バラ、そして、新緑の美しい季節となりました。切り花のバラで、最近のお気に入りは、ブラッドオレンジという品種。アレンジや花束にも度々取り入れています。花びらにウエーブがあるので、一見バラらしく見えないかもしれませんが、絶妙なグラデーションの明るい色合い、そして、なんといっても、もちが抜群なので、少しずつ暑さが気になるこの季節にも安心です。オレンジ系などの、はっきりした色との組み合わせもよいですが、この季節ならではの、爽やかな緑とあわせても素敵です。
アレンジや花束は、花自体の美しさも大切ですが、花同士の組み合わせが非常に大きな要素になります。「どうしたら上手に花合わせができるでしょうか。」という質問を受けることがありますが、ある程度の規則こそあれ、こればかりは、場数です。回数を重ねて、自分らしい花合わせができるようになるのです。私もレッスンを受けていた生徒のころに、自分自身で色々とトライしてみました。「うまくできた」と思えることもありましたが、「この花合わせはいまひとつ」と思うような失敗も、たくさんしました。しかし、その失敗した経験を何度も重ねるうちに、私らしい色合わせや花合わせができるようになったと思っています。
レッスンで、生徒さんに時々言っていることなのですが、アレンジや花束に入れる花や葉のすべてを、お芝居の役者さんに見たてたとします。それほど大きなサイズのアレンジでない場合、バラやユリなどは、比較的主役になる花。カーネーションや小さめのトルコキキョウなどは準主役花、そして、脇役である、葉にも似たような花。この季節であれば、私がよくつかうのは、緑色のセダムなどです。そして、グリーン。これも脇役です。それらをうまく組み合わせることで、全体のバランスが保てます。ミュージカルやお芝居を見ることを想像してみて、それぞれがきちんと役割を果たす、主役、準主役、脇役。これが大切なのです。全員が主役のような雰囲気でも重たい印象ですし、かといって脇役ばかりのキャストですと全体的なパンチに欠けてしまいます。そして、私は最近とくに、主役ではない、脇役の花やグリーンのすばらしさを改めて感じています。
バラが主役ですが、脇役はアレンジのテイストが決まる重要な要素です。
新緑の季節らしく、バラのブラッドオレンジを、鮮やかな緑色の葉や花と合わせたアレンジを例にとると…。主役のバラや、準主役の黄緑色のカーネーション、そして淡いピンク色のスカビオサを引き立てているのは、脇役の花や葉たち。脇役がいてこその主役なのです。丸い葉の、ハーブゼラニウム。紫色の小さな花が咲き、葉がほんのりブルーがかった、セリンセ。ブロッコリーにも似たような、小さな花、セダム。そして、ちょっとした動きを出すアクセントとなる、ロータス。もちろん、このアレンジよりも、もっとゴージャスに様々な種類の花を入れることもできますが、このアレンジのスタイルを決定づけているのは、脇役ではないかと思うのです。これらの脇役の花や葉がなければ、このアレンジの個性の決定づけもしないような気がします。おかしなたとえですが、お料理でいうと、隠し味とか、味付けに似ているのかもしれません。中華風の少し辛いお料理でいえば、豆板醤や唐辛子などは、主役ではありませんが、それらをどの程度入れるかで、全体の仕上がり具合が決まるのと同じかもしれません。
少し大人っぽく仕上げたいときは、葉をアンバランスに。
昨年おこなった、ある撮影の仕事が、様々な色合いのアレンジを何パターンかつくるものだったのですが、主役、準主役になる花も大切ですが、たとえば、お花屋さんなどで、あまり目立つ存在ではない葉などを、さりげなく取り入れると、アレンジ全体に味がでる。というか引き締まることを、改めて感じたのです。先ほど、記した葉のロータスは、そのうちのひとつです。でも、お家では、それほどの大きさのアレンジや花束も飾らないので、主役、準主役、脇役までのお花や葉はちょっと・・・とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは一輪挿しでも同じなのです。主役の花一輪に添えた、脇役である葉の入れ方ひとつで、印象がかわるのです。一輪挿しの脇役である葉として、私が時々つかうのが、ミスカンサス(リリオぺともいわれています)という細い葉です。濃い緑色のものと、淡い緑色のものがありますが、かたすぎず、やわらかすぎずで、花瓶に入れるにも、形がとりやすいのです。花を一輪、中央に。そして、片サイドに2本のミスカンサスを添え、少しアンバランスな雰囲気に仕上げると、大人っぽい印象になります。逆に、かわいらしい印象にしたいのであれば、花の両サイドに1本ずつ、丸く入れて、ハート型のようにすると、キュートになります。また、くるんと巻き、カールさせてつかうと、遊び心もたっぷりに。簡単な一輪挿しですが、脇役の個性で印象がずいぶん変わると思います。
今年も手がけた母の日物語は、クレマチスの葉がアクセント。
こんな風に、私が、脇役の花や葉に注目するのは、もしかしたら、お芝居でも、主役の方より脇役のほうに注目してしまうからかもしれません。また、私は、バレエもよく観ますが、世界のバレエ団でいうと、英国ロイヤルバレエ団やパリ・オペラ座バレエ団など、名だたるところも好きなのですが、独自の味を出している、シュツットガルト・バレエ団が好み、というのに通じているのかもしれません。
さて最後に、今年の母の日アレンジも、第18回目『お客さまとともに手がけた母の日物語』でお話した、佐知子さんからご依頼がありました。今年のテーマは、小鳥のトピアリーとアレンジ。彼女がプレゼントの一部を準備し、ご予算やおおよその色をうかがったうえで、それにふさわしいアレンジを私が手がけるという、例年のスタイルで、今年準備されたプレゼントは、小鳥のトピアリー。そして、ここでも脇役が大活躍。トピアリーを蔦っていくように添えた、クレマチスの葉です。あいにく、お花は終わってしまっていましたが、手持ちの鉢物から切ってアレンジしました。アイビーだともう少し茎が太く、重たい印象になるかもしれなかったところを、クレマチスの葉のおかげで、イメージ通りに仕上がりました。重要な脇役のおかげで、お客さまにも喜ばれました。そう、こうした脇役のオーラも、花のふしぎな力のひとつなのかもしれません。
〜 脇役の花や葉と上手につきあうワンポイントアドバイス 〜
最近は、自分自身で花を手にとれるお花屋さんも増えてきましたが、そのようなお店に行ったとき、まず最初に選ぶのは主役の花ですよね。バラとかガーベラ、この季節ならシャクヤクなどでしょうか。さて、次に何を選ぶか。迷うところですが、もしも自分自身で花に触れられる花屋さんであれば、色々と試してみてください。でも、置いてある花は商品ですから、ダメージを与えてしまわないように、優しく、大切に、が鉄則ですよ。
そして、いままではあまり注目しなかった、脇役くんも探してみてくださいね。とくに葉などは、もしかしたら、お店の端のほうにあるかもしれませんが、店内をよ〜く見て探してみてください。1種類でも脇役くんを入れてみると、全体のバランスがよくなると思いますから。自分で選ぶのは、ちょっと勇気がいるかもしれませんが、もし迷ったら、お花屋さんと相談して、大切なのは、失敗を恐れない、場数です。