小見出し


午後3時……。アケイさんの家の庭では、早くも料理の下準備“石焼き”が始まっていた。“石焼き”は、地面に掘った穴の中で火を起こし、数十個のこぶし大の石灰石を数時間かけて焼く。『ロボ』をつくるには、かなりの人手と時間が必要だが、その手間のひとつが、この“石焼き”という作業である。石焼きはアケイさんやアルさんなど、年長の男たちの仕事だ。真っ赤に焼き上がるまでの2〜3時間、つききりでいるのはとても根気がいる。

一方、女性たちは、家の中で食材の準備だ。タロイモやパンの木の実などの皮を剥き、鶏に味付けをする。ティーンエジャーの弟たちはヤシの実を割り、野菜を洗う。幼い下の弟は、皿に乗せられた食材にハエがたからないように、タロイモの葉で皿をあおぎ続ける。『ロボ』の調理は、まさに一家総出の大仕事だ。

鶏の蒸し焼きの準備写真

メインディッシュである、“鶏の蒸し焼き”の準備をするアルさん。味付けをした鶏をヤシの葉の上に置き、細い葉を交互に組んでいって鶏を包み込む形で籠に編みあげる。葉の余った部分は三つ編みにして飾りにする。

午後5時半……。石灰石が焼き上がり、アケイ叔父さんの号令がかかって、いよいよの調理のスタートだ。『ロボ』は、熱く焼けた石の上に肉や魚、イモ類など、そのときどきの旬のものをのせて蒸し焼きにする。

この日の『ロボ』の食材は、『パルサミ』と呼ばれる、タロイモの葉でくるんだココナツ。メインディッシュである、ヤシの籠に包まれた丸ごとの鶏。そして、主食にあたるイモ類やパンの木の実だった。アルさんたちはひと通りの食材を石の上に置いた後、バナナの葉を上から何十枚もかぶせ、最後にトタン板を乗せて穴を完全に塞いだ。
「このまま1〜2時間置いておくととってもおいしく焼けるんです」
と、アルさん。焼けた石の余熱と、バナナの葉から滲み出る水分を利用して食材をふっくらと蒸し上げる。自然の知恵を生かしたフィジーの伝統料理、それが『ロボ』なのだ。

午後7時半……。大広間の床に食卓代わりの白いシートが敷かれ、その上に“穴から掘り出したばかりの”湯気が出ている料理の皿がずらりと並んだ。アルさんは、日本から来た私たちに気を遣ってナイフとフォークを出してくれたが、私たちは彼らと同じように、手づかみで料理を食べることにした。


食事風景写真

料理の準備が整うと、近所の人を呼んでのナイノカ一族の夕食会が始まった。飲み物はフルーツジュースか水。『ロボ』は、めったに作らない料理なので皆大喜びだ。

「おいしい……ですか?」
やや心配そうに料理を口に運ぶ私たちの表情をうかがうアルさん。食べながら私は手でOKマークをつくり、おいしいという意志表示をしたが、それはお世辞ではなく、『ロボ』は食材のどれもが、驚くほど美味な料理に仕上がっていた。

中でもココナツに刻んだタマネギを混ぜ、タロイモの葉で包んで蒸した『パルサミ』は絶品。ココナツのほのかな甘味とタロイモの葉の微かな塩気と苦味、そしてタマネギの辛味が絶妙なバランスで組み合わされ、これまでに取材した各国料理の中では1、2を争うおいしさ。口の中でトロリととろけ、豊かで複雑で、一生忘れられない味といっていい。

素朴な調理方法ながら、自然の恵みを生かして素材のおいしさを引き出すフィジアンの知恵に、大きなカルチャーショックを受けた私だった。




Copyright 2002(c)Maki Akuta,Nanako Nishiyama,Tohsei Co. Ltd.
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ハエを追い払う子供写真

大人たちが調理をしている間、小さな子供たちは食材にハエがたからないように、ウチワ代わりの葉であおぎ続ける。フィジーではどんな仕事でも、家族全員で協力し合ってこなす。









フィジーの宴会料理
LOBO

「ロボ」を作る一家の写真

『ロボ』は、フィジーに限らず南太平洋全域で見られる宴会料理。結婚式や国の行事、特別なお客を招いたときなどにつくられる。地面に掘った穴に焼いた石を置き、バナナやヤシの葉にくるんだ豚肉や鶏、魚、イモ類などを乗せ、さらにその上にバナナの葉をかぶせて蒸し焼きにする。水分をたっぷり含んだ木の葉は、中の肉をじっくりと柔らかく包むように蒸しあげ、鍋を使った調理では不可能な、繊細な味わいをつくりだす。

レシピへ








ココナツの葉包み写真

ココナツジュースの中に刻んだタマネギを混ぜ、タロイモの葉でくるんで蒸し焼きする『パルサミ』は、最高の美味。




付け合わせ

『ロボ』の付け合わせは生のきゅうりやトマト、細く刻んだタロイモの茎などを使ったサラダ類。また日本の小松菜のような『モサ』と呼ばれる野菜のサラダもある。