よりどりみどり〜Life Style Selection〜


真夜中の会員登録

インターネットはアダルトサイトの力で発達した、という説がある。

もともとインターネットとは、DARPA(米国防総省高等研究計画局)が構築したARPANET(Advanced Research Project Agency Network)が始まりで、国防総省というぐらいだから、その目的は軍事情報の管理だった。この手のテクノロジーの進化の起源をたどると、たいてい“軍事”というところに行き着く。まあ、20世紀のすさまじいテクノロジーの進化は、戦争無なくしてはあり得なかったのだから、やはりインターネット、お前もかという感じだ。

この軍事情報管理を目的としたネットワークが、だんだん大学や研究所と接続されるようになり、それが企業との接続へと拡大して、世界中に拡がるネットワーク環境が出来上がったわけである。この膨大な情報を有するインターネット環境を、いったいどう利用したらよいか、一般庶民には戸惑いがあった。辞書を引くとか、電話で調べる、本で調べるという方法に馴染んでいた身に、いきなりパソコンで検索と言われても、イメージがわかなかったのだ。

ところが、アダルト画像、それも世界中のスッゲエ画像がタダで見れる! という話は、なぜかすぐに一般庶民の隅々にまでリアルなイメージで伝わったらしい。それまで、本屋の片隅でこっそりとのぞき見したり、税関の目をかいくぐって、海外から買ってきたアダルト雑誌を回し見していたスケベ野郎達が、こんなに便利なものはないと飛びついたである。

よりクリアな画像を求め、はたまた修正のぼかしを外すテクニックも習得し、性の探求者達の努力と情熱が、インターネットという文化を急激に定着させたというわけだ。まあ、それだけで現在のインターネット社会が確立されたわけじゃないだろうが、結構当たっている話だと思う。

しかし、テクノロジーの進化に貢献した実績を持つ割には、サイト名にしても、中身にしても、呆れるくらいアホらしいのがこのアダルトサイトってやつである。『女子高生のぞき部屋』『熟女の館』『素っ裸』『オシャレっ子まる見え』……なんだこりゃ! あの日活ロマンポルノの時代から、この手のタイトルは“淫”とか“熟”“妖”“艶”“恥”“姦”“濡”“痴”とかいう漢字が大好き。もう、こういう字が出てきた時点で、淫らな(出た!)雰囲気が漂ってしまうのだから、感心してしまう。

そう言えば、私の友人のNちゃんは、小学生の頃からおませな子で、お母さんが買ってくる婦人雑誌の中に綴じ込みで付いていた「夜の営み」なんていうのをこっそり見て、どきどきしていたそうだ。ところが、国語の時間にあてられて、教科書を読み上げていたら、「宮沢賢治の実家は農業を営み……」という文章にぶつかり、「営み」という字が恥ずかしくて恥ずかしくて読めない。絶句したまま、真っ赤になって立ち尽くしてしまったんだと。いやあ、漢字って奥が深いですね。

とまあ、話は逸れたが、このあまりにもチープで進歩のないアダルトサイトのタイトルを検証して、このコラムで書こうかなあと思ったのがコトの始まりだった。それまで、ばかばかしくて、あんまり見たことのないサイトを、一度覗いてみよう。というわけで、ある晩Yahoo!のカテゴリーから、エンタテイメント→その他→アダルト→画像、と検索していくと、いやあ、あるは、あるは! まず一つのサイトに行くと、そこにお仲間サイトがずら〜りと華やかなアイコン付きで並んでいる。まさに、歌舞伎町のビルの看板状態。

無修正画像を売りにしているサイトは、サンプルで修正入り画像がいくつか見れるようになっていて、会員登録してお金を払うと、無修正モンが見たい放題になるらしい。ふ〜ん、こんなもんに金払って見てるヤツが世の中にはいるわけか、アホらし! しっかしさあ、こんなカワイイ子が、何で平気で脱いじゃったりするのかねえ? やっぱりギャラがいいのかしらねえ? ブツブツ言いながらの深夜のネットサーフィン。端から見れば、そう言う私もかなり変態ババアである。

もともと興味がない世界なので、1時間ほど見て回る内に飽きてしまい、そろそろやめにしようかなと思ったときである。女の子のバストがドーンとアップになった「気になるあの娘の素っ裸Pure-Nude(素っ裸って、英語でPure-Nudeなの?)」というアイコンを、何気なくクリックしたとたん、画面にFLASHの動画が現れ「ありごとうございます! 会員登録完了いたしました」というぶっとい文字が現れた。

え? 会員登録? 私? その下には、お客様ID番号と登録日。接続IPなどが書かれているではないか! も、もしかして、私ったら、よりによってアダルトサイトに登録しちゃったの? げ〜〜〜〜〜っ!!  いきなり心臓ばっくばくである。

慌ててよく読んでみると、通常90日間見放題で¥80,000の会費が、3日以内に振り込めば¥39,800なのだという。うっそ〜〜! ちょっと、入会のボタンなんかあったかいな? と前のページに戻ってみたが、そんなもんは全くない。で、また中に入ると、同じ受付完了画面が現れ、よりによってご利用回数のところが2回になってるのだ。おいおい、どうなってるんだ、これは!

私はすっかり舞い上がってしまった。ああ、こんなところに踏み込むんじゃなかった。よりにもよってアダルトサイトなんて……。後悔してももう遅い。くっそう! ¥80,000取られるよりましだから、とりあえず¥39,800振り込むか〜? と、ふと弱気になったのだが、「お支払いに関するお問い合わせはメールにて」というメールアドレス表記があるではないか。さっそく身に覚えのない登録である旨をメールしようかなあと思ってクリックしかけたとき、登録情報の下の注意書きが目に飛び込んできた。

「もし万が一、あなたのお支払いが滞ったりいたしますと、ご利用になられたコンテンツ名などを記載した書面にて直接ご請求させていただく場合や、債権回収部から料金をお支払いいただく旨、ご自宅および勤務先へお伺いする場合がございます」

「またお支払いいただくためのご連絡などが取れない場合、悪質な場合は弊社調査部にて個人情報の特定を行い、所轄裁判所へ訴状を送付させていただく場合もございますので何卒ご了承ください」

何これ! 言葉は丁寧だけど、ハッキリ言って脅しじゃん! チンピラが「金払わねーと、どうなるかわかってんだろな!」と凄んでるのと同じなのだ。入会するとこんなことができますよということは一切書かずに、払わなかった場合の脅し文句ばかり並んでるのって、怪しくないか? だいたい、債権回収部とか弊社調査部って何なのさ! 絶対、ぜ〜ったいに怪しい!

そのとたん、私はある事実に気が付いた。あたかも私の会員登録が完了したかのような画面が現れはしたが、私は自分の名前も書き込んでなければ、当然アドレスも書いていない。またこちらから何も送信していないのだ。ネットを見ているだけで、アクセスした人のアドレスまでわかるということは、セキュリティ上あり得ない。ってことは、向こうは私がどこの誰だかわかっていないのだ。はは〜〜ん、これがウワサに聞くワンクリック詐欺ってやつかも。ここでもし私がメールで、「私、身に覚えがありませ〜ん」などと問い合わせたら、逆にアドレスがばれて、かえって催促のメールとかがガンガン来てしまうところだった。

冷静になって、ワンクリック詐欺について調べてみると、やはり私のひっかかりそうになったのは、その代表のいちばんわかりやすいレベルの低いものらしい。ただ単純に、クリックすると「登録完了」のページに行くように作られているだけで、何も知らない弱気なヤツがたまたま振り込むのを、網を張って待っているわけである。一瞬ではあるが、面倒だから振り込んでおくか? と思ってしまった自分が恥ずかくなる。だいたいインターネットでの会員登録や支払いに関しては、法律で必ず意思確認のボタンを作ることが義務づけられているので、そんなものもなく、事業者の名前も住所も記載されていない時点で、既に違法以外の何者でもないのである。

いやあ、ビックリしました。

でも、よく考えてみると、なんでこんなばかばかしい嘘に慌ててしまったかと言えば、自分に後ろめたさがあったからなのですよ。アダルトサイトなんかに登録しちゃって恥ずかしい……っていうか、こんなサイトを見てたことが恥ずかしいという後ろめたさ。それを逆手にとって、相手は「みんなにバラしちゃうぞ」的な脅し文句を投げかけてくるわけなのだ。いやあ、好奇心だけで変なところには踏み込まないほうがいいぞと、しっかり学びました。

しかしねえ、相手も「¥39,800」という、仕方ないから払ってしまうかと思える範囲内の金額を設定するところがスゴイ。これがもし¥50,000以上だったら、まず払う方向には考えがいかないだろう。これは、日本人の事なかれ主義の部分を突いたやり口でもあるわけだ。

意外なことで、己の「NOと言えない日本人」ぶりを思い知らされ、しばらく立ち直れませんでした。