Vol.13 花からもらう元気、そして勇気

花を咲かせる春の花3月11日の大震災から約2か月。その間に、寒かった冬から、桜の花とともに春が訪れ、木々が芽吹き、ハナミズキが美しく咲くようになりました。厳しい冬を乗り越えたからこそやってくる、春。そして、春の花たち。何も見えなかった土から、ひょっこりと、でもしっかりと顔を出し、着実に、そして、少しずつ成長を遂げ、つぼみから花を咲かせる植物を見ながら「やはり春はやってくる」と心強く思う瞬間に、何度か出会いました。

震災の直後は、日々の生活もままならない、大勢の方々がいらっしゃる状況の中で、幸福感を伴うようなお花のレッスンをおこなってよいのだろうかと、様々な思いが、私の心の中を駆けめぐっていきました。また、被災された方々には、花を見て少しでも元気を取り戻してほしい、と思う一方で、それどころではない、想像もつかない過酷な状況の中で生活なさっていることを思い、私はこの仕事で、はたしてどんな風に役に立つことができるのだろうか、という無力感で一杯になりました。おそらくそれは、生活必需品に携わる仕事でない方々、特に芸術にかかわる仕事の方たちは、同じような気持ちを心のどこかで持ち、複雑な思いをして、数週間を過ごされたことと思います。

カーネーション花束

母の日を思わせる、カーネーションの花束

しかし、次第に時が経つにつれ、私自身のその思いに少しずつ変化が生じ、このような時だからこそ、花の不思議な力を伝えることができれば、と思うようになってきました。そして、その気持ちを後押しするかのように、つい最近、"花から勇気"という見出しの新聞記事を見つけました。

東北のカーネーション産地では、大震災の津波で海水をかぶったカーネーションが花を咲かせ「津波に負けない花」として被災者を元気づけているそうです。ある園芸農家では、ハウスの約2/3が土砂などで埋まったそうですが、4月に入ると残りの花が咲き始めた、とのことで、4月中旬から、ほかの園芸農家の花とともに「津波に負けない花」として販売しているそうです。母の日が近いこの季節、きっとそのカーネーションが勇気を与えてくれることと思います。

また、阪神大震災の復興シンボルである「はるかのひまわり」の種が、東日本大震災の被災地に広がっているらしいのです。はるかのひまわりは、1995年の阪神大震災で、自宅が全壊し亡くなった少女(はるかさん:当時11歳)が、ペットのエサとして保管していたヒマワリの種が、まるで少女の生まれ変わりのように自宅跡地で花を咲かせたことがきっかけとなり、阪神大震災を語り継ぐ、復興のシンボルとして、各地で広まってきたものです。4月中旬、岩手・宮城・福島の被災地に、物資とともに種が届けられ、その種は、地面に植えられ、すでに双葉が顔を出したとのことです。きっとこれから、夏が近づくにつれて、グングンと成長し、花を咲かせ、たくさんの元気を多くの人に与えてくれることでしょう。

バラの一輪挿し

手をつなぐようにグリーンでつないだ一輪挿し二つ

今回の震災から、私は、花の持つ大きな力に、改めて気づきました。花一輪、本当に一輪だけでも、その凛とした姿から、力強さや元気、そして勇気をもらうことができる、ということです。野に咲く小さな植物からも、そして、切り花として飾られた花からも。花の大きさや、アレンジの規模に比例するのではなく、花そのものが発する、見えない"不思議な力"で、実際に目にするのは一輪だけでも、心の中でそれがさらに大きく咲いていくのではないでしょうか。ニュースでも度々報じられた、岩手県陸前高田市の希望の松。海岸沿いに植えられていた7万本の松が津波により倒されましたが、その中に、奇跡的に1本だけ倒れず残っていたという松です。その松を見て、何人の方が力強い思いを胸にしたことでしょう。これらの、その見えない不思議な力は、花だけでなく、音楽、演劇、絵画、映画、バレエなど、震災直後には生活に直接かかわらないものとして、少し控えられていたものにも、規模の大小にかかわらず、あるのだと思います。

テッセン&アジサイ

清々しい色合いのアジサイとベルテッセン

今、アトリエにある、ベルテッセンの鉢物からは、新たな蔓や葉が出ています。3月の初めには、何もなかったのですが、あの震災の翌々日くらいから、少しずつ、でも確実に成長しています。それは、まるで、しっかりと根を張っていれば、何もないところからでも、少しずつ着実に一歩ずつ進んでいくんだ、と語りかけているようでした。今年も愛らしい花が咲いて、心を和ませてくれることに違いないでしょう。そして、鉢物で楽しんだあとは、昨年と同様に、庭のアジサイとあわせて、ガラス皿にささやかにアレンジしてみようと思っています。

花は、水や食料と違い、生活をするにあたり、絶対に必要とはいえないものです。でも、あの日から約2か月が経って、花も少しずつその"不思議な力"を発揮できる時期が訪れた気がしてなりません。


〜一輪の花を飾る際のワンポイントアドバイス〜

花は、一輪だけでも心が和みますね。というわけで、ほんの少しだけお花を飾りたい時のコツをご紹介しましょう。花瓶がない! とおっしゃる方、花を入れるのは、花瓶でなくてもいいんですよ。コップ、食器等々。たとえば、ペットボトルや紙コップでもよいですし、できたらきれいな装飾をほどこすと、素敵な花瓶に変身します。装飾というほど大げさでなくても充分なんですよ。ペットボトルに色紙を貼ったり、紙コップにシンプルな模様を描いたり。それで、立派な花瓶の完成です。花一輪だけを何気なく入れるか、でも、器の上部が広くて、花一輪だとバランスが悪かったり、安定しないなら、葉を上手に添えたりしてみましょう。また、花が安定するよう、器の上部ギリギリのところに、アジサイのような花を入れて、主役の花を安定させるというアイディアもありますよ。また、お皿などに少しだけ水を入れて、短く切った花をほんの少し置くだけでも、とても素敵ですよ。花は、わざわざ買わなくても、お庭やベランダで咲いていたお花で充分だと思います。一輪から、心に大きな花です。ぜひ一度なさってみてくださいね。

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