新しい年が明け、早や1か月半。大雪のニュース等々、本格的な冬の到来とともに、春を待ち遠しく思っている方も多いのではないでしょうか。
そんな時、春を感じられる、とっておきの場所があるのをご存じでしょうか。さて、どこでしょう? それは“花屋さん”なのです。じつは、この寒い寒い時期こそ、花屋さんがたくさんの春の切り花で彩られている、一年でいちばん春らしい季節です。チューリップ、スイトピー、ラナンキュラス、スイセン、ムスカリ等々、店内に入ると春の切り花でいっぱいのはず。春の香りに、思わず心も弾んでしまいそうになります。
中央2輪がパロット咲き、後ろは一重咲きのチューリップ。
最近は、本当に様々な種類の、春の切り花が出回るようになりました。その中でも、春の花の代名詞のようなチューリップ。以前は、チューリップといえば、歌にもあるように赤、白、黄色〜といったぐあいでした。しかも、咲き方は一重咲きがほとんどでしたが、最近では色のバリエーションのみならず、咲き方も様々。お馴染みの「一重咲き」、花びらが沢山ある「八重咲き」、花びらの先端が尖っていてユリのように咲く「ユリ咲き」、花びらがまるでオウムの羽の様な印象の「パロット咲き」等々、数えられないくらいの品種があります。
ところで、チューリップは、暖かい場所に置くと、みるみる花が満開になることはご存じかと思います。先日も、撮影の仕事で、チューリップを使ったところ、撮影場所が暖かかったので、撮影中の、ほんの10分の間に花が徐々に咲いてきて、カメラマンさんも驚きを隠せない表情をしていました。写し終わったデジカメの画像を順番に送っていくと「まるでチューリップが生きているかのように見えますね」とおっしゃったほどでした。
茎の動きを考え、チューリップは上部に挿したギフト。
また、チューリップは、日が経つにつれて茎が伸びたり、光の方向に反応して茎が曲がり花が上向きになったり、さらには茎が伸びた結果、茎がしなったような状態になることもご存じでしょうか。
従って、チューリップをアレンジメントや花束に入れる場合は、花の特性をよく考える必要があるのです。例えば、チューリップを入れたアレンジメントを完成させた直後と翌日とでは、横向きに挿したはずのチューリップが上向きになって、ずいぶん印象が変わっていたといったことはよくあるのです。ですので、私はギフトのアレンジメントにチューリップを入れる際には、横向きに花を挿さない等、細心の注意を払います。というのも、届いたアレンジメントが翌日にはずいぶん違う印象のものになっていたら、受け取った方は驚いてしまいますものね。でも、受け取る方が、大変な花好きで、ご自身でもアレンジメントに馴染みのある方でしたら、茎の動きにあわせて、ご自身でもさらにそのアレンジメントを楽しんでいただけるようなデザインに仕上げることもあります。
その様な茎の動きや花の咲き方は、品種によってもずいぶん差があり、それがチューリップをアレンジメントや花束に取り入れる際の難しいところではあります。でも逆にそれが、チューリップの茎をうまく生かしてアレンジする楽しみでもあるのです。「日が経って茎が伸びてしまったから、思い描いているデザインに仕上がらない」と悲観的に考えるのではなく、「茎が伸びて花が少し垂れたような姿のチューリップは、ひときわ茎のラインが美しいもの」と何でも前向きに考えることが重要。伸びた茎だからこそ手がけられるデザインもあるので、自分自身でその花にふさわしいデザインの引き出しを、数多く持っていることが大切だと思っています。
レッスンの際には、あえてチューリップをよく使います。それはレッスンの生徒さんにチューリップの特性を知ってほしいからです。初心者の方には、「レッスンで生けた時の状態と、日にちが経った時とでは、どの様に花が変化するか、よく見てくださいね」と説明しています。また、数年レッスンをしている方には、そのチューリップがいちばん美しく見えるようなデザインをするように教えています。
エレガントかつ可愛らしい印象のラナンキュラスを入れたアレンジ。
先日も、子供たちのレッスンの際に、チューリップを使ってみました。絵に描くようなタイプの花だけでないことに目を丸くして、楽しそうにアレンジメントを作っていました。そして、おうちで飾っていると、茎が伸びたり、また暖かい場所では、ユリ咲きの“バレリーナ”というオレンジ色のチューリップが、花びらをそっくり返る程に咲いたのにはかなり驚いたようです。こうした姿を見て、「植物が生きている」ということ、さらには“花の不思議な力”を感じるよいチャンスになれば嬉しいと思っています。
チューリップは春を感じることのできる素敵な花ですが、花の特性から、色々と制約がでる場合もあるのです。というわけで、最近私が好んでアレンジメントや花束に使っているのが、ラナンキュラス。アネモネを八重咲きにしたような、キンポウゲ科の愛らしい花で、つぼみから徐々に花を咲かせる姿は、まるで私たちに春の訪れを告げているような印象を与えます。名前の由来は、カエル。ラテン語でカエルのことをラナ(rana)というそうで、ラナンキュラスはカエルが好むような湿地に自生していたということから、この名前がついた、といわれています。
遠目から見ると、その姿はまるでバラのようにも見えます。色の種類も豊富で、多くの花屋さんでよく見かける大きさの品種はキュートで可愛らしく、また、「ローヌ」といわれる手のひらほどの大輪のものは、本当に豪華でエレガント。まるでシャクヤクか大きなバラのようです。ラナンキュラスは、ずいぶん前から出回っていた花ですが、10年ほど前はもう少し茎が弱くて、花は保ちがよいにもかかわらず、満開となった花が茎の細さに耐えられないのか、花が枯れる以前に茎が骨折! という状態となり、残念な思いをしたことが何度かありました。そんな時は、折れてしまった部分で茎を短く切り、小さなアレンジを作ったものでしたが、今ではそのようなことはほとんどありません! 花を支えるにふさわしい、しっかりとした茎となり、美しい花の保ちも抜群になりました。品種改良されたのでしょうか。そうだとしたら生産者さんに大感謝です。
ナチュラルな雰囲気の花、ムスカリ。
先日、ラナンキュラスが大好きなピアニストの友人が、リサイタルの際に贈られた花束に入っていたラナンキュラスを大切に飾っていて、このお花とも“さようなら”という際に、花びらの数を数えてみたところ、何と100枚以上もあったので驚いた、という話を聞きました。私は実際に数えたことはありませんが、あの素敵な姿を想像すると100枚以上というのも納得です。
チューリップもラナンキュラスも春を代表する花ですが、この季節には他にも心をくすぐる春の花がたくさんあります。ムスカリ、ヒヤシンス、キルタンサスなどのナチュラルな雰囲気の花も大変魅力的です。この寒い季節、朝早く市場に行くのは何となく辛く感じることもありますが、それは起きてから市場に着くまでのこと。市場に到着して、愛らしい春の花をたくさん見ると大変嬉しい気持ちになります。これも“花の不思議な力”のお陰なのかも知れませんね。
〜フローラルデザイナーの寒さ対策話〜
ドイツ製の湯たんぽ(左)とリストウォーマー(右)
「お花の仕事をしている」というと、この季節には特に「寒いでしょ〜」とみなさんからいわれます。はい、ホントに寒いです。市場は底冷えがするがごとくですし、このアトリエでも、花を扱う場所では基本的に暖房はなし。もちろん、レッスンの時は、ちゃんと暖房をつけて生徒さんをお迎えしていますよ。
市場に行く時、手袋は必需品ですね。でも手袋って、お財布からお金を出すときなど、自由に指が使えなかったりして、イライラした経験はないでしょうか。その都度手袋をはずしたりするのが不便だなと思っていたところ、一昨年のクリスマスに、ドイツ人のフローリストから素敵なプレゼントが届きました。それは「リストウォーマー」。フェルトのような素材でできていて、手先を覆う筒状のシンプルなものですが、温かい上に指先の動きは自由自在。とっても重宝しています。また、アトリエで暖房がつけられない時に、時々抱えているのが湯たんぽ。じつはこれもドイツ製。数年前にドイツに在住していた、ドレスデザイナーの方からお土産でいただいたもので、とってもキュートなデザインと色ですよね。
偶然、この2つともドイツ製で、ドイツはフラワーデザインも盛んな国。何かのご縁を感じずにはいられない気がして、これらに助けられながら冬の花仕事に精をだしているところです。