優れているんですか。

教授 そうですね、比較的日本人選手の中では。一見ふらふらヒョロヒョロしているように見えるでしょう? でも結構「繋がり」はよいですね。だからあんな長い距離のフリーキックを決められたりするんですよ。

KOH ほォ〜。そういうもんですか。今回は第1回ということで、そろそろ時間が迫ってきたのですが、最後にもう1つ質問が。

なんだか日本人選手って、膝の靭帯をやっちゃうことが多いようなんですけど、そんなことないですか? もちろん、世界的に靭帯損傷とか断裂とかよく聞きますけれど、日本人選手は特に多いような気がするんですけど。

教授 それは日本人の「重心」が関係していると思いますよ。日本人は基本的に「反り腰」なんですね。反り腰だと大腿四頭筋に負担がかかるんです。そうすると重心が下がって、膝とつま先の位置関係が悪くなり、ちょっとした接触でも外国の選手よりは膝の靭帯をやる確率が高いわけです。

スポーツ・エアロビックの指導もしているんですが、この前ある選手が脚の前蹴り上げをした瞬間、それだけで靭帯やっちゃいましたから。

KOH なるほど! 日本人の重心が膝の靭帯のケガの多さに関係しているわけですね。ところで、靭帯損傷とかやると、何かすぐに手術してますけど、そういうものなんですか? 日常生活では普通に歩いている程度でも手術してから復帰しますけど。

教授 膝の特に十字靭帯はすぐ手術しますね。

KOH それ、普通?

教授 普通です。

KOH じゃあ、手術だからといって、そんなにビックリこけなくても大丈夫なんですね。全断裂の重傷ならナンだけど。

膝の靭帯で思い出すのが、城彰二ですね。スペインのリーガ・エスパニューラにデビューして2ゴールあげた後に一時帰国して中国との国際Aマッチに出場(2000年3月)して、そこで膝を負傷して、スペインに戻って地元のドクターに“ナンと! 膝の前十字靭帯がない!!”などと診断され、チームとの契約が更新されずに日本に戻ってきたこと。どうやら高校サッカー時代に靭帯を切ってしまって、そのままプレーを続けていたということらしいですが、そんなことってあるんですかね。

教授 まぁ、こういう言い方は適当でないかもしれないけれど、当時の日本のスポーツ医学や高校サッカーの状況だと、そういうこともあったかもしれませんね。城選手には気の毒だったけど。

KOH 本当ですね。おっと、もう行かなきゃ! ですね。ありがとうございました。

教授 これから北京へ飛んで、馬貴派八掛掌と易筋経の大家の Li Bau Hua先生と会ってきます。

KOH お気をつけて。行ってらっしゃい。(2007/4/15)