Kimono Master 山龍の和-ism指南

Kimono Master 山龍
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第13回 正しい絹とのつき合い方

たとう紙疑惑

着物をお持ちの皆さん、着物や帯の保管はどうしてますか?

まったく着物に縁のない生活から、いきなり着物ライフに突入してまだ1年しかたっていない私の場合は、着物も帯も、仕立て上がって来たときに入っていた「たとう紙」(「着物文庫」とも呼ばれる、和紙で作られた着物を包む紙)に包み、厚紙でできた箱に入れて、ベッドルームに積み上げてある。着物にしても帯にしても、まだ数枚しか持っていないので、とりあえずこれで何とかなっているが、あまり自慢できる保管法でないのは確かだ。

そりゃあ、着物用の桐の箪笥があればベストなのはわかる。でも、数枚の着物のために、上等な着物が1枚買えてしまうお値段の箪笥を買う……というのはどうもなあ。

わざわざ部屋に不釣り合いな桐の箪笥を買わなくてもいい、初心者向きの着物の保管法というのはないのだろうか?

「いうとくけどな。最初に入ってきた“おあつらえ”とか書いてあるたとう紙は、業者の納品用のものであって、保管用ではあらへんで」

ご丁寧に薄紙まで中に付いている「たとう紙」。
ご丁寧に薄紙まで中に付いている「たとう紙」。
ご丁寧に薄紙まで中に付いている「たとう紙」。
ご丁寧に薄紙まで中に付いている「たとう紙」。このいかにも“あなたのためのお誂えどすえ”という姿に騙されてはいけない。着物は箱に裸でしまいましょう!
お〜っと! いきなり山龍のダメ出しである。
ちゃんと紐まで付いて、いかにも保管用のような顔をしているのに、たとう紙で保管してはいけないなんて……。しかもネットを見れば、着物の保管用として、同じようなたとう紙が堂々と販売されているのだ。“大切なお着物は、たとう紙に入れておきましょう”と、当たり前のように書いてあるし。

「昭和40年代ぐらいまでは、たとう紙もかなり上質の手漉きの和紙やったからよかったんよ。今の和紙は手漉きやないし、和紙の繊維にアクリル樹脂が混ざっとるから、絹と化学反応を起こしてしまうねん」

危うく、大切な着物をダメにするところだったらしい。おまけに、私が使っていたたとう紙は、内側に、見るからに化繊系の素材でできた薄紙が付いている。何となくそれが上等っぽい気になっていた自分が恥ずかしい。ちなみに、今たとう紙をホンモノの手漉きの和紙で作ったら、紙の原価だけでも2000円くらいかかってしまうそうだ。ネットで売っているもののように、1枚数百円なんて、あり得ない話である。

では、いったいどうやって保管したらいいのか?

「紙の箱に裸で入れる。たとう紙の中に入ってる厚紙だけ使ってその上に着物を乗せて、箱にしまう」

箱が嫌だったら、洋服をしまうチェストでも構わないという。ただし、桐の箪笥のように気密性が高くないので、埃よけとして上に風呂敷を1枚かけるといいそうだ。

「保管いうと、丁寧に丁寧にしまうのがいいと思うてはる人が多いけど、基本的に着物は裸で保管したほうがええの」

なぜならば、絹は生きているからだと山龍。
生きて呼吸しているから、月に1回ぐらい、箱や引き出しに指が1本入るぐらいの隙間を空けて、半日ぐらい、中の空気の入れ換えをする。防虫剤も引き出しに1個入れれば充分だし、もともと防虫効果をもつお香のにおい袋を入れておけばいい。

「みんな、自分の鼻先に防虫剤がぶら下がっとったらうっとうしいやろ? 呼吸も苦しいし。それと同じ!」

絹は生きている

着物の本に書かれている保管法、手入れ法と比べると、山龍のやり方は、非常にアバウトである。しかしそこには、素材を知り尽くし、絹を心から愛している作り手だからこその真実があるわけで、何よりも説得力がある。

まず大切なのは、着た後、きちんと湿気を飛ばしてから畳むこと。
そのために、着物ハンガーに吊して一晩干す。これも、本などを見ると、まことしやかに“風通しのよい場所に吊し……”などと書いてあるが、そんなもん、都会のマンションだったり、湿気の多い梅雨時だったらどうするんや? という話。

山龍のサロンでは、漆塗りの桐箪笥の中で、見事な着物が居心地良さそうに眠っています。
山龍のサロンでは、漆塗りの桐箪笥の中で、見事な着物が居心地良さそうに眠っています。
「今の時代、エアコンを除湿にしたり、除湿器をかければええやろ。手っ取り早く、扇風機を回すというのも手やで」

特に気を付けなければならないのが帯だという。カビが生えてしまったと山龍のところに泣きついてくるもののほとんどが帯なのだそう。帯は芯が入っているので、着物と同じに半日干したぐらいでは、湿気が抜け切れないのである。

「ほどいたら、中の芯がカビだらけいうの、多いで」

ああ、恐ろしい! 気を付けなくちゃ!

シワは、友禅でなければ、スチームアイロンの低温でOK! これも、どの本もみな同じに「アイロンはあて布をして……」とあるが、私の本真綿紬などは、毎回スチームアイロンをかけてもびくともしないのを実証済みである。

「織りもんやったら、アイロンで問題ない。昔の着物に比べて今の着物は、物性品質、染色堅牢度が高いから、全然大丈夫やねん。友禅もんは、熱で染料が落ちるから、あて布せんとあかんけどな」

実際に作っている人の言葉ゆえに、間違いはない。
そして極めつけは、クリーニングの話。

「クリーニングなんて、なるべく出さへんほうがええな。1回着ただけなのに、丸洗いに出すいう人がいたんやけど、ちょっと待てと(笑)。どこか汚れたんやったらともかく、そんなん、干すだけでええんよ」

着物の丸洗いといっても、早い話がドライクリーニング。揮発性の薬品を使うので、生地にいいわけがない。マニキュアの除光液に指を10分ぐらい漬けっぱなしにしたことを想像してみればよくわかる。肌はガサガサになるし、それを繰り返せば、爪までボロボロになるでしょう? それと同じなのだ。洗えば洗うほど、着物は死んでいく……という驚くべき事実がそこにはあるのだ。

「クリーニングいうのは、天然繊維には限りなく苛酷なんよ」

これは、着物に限らず、高級ウールやカシミヤにもいえること。よいものであればあるほど、やたらめったらドライクリーニングなんかに出してはならんのだ。生きている絹の声も聞かずに、自己満足な保管や手入れをしないよう心がけたいものである。

ていねいに手を掛け、大切にしていたつもりが、実は本来の風合いをダメにしていて、一見大雑把で手抜きな方が、素材の良さが守られ引き立つ……着物の扱いは、何だか子育てに似ているなあ。

(2007.10.12)