私は今でこそ、ライターでありながら、広告の仕事をしたり、アパレルブランドのコンセプト・プランナーをやったりと、肩書きの違う名刺をたくさん持つ怪しい女であるが、最初は音楽雑誌のライター&編集者だった。
音楽雑誌のライターの仕事は、ミュージシャンのインタビューやコンサートレポートがメインだ。当然のことながら、服装はいたってカジュアル。何しろ、相手がロックバンドやら、シンガー・ソングライターだから、ジーンズメインのラフな格好で、全然許されてしまう。大学を卒業して社会人になったとたんに、毎日、遊びに行くのか? というような、学生時代よりもお気楽な格好で出かける私を見て、親はさぞかし不安に思ったことだろう。
しかし、ラフな服装ではあったが、オシャレには敏感だった。パンツはイッセイのジョッパーズ、セーターはニコルというように、ブランドカジュアルで固め、絶対に汚らしくならないように心がけた。というのも、音楽雑誌の世界は、どうもみんなオシャレに疎く、バンドの名前が背中にで〜っかく入った、レコード会社からのもらい物のノベルティTシャツに、ヨレヨレジーンズ姿の奴らばかり。それが私は、すごくイヤだったのだ。
服装は、その人のセンスの現れ、はたまた生き方の現れでもある。仕事で、汚い格好、くたびれた姿が許される世界なんてないのだ。河岸のお兄ちゃんだって、カーキ色の迷彩Tシャツなんかをかっこよく着てたりすると、やるな〜! と思ってしまうし、作業着だって、ベルトをしてピシッと着ていると、いかにもプロ! という感じで、信頼度が違う。オシャレはやる気のバロメーターだったりもする。
フリーになって、女性誌の仕事がメインになったときは、ちょっと慌てた。大物女優や、口うるさそうな役者を相手にするのに、カジュアルでは勝負にならない。やはり、それなりにビシッとした服装で臨まねば相手に失礼だし、へたをするとなめられかねない。さて困った。いきなりカチカチのスーツっていうのも何だし、白いブラウスという柄ではないし……。
そんなとき、いいタイミングでファッション界に登場してきたのが、ダナ・キャランやカルバン・クラインといった、キャリア向けのアメリカのデザイナーものである。特にダナ・キャランのセカンドラインである「DKNY(ダナ・キャラン・ニューヨークの略)」は、ダナ・キャランのタイトでシンプルな大人のラインを残しつつ、カジュアルテイストが程よくプラスされていて、まさに私の求めていたデザインテイスト。スーツで持っていれば、ジャケットはジーンズともすこぶる相性がよく、着回しがきくところも、私にはうれしかった。
すぐに、私のクローゼットの中で、DKNYものが幅をきかせ始める。ちょっと長めの細身のジャケット、着心地のいいシンプルなセーターや、レーヨン素材のとろんとしたパンツ、ジーンズのボディコンシャスなワンピースなどなど。私にとってDKNYは、ヤングカジュアルからキャリアへの橋渡しをしてくれたブランドと言ってもいいだろう。
それから、ゴルチェと出会ったり、アルマーニやらソニアやらフェレをちょこちょこつまみ食いしながら現在に至っている。ここ数年、スポーツカジュアルが注目され、ブルゾンやパーカーがパリやミラノのコレクションに堂々と登場するようになって、モードなスポーツテイストも気になる。
そんな矢先、街の情報通、親友のY子が、すごい店を見つけてきた。
「ねえ、聞いてよ。すっごいいい店見つけちゃったの。レディス専門のセレクトショップなんだけど、DKNYやDKNY JEANSのものがたくさん揃ってて、しかも安いのよ! アメリカのアウトレットなんかで買い付けてきてるらしいのね」
その手の店は、これまでにも何件か見たことがあるが、だいたいサイズがないか、デザインが流行遅れだったり、いかにも残り物だったりすることが多い。それを言うと、Y子はもともと大きなまなこを、ますます見開いてまくし立てた。
「それがさ、いいのよデザインが! 日本のDKNYのショップより、いいものがある感じよ。例えば、DKNY JEANSのパーカーなんか、¥6000ぐらいだし……これがそうなんだけどね」
Y子は、自分が着ている、黒に白いラインの入ったシャープなデザインのパーカーを引っ張って見せた。な〜んだ、既に買ってるんじゃん! でも、確かにそのパーカーはデザインが素敵で、どこで買ったのかなあと、彼女に会ったときから気になっていたのだった。
「どこなの、場所は。行こうよ、これから」
「行く? OK! 店には、話してあるから」
ん? どういうこと? と気になったが、私の気持ちは既にDKNYに行っていた。そしてY子は、素早くタクシーに手を挙げた。そのセレクトショップは、六本木の芋洗坂を下った所にある『ラ・プラース六本木』の中にあった。そこは以前にも、ぱっとしない服ばかり揃えた店が入っていたのだが、商売にならないので出て行ったらしく、しばらく『テナント募集中』の張り紙がしてあったところだ。いつの間にか、新しい店が入ったらしい。ショップの名前は『ニューヨーク.B.B.』。
Y子が、まるで自分の店のようにドカドカと店の中に入っていくと、カウンターのところにいた2人の女性が笑顔で迎えた。
「あら、いらっしゃいませ〜〜!」
Y子も笑顔で、私を紹介する。
「友達連れてきたわよ〜〜!」
「あっ、どうも〜! お待ちしてました〜〜〜!」
銀座のクラブの女の子が、常連客を迎えるときは、こんな感じなんだろうなあという、とびっきりの笑顔で、彼女たちが迎えてくれる。さっきの「話してあるから!」とは、こういうことだったのか!
『ニューヨーク.B.B.』の品揃えは、Y子の言うとおりだった。まさに今流行のテイスト。DKNY JEANSの色のきれいなパーカーとパンツのセットや、体にフィットするTシャツが、たくさん並んでいる。サイズも、アメリカサイズの2や4といったものがちゃんとあるではないか。他にも、BCBGやニコラ・ファリ、マイケル・コースといった、アメリカ製のブランドものが程よく揃っている。そして、ここがいちばん大事なのだが、どれもとっても安い!
私が興奮してラックを物色している後ろで、Y子と店の女の子が親しげに話し込んでいた。すでに常連になっているらしい。私も、一緒になって話している内に、すっかり仲良しになってしまった。店長のほうの女性は、通称テンテンというのだが、以前に靴の有名ブランドにいたとかで、エキゾチックな面立ちがカワイイ子だった。洋服の知識もあるし、とにかく話のノリが抜群。
「お客様で、DKNYのことを“ドキニー”って呼ぶ人がいるんですよ。「あら、これもドキニーね」とか。しょうがないから「はい、ドキニーです」って答えてますけど、ウフフ」
なんて笑わせてくれる。そういえば、以前にハワイのリバティ(今は無き百貨店)のショーウインドーに、大きく『DKNY』とペイントされているのを見て、「あれって、ドンキーですか?」と言ったバカ男がいたっけ。
Y子も負けずに、
「うちの母親なんか、おもちゃ屋のTOYZARUS(トイザラス)をトイズラって呼んでるわよ。TOYまで読んで、あとはSURAって後ろから読んじゃうらしいの」
女4人のおとぼけ話は尽きない。そのぐらい居心地のいい楽しい店なのである。かくして、最近また私の周りで、DKNYブーム再燃。おっと、ひとつ言い忘れた。店長テンテンがすまして言ったひと言。
「……それでね、私たちは「DKNY」のことを、どんと来いなんでも屋って呼んでるんですよ、アハハハ!」
D=どんと K=来い N=何でも Y=屋……か! なるほどねえ! 六本木にお越しの際は、是非どんとお立ち寄りください。
音楽雑誌のライターの仕事は、ミュージシャンのインタビューやコンサートレポートがメインだ。当然のことながら、服装はいたってカジュアル。何しろ、相手がロックバンドやら、シンガー・ソングライターだから、ジーンズメインのラフな格好で、全然許されてしまう。大学を卒業して社会人になったとたんに、毎日、遊びに行くのか? というような、学生時代よりもお気楽な格好で出かける私を見て、親はさぞかし不安に思ったことだろう。
しかし、ラフな服装ではあったが、オシャレには敏感だった。パンツはイッセイのジョッパーズ、セーターはニコルというように、ブランドカジュアルで固め、絶対に汚らしくならないように心がけた。というのも、音楽雑誌の世界は、どうもみんなオシャレに疎く、バンドの名前が背中にで〜っかく入った、レコード会社からのもらい物のノベルティTシャツに、ヨレヨレジーンズ姿の奴らばかり。それが私は、すごくイヤだったのだ。
服装は、その人のセンスの現れ、はたまた生き方の現れでもある。仕事で、汚い格好、くたびれた姿が許される世界なんてないのだ。河岸のお兄ちゃんだって、カーキ色の迷彩Tシャツなんかをかっこよく着てたりすると、やるな〜! と思ってしまうし、作業着だって、ベルトをしてピシッと着ていると、いかにもプロ! という感じで、信頼度が違う。オシャレはやる気のバロメーターだったりもする。
フリーになって、女性誌の仕事がメインになったときは、ちょっと慌てた。大物女優や、口うるさそうな役者を相手にするのに、カジュアルでは勝負にならない。やはり、それなりにビシッとした服装で臨まねば相手に失礼だし、へたをするとなめられかねない。さて困った。いきなりカチカチのスーツっていうのも何だし、白いブラウスという柄ではないし……。
そんなとき、いいタイミングでファッション界に登場してきたのが、ダナ・キャランやカルバン・クラインといった、キャリア向けのアメリカのデザイナーものである。特にダナ・キャランのセカンドラインである「DKNY(ダナ・キャラン・ニューヨークの略)」は、ダナ・キャランのタイトでシンプルな大人のラインを残しつつ、カジュアルテイストが程よくプラスされていて、まさに私の求めていたデザインテイスト。スーツで持っていれば、ジャケットはジーンズともすこぶる相性がよく、着回しがきくところも、私にはうれしかった。
すぐに、私のクローゼットの中で、DKNYものが幅をきかせ始める。ちょっと長めの細身のジャケット、着心地のいいシンプルなセーターや、レーヨン素材のとろんとしたパンツ、ジーンズのボディコンシャスなワンピースなどなど。私にとってDKNYは、ヤングカジュアルからキャリアへの橋渡しをしてくれたブランドと言ってもいいだろう。
それから、ゴルチェと出会ったり、アルマーニやらソニアやらフェレをちょこちょこつまみ食いしながら現在に至っている。ここ数年、スポーツカジュアルが注目され、ブルゾンやパーカーがパリやミラノのコレクションに堂々と登場するようになって、モードなスポーツテイストも気になる。
そんな矢先、街の情報通、親友のY子が、すごい店を見つけてきた。
「ねえ、聞いてよ。すっごいいい店見つけちゃったの。レディス専門のセレクトショップなんだけど、DKNYやDKNY JEANSのものがたくさん揃ってて、しかも安いのよ! アメリカのアウトレットなんかで買い付けてきてるらしいのね」
その手の店は、これまでにも何件か見たことがあるが、だいたいサイズがないか、デザインが流行遅れだったり、いかにも残り物だったりすることが多い。それを言うと、Y子はもともと大きなまなこを、ますます見開いてまくし立てた。
「それがさ、いいのよデザインが! 日本のDKNYのショップより、いいものがある感じよ。例えば、DKNY JEANSのパーカーなんか、¥6000ぐらいだし……これがそうなんだけどね」
Y子は、自分が着ている、黒に白いラインの入ったシャープなデザインのパーカーを引っ張って見せた。な〜んだ、既に買ってるんじゃん! でも、確かにそのパーカーはデザインが素敵で、どこで買ったのかなあと、彼女に会ったときから気になっていたのだった。
「どこなの、場所は。行こうよ、これから」
「行く? OK! 店には、話してあるから」
ん? どういうこと? と気になったが、私の気持ちは既にDKNYに行っていた。そしてY子は、素早くタクシーに手を挙げた。そのセレクトショップは、六本木の芋洗坂を下った所にある『ラ・プラース六本木』の中にあった。そこは以前にも、ぱっとしない服ばかり揃えた店が入っていたのだが、商売にならないので出て行ったらしく、しばらく『テナント募集中』の張り紙がしてあったところだ。いつの間にか、新しい店が入ったらしい。ショップの名前は『ニューヨーク.B.B.』。
Y子が、まるで自分の店のようにドカドカと店の中に入っていくと、カウンターのところにいた2人の女性が笑顔で迎えた。
「あら、いらっしゃいませ〜〜!」
Y子も笑顔で、私を紹介する。
「友達連れてきたわよ〜〜!」
「あっ、どうも〜! お待ちしてました〜〜〜!」
銀座のクラブの女の子が、常連客を迎えるときは、こんな感じなんだろうなあという、とびっきりの笑顔で、彼女たちが迎えてくれる。さっきの「話してあるから!」とは、こういうことだったのか!
『ニューヨーク.B.B.』の品揃えは、Y子の言うとおりだった。まさに今流行のテイスト。DKNY JEANSの色のきれいなパーカーとパンツのセットや、体にフィットするTシャツが、たくさん並んでいる。サイズも、アメリカサイズの2や4といったものがちゃんとあるではないか。他にも、BCBGやニコラ・ファリ、マイケル・コースといった、アメリカ製のブランドものが程よく揃っている。そして、ここがいちばん大事なのだが、どれもとっても安い!
私が興奮してラックを物色している後ろで、Y子と店の女の子が親しげに話し込んでいた。すでに常連になっているらしい。私も、一緒になって話している内に、すっかり仲良しになってしまった。店長のほうの女性は、通称テンテンというのだが、以前に靴の有名ブランドにいたとかで、エキゾチックな面立ちがカワイイ子だった。洋服の知識もあるし、とにかく話のノリが抜群。
「お客様で、DKNYのことを“ドキニー”って呼ぶ人がいるんですよ。「あら、これもドキニーね」とか。しょうがないから「はい、ドキニーです」って答えてますけど、ウフフ」
なんて笑わせてくれる。そういえば、以前にハワイのリバティ(今は無き百貨店)のショーウインドーに、大きく『DKNY』とペイントされているのを見て、「あれって、ドンキーですか?」と言ったバカ男がいたっけ。
Y子も負けずに、
「うちの母親なんか、おもちゃ屋のTOYZARUS(トイザラス)をトイズラって呼んでるわよ。TOYまで読んで、あとはSURAって後ろから読んじゃうらしいの」
女4人のおとぼけ話は尽きない。そのぐらい居心地のいい楽しい店なのである。かくして、最近また私の周りで、DKNYブーム再燃。おっと、ひとつ言い忘れた。店長テンテンがすまして言ったひと言。
「……それでね、私たちは「DKNY」のことを、どんと来いなんでも屋って呼んでるんですよ、アハハハ!」
D=どんと K=来い N=何でも Y=屋……か! なるほどねえ! 六本木にお越しの際は、是非どんとお立ち寄りください。
『ニューヨーク.B.B.』03-3796-2526