宴会料理『ロボ』の撮影中、ナイノカ一族と一緒に記念写真を撮る西山カメラマン(右端)。取材中は、フィジアンの子供たちと同じように、裸足で庭じゅうを駆け回っていた。大家族でのんびりと心豊かに暮らすのがフィジアンの生きかた。
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翌日、私たちはアルさんの暮らす村、ラセラセを訪れた。フィジーではお客が村を訪問する場合、まずその村の長に“入村の許可”をもらわなくてはならない。その際のマナーとしてお客は“歓迎の儀式”に必要な『カバ』を買って手土産に持って行く。カバはフィジー語で『ヤンゴーナ』といい、この木の根からつくった汁は、フィジーではとてもポピュラーな飲料だ。
私もテレビや本などで、『カバの儀式』を知ってはいたが、実際にフィジーに行くまで、それほど日常的な飲みものだとは、想像もしていなかった。ホテルでは観光客に『カバの儀式』をショーアップした形で見せているが、フィジーの人々は“儀式”という形で飲むよりは、日常のお茶かお酒といったニュアンスで、この汁をしょっちゅう口にしている。
フィジーでは「あいつはアルコールもカバもやらない堅物だ」という言い回しがあるように、カバはリラックスしたいときに口にする嗜好品といった存在なのだ。そんなポピュラーな飲み物であるカバが、結婚式や国の行事、来客のときは“儀式”に使われる道具として大きな意味を持つ。まるでお茶の作法のような一定の手順に従い、木鉢の中のカバを、村人から客人へと順番に、それも何回も回し飲みをするのが『カバの儀式』だ。
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(左)フィジーでは、平均的な家庭であるナイノカ一族の寝室&衣装部屋。(右)20畳ほどの広さがあるメインルームは、寝室、客間、ダイニング、リビングを兼ねている。この他にと台所&作業室の2部屋があり、家族12人が住んでいる。
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私たちが靴を脱いでアルさんの家の広間にに上がると、そこにはカバの入った木鉢を中央に3人の男性が待っていた。ひとりはアルさんの親戚である村長で、残りのふたりは『カバの儀式』のお目つけ役と進行役を努める村の有力者たちである。彼らはニコニコと私たちに笑いかけながらフィジー語で何やら言葉を交わし合うと、次にパンパンと手を叩きながらゆらゆらと歌いだした。アルさんに聞いてみると、これは儀式につきものの祈りの言葉で、歌が終わると同時に“入村の許可”が おりたことになるという。
歌が終わると、村人たちが木鉢からココナツヤシの殻を半分に割ってつくったお椀でカバを酌み上げ、端から順番に飲んでゆく。お椀をやりとりする際も手を叩いたり、言葉を返したりで、一定の作法に従って儀式を進行していく。そのうちこちらにも順番が回り、私たちも少なめに椀に盛られたカバを、一気に飲み干した。
カバの味は聞いていたほどまずくもなく、かといっておいしいわけでもなかったが、舌にピリリと刺激が あって、ちょっと後をひくような不思議な魅力を感じた。約1時間後、カバの儀式を終えると私たちは、アルさんの叔父、アケイさんの家に移動した。教会の牧師を努めるアケイさんの家では、この日、私たちを歓迎するために、フィジーでは最高のおもてなし料理、『ロボ』をつくってくれることになっていた。
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10畳ほどの広さがあるナイノカ一族のキッチン。食器や野菜は室外の水道で洗い、煮炊きは室内のコンロで行う。調理はいつも家族揃って行う。
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フィジー警察官の制服は、上は普通のシャツだが、下は裾がギザギザにカットされた白いスカート。これは「スル」と呼ばれる民族衣装だという。
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フィジーではお客が村を訪問する場合、まずその村の長に“入村の許可”をもらわなくてはならない。その際のマナーとして、お客は“歓迎の儀式”に必要な「カバ」を買って手土産に持っていく。カバはフィジー語で「ヤンゴーナ」といい、この木の根からつくった汁は、フィジーではポピュラーな飲料だ。
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カバはコショウ科の低木で、飲料にする場合は、木の根の部分を使う。まず木の根の部分の泥をよく落とし、太陽にあてて乾燥させる。充分に乾いたら、石、または鉄製の重い専用の棒で砕いて粉状にする。次に「タノア」と呼ばれるカバ用の木鉢に薄地の布をかぶせ、その上にカバの粉をのせて水を注ぐ。さらに、水の中で布にくるんだカバをもみ洗いし、カバの成分がよく溶けだすようにしてつくる。木鉢の中には現地語で「ヤンゴーナ」と呼ばれるカバの汁が入っており、これをココナツの殻でつくったお碗で汲み、全員で回し飲みをする。
市場では、木鉢1杯分のカバ汁をつくるのに必要なカバ粉が小袋に入れられて売っている。値段は50〜100円程度だが、フィジーに暮らす人々の1か月の生活費約7000円と比較しても、決して安い飲み物とはいえない。
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