よりどりみどり〜Life Style Selection〜


琥珀色のときめき

コーヒーが大好きだ。
ラーメンを食べた後でも、お寿司を食べた後でも、できれば締めにコーヒーが飲みたいと思うし、お酒は飲めないけど、コーヒーで一晩つきあえる(周りがきっと嫌がるのでやったことはないが)……というくらい好きだ。朝の香り豊かな目覚めのコーヒー、仕事の合間のくつろぎの1杯、食事の後の満ち足りた1杯……ああ、コーヒーのない人生なんてハッキリ言って考えられない。

生活にコーヒーが欠かせなくなったのは、大学を卒業し、編集の仕事を始めてからである。打ち合わせ、取材、インタビュー、いろいろな場所で、飲みたい飲みたくないに関わらず、所場代のように出されるコーヒーを飲むウチに、なぜだかクセになってしまった。とは言うものの、当時は、どんなコーヒーにも砂糖一つにミルクをたっぷり派だったから、お子ちゃまもいいとこで、まあ、コーヒー好きなんて偉そうに言えるような分際ではなかったと思う。

20代後半になって一人暮らしを始めてからは、お子ちゃまを脱皮して、おフランスの香り漂うカフェオレ派に変わった。カップ半分のミルクを電子レンジで温め、その上から、ペーパードリップで入れた濃いめのコーヒーを注ぐ、1:1の本格派。と言えばカッコイイが、本音を証すと、一人で生活するようになって、健康管理とか栄養バランスなんてもんがやたらと気になり、とりあえず栄養=牛乳という、高校の運動部みたいなワンパターンな発想が根底にあっただけだった。コーヒーを飲むたびに牛乳も消費し、知らないウチに、1日に1000ccの牛乳1パックを飲み干す、ドスコイな女になっていた。現在の、周囲も驚くこの健康体は、もしかしたら、この時代のカフェオレ生活のおかげかもしれない。メルシー ボー クー!

そんな私のコーヒーライフに、衝撃的な出会いが訪れたのは、80年代後半のこと。舞台は、ドラマの取材で行ったニューヨークである。コロンバス通りの72丁目、ジョン・レノンが凶弾に倒れたダコタハウスの並びにある「ホテルオルコット」に泊まっていた私は、たまたますぐ近くに「Cafe Fortuna」というカフェを見つけた。歴史を感じさせるアンティークな内装と、ビルの狭間なのにも関わらず、裏に緑に囲まれた小さな庭があるのが気に入って、時間があると、そのカフェに足を運んだ。

そこでたまたま注文したのが「アイスカプチーノ」。これが、めちゃくちゃ美味しかった! 例えて言うなら、大人のこだわりと、子どもの夢をミックスしたような、それはそれはロマンチックで骨のある飲み物だったのである。甘みを抑えた、カフェオレよりは少しミルク少なめかな? くらいのコーヒーに、たっぷりのクラッシュアイス。その上に生クリームをトッピングし、チョコレートシロップが彩りを添えている。甘さと冷たさと、コーヒーの苦さのバランスが最高で、今でもメニューに「アイスカプチーノ」の文字をみつけると、あのニューヨークを思い出してしまう。

おいしさもさることながら、あの飲み物は、私の「カプチーノ」に対する認識を、大きく覆した。だって、私がそれまで知っていたカプチーノは、コーヒカップの受け皿に、スプーンと一緒に、銀紙の巻かれたシナモンスティックが付いてきて、それでコーヒーをクルクルっと4〜5回かき混ぜて飲むという、へんてこりんな飲み物だったのだ。そう、ズバリ!「シナモンコーヒー」! それが、どうしてアイスになると、こんなにオシャレな飲み物に変わってしまうのか。いったい「カプチーノ」とは、正確にはどんなコーヒーを言うのか。日本に戻ってから、私は必死になって、カプチーノの真実を追い求めた。

それが、今ではどうだ! ドトールコーヒーやらSTARBUCKS、TULLY'SにExcelsiorなどなど、次から次とできたコーヒー専門店のメニューには、当たり前のように「カプチーノ」の名前が載っているではないか。そして、カプチーノと言えば、ローストの深い苦めのコーヒーに、フワフワにホイップしたミルクが乗っているものだということは、ノートパソコンを抱えたビジネスマンから、真っ黒に日焼けしたサーファーギャルまで知っている。世の中変われば変わるもんだ。シナモンスティック添えのコーヒーなんて、場末の純喫茶でもなければお目にかかれない、レアな飲み物になってしまった。回る〜回る〜よ、時代は回る〜〜♪

てなわけで、現在私は、大のカプチーノ党! ここ数年、いかに自宅で美味しいカプチーノを作るかということを、地道に探求し続けている。

まずは、ベースになるコーヒーである。もともと、酸味よりは苦みの強い豆が好きなので、イタリア系のローストの強い苦めのコーヒーが流行り始めたのは喜ばしい限りだ。市販のブレンドを数々試した結果、LAVAZZA(ラバッツア)の「QUALITA ORO(クオリタ・オロ)」という、アラビカ種の豆のブレンドをダークローストし、コクと苦みを出したものが気に入っている。ペーパーフィルターでもエスプレッソ並のコクがでるように、極細挽きになっていて、片岡物産が頑張ったお陰で、最近ではスーパーでも簡単に手に入る。同じラバッツアのエスプレッソ用の豆もあるが、わざわざ手間のかかるエスプレッソを入れなくても、これで充分満足できる。

image01フワフワの泡立ったミルクは、数年前までは、スチームの出る専用のマシンでしか作れなかった。カプチーノとは、とんがったミルクの泡が、カプチン派の僧侶の帽子の形に似ているためにそう名付けられたという話だから、泡立ったミルクは不可欠。だから、耐熱ガラスのハリオから、つまみを上下させて、その先に付いたこし網みたいなもので泡立てる、ガラス製の「カプチーノ・クリーマー」が発売になったときは、すぐに飛びついた。とっても原始的な構造ではあるが、これが意外とよく泡立つ。手首のスナップに自信のある私は、いつもあっという間にミクロの泡を作り上げて、友達に尊敬された。ただし、大人数に作る場合は、腱鞘炎を覚悟しなければならない。

そこで、たくさん人が集まったとき用に、1年前に、ついにデロンギの『Coffeecappuccino』という、普通のドリップも、エスプレッソもカプチーノも入れられるコーヒーメーカーを購入してしまった。これで、一人で毎日飲むときは、クリーマーでカシャカシャ! お客さんが来たら、コーヒーメーカーで一気に入れるという応用が利く。私のカプチーノライフも安泰だ。

そう言えば、一時期私の周辺で、「カフェオレと、カフェラテと、カプチーノはどう違うのか?」という論争が起きたことがあった。やれ、カフェオレとカフェラテはフランス語とイタリア語の違いだけだとか、いや、カプチーノとカフェラテの違いはホイップドミルクの量の違いだとか、勝手な解釈が飛び交って、なかなか白熱したものだ。最終的には、「カフェオレ」は、フレンチローストの濃いめのコーヒーに温めたミルクを同量合わせたいわゆるミルクコーヒー、「カフェラテ」は、エスプレッソに温めたミルクを合わせたもの、「カプチーノ」は、エスプレッソに泡立てたミルクを乗せたもの……何となく、そんな感じでいいんじゃな〜い? ということで決着が着いたのだが、真意の程は定かでない。

かくして、しばらく落ち着いていた私のカプチーノライフだったが、テクノロジーの進歩(?)と共に、またまた恐るべき秘密兵器登場の情報が飛び込んできた。

image02秘密兵器の名は『aerolatte(アエロラッテ)』。早い話が、電動式ミルク泡立て器である。先がコイル状になっていて、単三電池2本を入れて、スイッチをオンにすると、そのコイルが勢いよく回転して、温めたミルクをあっという間に濃厚な泡状にしてしまうのだ。そのパワーたるや、気を付けないと、泡がカップから吹き出し、あたりに飛び散るほど。その早さと、泡のきめ細かくもったりとした感じは、手動では不可能なものだ。

さすがカプチーノの本家イタリア! すごいものを考え出すわい! と思ったら、これが意外にもイギリス製。イギリスと言えば、紅茶の国じゃなかったっけ? 確かに、数年前にロンドンに行ったとき、以前は美味しいコーヒーの飲める店を探すのが大変だったのに、ピカデリーサーカス、コベントガーデンを始め、繁華街に軒並みSTARBUCKSができていたのには驚いた。ついに、コーヒー産業は、英国風アフタヌーンティまで脅かす存在になってしまったのか。回る〜回る〜よ、時代は回る〜〜〜♪

どんどん国境のなくなる昨今の食文化に思いをはせながら、今日も私は、手軽に極上のカプチーノを楽しむことができる幸せに酔いしれている。