9月初旬、ジョニー・デップが10年振りに来日した。公開中の映画『チャーリーとチョコレート工場』のプロモーションのためである。自家用ジェットで2000人のファンが出迎える成田に乗り付け、帝国ホテルの記者会見に始まり、テレビや雑誌、新聞のインタビューを山のようにこなし、六本木ヒルズで行われたレッドカーペットのジャパン・プレミアムで、群がるファンに笑顔でサインしまくって、その晩の内に再び専用機で飛び去った……という、正に人気スター的スケジュールだったそうだ。
しかし、彼がこんな大スター扱いされるようになったのは、ごく最近のこと。たぶん、去年公開されたディズニー映画『PIRATES of CARIBBEAN』の、ジャック・スパロウ船長役で、アカデミー賞にノミネートされ、その存在に気づいた人がほとんどなのではないかと思う。
何を隠そう、私はジョニー・デップの大大大ファンである。世の中が騒ぎ出す、ず〜っと前から、ジョニー・デップ命! であった。ウィノナ・ライダーと婚約して腕に“ウィノナLove”なんてアホなタトゥを入れて、そのあと婚約破棄して慌ててタトゥを消しても、今度はモデルのケイト・モスと付き合って、パパラッチに追われてやけ酒飲んで暴れても、ケイトと別れて、ヴァネッサ・パラディと結婚して、子供が二人できても、ずっとずっとジョニー・デップ命!
初めて観た彼の映画は、'90年に公開された、あの『シザーハンズ』である。賞取り合戦にノミネートされる大作でも、テレビスポットがガンガン流れる話題作でもなく、一見子供向けのメルヘンチックなラブストーリー。彼はその主役の“エドワード”を演じているのだが、これがまた生みの親の老発明家が、今一歩というところで死んでしまったために、手がハサミのままになってしまった未完の人造人間役ときている。つまり、メルヘン版フランケンシュタイン。青白く傷跡だらけの顔(自分の手で切ってしまうため)、マリリン・マンソンみたいな、ゴシック・ボンデッジ風の黒い衣装で、髪は爆発したみたいに逆立っている。人造人間だから、歩き方も何も、身のこなしすべてがぎこちない。表情もあまり変わらないし、セリフも全編通してたった184ワードという少なさ。それなのに……実際の彼の顔だちやスタイル、表情や声なんか全くわからないのに、私はこの27歳のまだ無名の役者に、心を奪われてしまったのだ。人造人間という無機質な役柄の中で、感情を表現する唯一の手段として残された目の演技……そう、彼の眼差しに。
ストーリーは、化粧品のセールスレディに発見され、街に連れて行かれたエドワードが、その娘のキムに恋をするというラブストーリーが軸になったものだ。エドワードは、ハサミでできた両手を生かして、庭木をオブジェのように刈り込んだり、ペットやウワサ好きのおばはん達のヘアカットの才能を発揮して、たちまち街の人気者になるが、結局はそのあまりの純粋さと、奇異な風貌のために街に馴染めず、だんだん人々にも疎まれるようになる。手助けしようと差し出した手がハサミであるが故に、人を傷つけてしまう悲しさ。彼の優しさに気づいたキムが、「Hold me!(抱きしめて!)」と言ったとき、悲しそうな目で言うたったひと言のセリフ「I can't(できないよ)」の、な〜んと泣けること! 例えば、『シェーン』の「Shane!Come back!」や、『カサブランカ』の「君の瞳に乾杯!」などなど、映画史上に残る名ぜりふはたくさんあるが、このジョニー・デップの「I can't」に勝るものはないと、私は勝手に決めている。
もう一つ、キムがボーイフレンドの悪巧みに、何も知らないエドワードを巻き込んでしまい、警察に逮捕されてしまった彼に泣きながら謝るシーンでのひと言、「I know……(僕はすべてわかていたよ)」……キャ〜〜〜! これもたまらん! だまされてるとわかってたけど、キミが頼むから僕はやったんだよ。キミのためにやったんだよ……なんていう思いや言葉が、たった2ワードのセリフと、彼女を見つめる優しい瞳ににぜ〜んぶ込められているのだ。こんな細やかな演技ができる役者は、もう、この世にジョニー・デップしかいないと断言するね、私は。
それからというもの、ジョニー・デップが出ているといえば、それが主役でなくても、必ず観てきた。10代の頃、テレビの『21ジャンプ・ストリート』というアイドルドラマの人気者だった彼が初めて出た映画『エルム街の悪夢』まで、ビデオを借りてきて観た。寝室であっという間にフレディに殺されちゃうので、出てるシーンを探すのが大変だったけど。また、あのアカデミー賞作品『プラトーン』にも出ていると聞けば、改めて見直して「おお! この兵隊がそうだったんかい!」と、確認もした。
バスター・キートンやチャップリンを研究したという『妹の恋人』のパントマイムの演技、『ギルバート・グレープ』『デッドマン』の、鬱々とした演技など、彼の演技の幅は実に広い。しかし、私に言わせれば、『エド・ウッド』や『ラスベガスをやっつけろ!』などの極端な作品への出演からもわかるように、軽く変人とか、頑張ってるけどちょっと間抜け、かっこいいけど時々どんくさい、といった役をやらせたら天下一品である。彼自身も、いかにもヒーローが登場するハリウッド映画や、正統派二枚目役には目もくれず、「何だ、こいつ?」というような役を好んで選んでいるし、そういうところが、またまた好きなのさ? だから、『スリーピー・ホロウ』の、勇気があるようで、実は6回も失神しちゃうイカボッド捜査官や、『PIRATES of CARIBBEAN』の、いいヤツなんだか悪いヤツなんだか最後までわからない海賊、ジャック・スパロウ船長は、私に言わせれば、ジョニデの最高のプロモーションビデオ的作品なのである。
『スリーピー・ホロウ』は、『シザーハンズ』以来、彼とは絶妙の相性と思えるティム・バートン監督の作品なので、彼はもう水を得た魚だ。時は18世紀、ティム・バートンお得意のモノトーンのゴシック映像の中、科学捜査を信奉する二枚目のイカボッド捜査官が、首なし騎士による殺人事件の捜査に派遣されて事件を解決する話。普通だったら、時に犯人と闘いながら、スマートに、あるいは必死に事件を解決するのが本当だろうが、彼が演じると、この捜査官、死体を見れば顔が引きつり、怖くて触れなかったり、さっそうと死体の解剖に臨んでも、いきなり顔面に血しぶきを浴びてしまうというドジな部分が折り込まれる。時にコミカルに、ときに頼りなげに。その結果、この捜査官に、グンと人間味が加わるのだ。観ているほうも、ストーリーや事件の展開とは別に、イカボッド捜査官が好きになる。すなわちジョニー・デップが好きになる。
ジャック・スパロウ船長に至っては、彼自身「海賊とは18世紀のロック・スターである」との独自の解釈に基づいて、かのローリングストーンズの偉大なるギタリスト、キース・リチャーズの立ち居振る舞いを研究して、あのジャンキーなキャラクターを作り上げたという熱の入れよう。ラリってるような足取りや、アメフトの選手みたいな目の下のクマや、実際に自分ではめ込んだ金歯なども、ぜ〜んぶ彼自身が提案したのだそうだ。いかにも海賊らしく登場したかと思えば、乗っていたのはちっぽけなボートで、しかもブクブクと沈んでるとか、ラストにかっこよく逃げ去ろうとしたら、城の塔から足を踏み外して、無様に頭から海にドボ〜ンと落っこちちゃうとか、細かく笑いを取る演技がたまらない。だから、ジャック・スパロウ船長から目が離せなくなる。すなわち、ジョニー・デップから目が離せなくなる。
これが例えばジム・キャリーがやったんじゃあ、オーバーアクションな上に表情があり過ぎちゃってドタバタになっちゃうし、トム・クルーズやジュード・ロウでは、笑わせられない。ネイティブアメリカンを祖母にもつジョニー・デップだから、生粋の白人、アメリカ人にはない、土臭い人間味が表現できるのだと思う。だいたい、今回さっそうと自家用ジェットで来日した彼の出で立ちと言ったら、白いシャツの胸元いっぱいに、インディアンジュエリーをじゃらつかせ、ヨレヨレジーンズの腰に、チェックのネルシャツ巻き付け、顔はひげ面……だもんね。どう見ても、こいつはハリウッドスターなんかじゃないなと、改めて思った。そして、ホッと安心もした。
というわけで、あまりの忙しさに出遅れてしまったけれど、世界一のチョコレート工場の、超へんてこりんなオーナー、ウィリー・ウォンカのエキセントリック振りと、ジョニー・デップ芸を堪能するべく、『チャーリーとチョコレート工場』観に行ってきま〜す!
『チャーリーとチョコレート工場』オフィシャルHP
http://wwws.warnerbros.co.jp/movies/chocolatefactory/
しかし、彼がこんな大スター扱いされるようになったのは、ごく最近のこと。たぶん、去年公開されたディズニー映画『PIRATES of CARIBBEAN』の、ジャック・スパロウ船長役で、アカデミー賞にノミネートされ、その存在に気づいた人がほとんどなのではないかと思う。
何を隠そう、私はジョニー・デップの大大大ファンである。世の中が騒ぎ出す、ず〜っと前から、ジョニー・デップ命! であった。ウィノナ・ライダーと婚約して腕に“ウィノナLove”なんてアホなタトゥを入れて、そのあと婚約破棄して慌ててタトゥを消しても、今度はモデルのケイト・モスと付き合って、パパラッチに追われてやけ酒飲んで暴れても、ケイトと別れて、ヴァネッサ・パラディと結婚して、子供が二人できても、ずっとずっとジョニー・デップ命!
初めて観た彼の映画は、'90年に公開された、あの『シザーハンズ』である。賞取り合戦にノミネートされる大作でも、テレビスポットがガンガン流れる話題作でもなく、一見子供向けのメルヘンチックなラブストーリー。彼はその主役の“エドワード”を演じているのだが、これがまた生みの親の老発明家が、今一歩というところで死んでしまったために、手がハサミのままになってしまった未完の人造人間役ときている。つまり、メルヘン版フランケンシュタイン。青白く傷跡だらけの顔(自分の手で切ってしまうため)、マリリン・マンソンみたいな、ゴシック・ボンデッジ風の黒い衣装で、髪は爆発したみたいに逆立っている。人造人間だから、歩き方も何も、身のこなしすべてがぎこちない。表情もあまり変わらないし、セリフも全編通してたった184ワードという少なさ。それなのに……実際の彼の顔だちやスタイル、表情や声なんか全くわからないのに、私はこの27歳のまだ無名の役者に、心を奪われてしまったのだ。人造人間という無機質な役柄の中で、感情を表現する唯一の手段として残された目の演技……そう、彼の眼差しに。
ストーリーは、化粧品のセールスレディに発見され、街に連れて行かれたエドワードが、その娘のキムに恋をするというラブストーリーが軸になったものだ。エドワードは、ハサミでできた両手を生かして、庭木をオブジェのように刈り込んだり、ペットやウワサ好きのおばはん達のヘアカットの才能を発揮して、たちまち街の人気者になるが、結局はそのあまりの純粋さと、奇異な風貌のために街に馴染めず、だんだん人々にも疎まれるようになる。手助けしようと差し出した手がハサミであるが故に、人を傷つけてしまう悲しさ。彼の優しさに気づいたキムが、「Hold me!(抱きしめて!)」と言ったとき、悲しそうな目で言うたったひと言のセリフ「I can't(できないよ)」の、な〜んと泣けること! 例えば、『シェーン』の「Shane!Come back!」や、『カサブランカ』の「君の瞳に乾杯!」などなど、映画史上に残る名ぜりふはたくさんあるが、このジョニー・デップの「I can't」に勝るものはないと、私は勝手に決めている。
もう一つ、キムがボーイフレンドの悪巧みに、何も知らないエドワードを巻き込んでしまい、警察に逮捕されてしまった彼に泣きながら謝るシーンでのひと言、「I know……(僕はすべてわかていたよ)」……キャ〜〜〜! これもたまらん! だまされてるとわかってたけど、キミが頼むから僕はやったんだよ。キミのためにやったんだよ……なんていう思いや言葉が、たった2ワードのセリフと、彼女を見つめる優しい瞳ににぜ〜んぶ込められているのだ。こんな細やかな演技ができる役者は、もう、この世にジョニー・デップしかいないと断言するね、私は。
それからというもの、ジョニー・デップが出ているといえば、それが主役でなくても、必ず観てきた。10代の頃、テレビの『21ジャンプ・ストリート』というアイドルドラマの人気者だった彼が初めて出た映画『エルム街の悪夢』まで、ビデオを借りてきて観た。寝室であっという間にフレディに殺されちゃうので、出てるシーンを探すのが大変だったけど。また、あのアカデミー賞作品『プラトーン』にも出ていると聞けば、改めて見直して「おお! この兵隊がそうだったんかい!」と、確認もした。
バスター・キートンやチャップリンを研究したという『妹の恋人』のパントマイムの演技、『ギルバート・グレープ』『デッドマン』の、鬱々とした演技など、彼の演技の幅は実に広い。しかし、私に言わせれば、『エド・ウッド』や『ラスベガスをやっつけろ!』などの極端な作品への出演からもわかるように、軽く変人とか、頑張ってるけどちょっと間抜け、かっこいいけど時々どんくさい、といった役をやらせたら天下一品である。彼自身も、いかにもヒーローが登場するハリウッド映画や、正統派二枚目役には目もくれず、「何だ、こいつ?」というような役を好んで選んでいるし、そういうところが、またまた好きなのさ? だから、『スリーピー・ホロウ』の、勇気があるようで、実は6回も失神しちゃうイカボッド捜査官や、『PIRATES of CARIBBEAN』の、いいヤツなんだか悪いヤツなんだか最後までわからない海賊、ジャック・スパロウ船長は、私に言わせれば、ジョニデの最高のプロモーションビデオ的作品なのである。
『スリーピー・ホロウ』は、『シザーハンズ』以来、彼とは絶妙の相性と思えるティム・バートン監督の作品なので、彼はもう水を得た魚だ。時は18世紀、ティム・バートンお得意のモノトーンのゴシック映像の中、科学捜査を信奉する二枚目のイカボッド捜査官が、首なし騎士による殺人事件の捜査に派遣されて事件を解決する話。普通だったら、時に犯人と闘いながら、スマートに、あるいは必死に事件を解決するのが本当だろうが、彼が演じると、この捜査官、死体を見れば顔が引きつり、怖くて触れなかったり、さっそうと死体の解剖に臨んでも、いきなり顔面に血しぶきを浴びてしまうというドジな部分が折り込まれる。時にコミカルに、ときに頼りなげに。その結果、この捜査官に、グンと人間味が加わるのだ。観ているほうも、ストーリーや事件の展開とは別に、イカボッド捜査官が好きになる。すなわちジョニー・デップが好きになる。
ジャック・スパロウ船長に至っては、彼自身「海賊とは18世紀のロック・スターである」との独自の解釈に基づいて、かのローリングストーンズの偉大なるギタリスト、キース・リチャーズの立ち居振る舞いを研究して、あのジャンキーなキャラクターを作り上げたという熱の入れよう。ラリってるような足取りや、アメフトの選手みたいな目の下のクマや、実際に自分ではめ込んだ金歯なども、ぜ〜んぶ彼自身が提案したのだそうだ。いかにも海賊らしく登場したかと思えば、乗っていたのはちっぽけなボートで、しかもブクブクと沈んでるとか、ラストにかっこよく逃げ去ろうとしたら、城の塔から足を踏み外して、無様に頭から海にドボ〜ンと落っこちちゃうとか、細かく笑いを取る演技がたまらない。だから、ジャック・スパロウ船長から目が離せなくなる。すなわち、ジョニー・デップから目が離せなくなる。
これが例えばジム・キャリーがやったんじゃあ、オーバーアクションな上に表情があり過ぎちゃってドタバタになっちゃうし、トム・クルーズやジュード・ロウでは、笑わせられない。ネイティブアメリカンを祖母にもつジョニー・デップだから、生粋の白人、アメリカ人にはない、土臭い人間味が表現できるのだと思う。だいたい、今回さっそうと自家用ジェットで来日した彼の出で立ちと言ったら、白いシャツの胸元いっぱいに、インディアンジュエリーをじゃらつかせ、ヨレヨレジーンズの腰に、チェックのネルシャツ巻き付け、顔はひげ面……だもんね。どう見ても、こいつはハリウッドスターなんかじゃないなと、改めて思った。そして、ホッと安心もした。
というわけで、あまりの忙しさに出遅れてしまったけれど、世界一のチョコレート工場の、超へんてこりんなオーナー、ウィリー・ウォンカのエキセントリック振りと、ジョニー・デップ芸を堪能するべく、『チャーリーとチョコレート工場』観に行ってきま〜す!
『チャーリーとチョコレート工場』オフィシャルHP
http://wwws.warnerbros.co.jp/movies/chocolatefactory/