Vol.31 いつまでも心の中に刻まれる花の姿

ヒマワリ、デンファレ関東地方は比較的遅い梅雨明けでしたが、その後は猛暑日が毎日のように続きました。これだけ暑いと、花を飾る気持ちも失せてしまいそうですが、ほんの数輪だけでも部屋に花があると、ホッとするものです。

夏らしくて比較的もちのよい花ということであれば、1本に数輪の花が咲いているデンファレなどの蘭を選ぶと比較的長く楽しめます。この季節、沖縄産のデンファレは非常に美しく、もちも抜群。そして、花とともに、できれば葉も加えると、ちょっとしたアクセントになるのですが、それをあえてドラセナのようなトロピカルな印象の葉にするか、はたまた涼しげな利休草のような葉にするかでも、ずいぶんと見た目がかわります。

そして、アレンジの小道具をあえて夏らしく。たとえば、低めのガラス器に小さな剣山を置き、ヒマワリとデンファレをアレンジし、涼しげな利休草を、すらっと長めに入れます。通常であれば、剣山の足元にはほかにも何かの葉をアレンジしてできあがり、となるのですが、この季節は、熱帯魚飼育の際に使うサンゴ砂を足元に用いると、浜辺に咲く夏の花をイメージした作品に早変わりします。貝殻などをさりげなく置くのもよいかと思います。

花束

ヒマワリのジェイドという品種を取り入れた花束

また、季節感たっぷりにということであれば、夏の花の代表、ヒマワリを1本部屋に飾るだけでも、一気に夏の雰囲気になります。かなり以前から、様々な品種が出てきているヒマワリ。画家の名前がついた、ゴッホ、モネ、ゴーギャンという品種に加え、キュートな一重咲きで淡い黄色のジェイド、八重咲きの東北八重など、1本を飾るだけでも週ごとに品種を変えていくと、バリエーションを楽しめそうです。

この暑い季節、最近では、生花に特殊な加工を施したプリザーブドフラワーを好む方が多くいらっしゃいます。生花に比べると値段は高いのですが、湿気や直射日光を避けて上手に保存すれば、年単位で美しさが持続するといわれていることもあり、また、水やりなどの手間もいりませんので、とくに夏のギフトとして、プリザーブドフラワーを好む方も多くいらっしゃいます。ただ、確かに、プリザーブドフラワーならではのよさもあるのですが、私としては、とくにギフトの場合、やはり生花が魅力的で、枯れてしまうからこその美しさやよさもあると思っています。

花をギフトにする理由の大半は、相手の好みがよくわからず、形に残るものを差し上げても、万一好みに合わないといけないということで、花を選択することが多いのだと思います。また、以前に少し記したことがありますが、とくに海外の場合は、どなたかのお宅を訪ねる際にお持ちするのは、圧倒的に花が多いそうです。日本では、お菓子などの食べ物を持っていくことも多いですが、海外で様々な人種の方がいらっしゃる場合は、信仰している宗教も違い、宗教によっては召し上がれないものもあったりします。そのような点からも、生花は万能なギフトのひとつだといえると思います。

アンスリウム白

古希祝いで贈った、白いアンスリウムを入れたアレンジ

この夏も、生花のギフトをいくつかご依頼いただきました。暑い夏でも、ある程度は長く楽しみたいというご希望の方も多く、よく使ったのは、アンスリウム。そして、デンファレなどの蘭や、トルコキキョウでした。

先日ご依頼のあったギフトは、古希の御祝ということで、淡い紫色をとり入れて、というリクエストでした。お届け先の方が、よく私にアレンジのご依頼を下さる方で、そのお子さま方からの贈り物でした。穏やかで優しい印象の方なので、淡い紫色と黄緑色のデンファレに、白いアンスリウム“スノーウィー”や、コサージュ咲きの、ヒラヒラとしたアプリコット色のトルコキキョウをあわせました。古希のお祝いなので、きっと品物も贈られたのかもしれませんが、花が好きなお母さまへ、と生花のアレンジも贈ることで、あとには残らないけれど、心に刻まれる瞬間があったことと思います。

アンスリウムは、名前だけ聞くとピンとこない方もいらっしゃると思いますが、「赤いハート形のプラスチックのような花で、ハワイなどによく咲いていそうなもの」といわれると、わかる方も多いと思います。ハワイのイメージとして定着気味の花ですが、原産地はコロンビアなどの南米です。そして、アンスリウムのハート型のようなところは、苞といわれる部分なのです。じつは、花は中央の棒のような部分に多数つき、それらは小さくて目立たちません。品種によってはハート型の部分が、卵型だったり、細長く尖った形のものなどもあります。台湾やハワイからの輸入が多いのですが、この季節は、徹底した温室管理で、たいへん上質なものを栽培している生産者の方が国内にいらっしゃるので、国産を使うことがほとんどです。大きさも様々あり、手のひらより小さなサイズのものから、赤ちゃんの顔ぐらいのオバケアンスリウムといわれる大きなものまであります。

夏のギフトでよく使ったのは、キュートな印象の比較的小さなサイズのものですが、オバケアンスリウムは、アレンジに数本入れるだけでかなりインパクトがあります。そして、色は赤、ピンク、白、緑などが中心。とくに涼しげな印象なので、よくギフトのアレンジに入れたのは、前述の古稀のお祝いアレンジにもお入れした、苞のふちがグリーンで可愛らしい印象の小さな白いアンスリウム“スノーウィー”。 濃い色でないので、ほかの花とも非常にあわせやすいのです。“スノーウィー”という品種の名前の由来は定かではありませんが、ベルギーのコミック作家、エルジェ作の「タンタンの冒険」に出てくる、相棒の白い犬“スノーウィ”に連想させると名前が覚えられそうです。

華やかアレンジ

赤みがかったアンスリウムを入れた華やかなアレンジ

そして、アンスリウムのほかの品種を使って、華やかな印象のアレンジを手がけたギフトもありました。アンスリウムといえば赤。でも、通常の真っ赤なアンスリウムですと、かなり個性的な印象になったりします。そこで、やはり小ぶりで、うっすら赤みがかった“マキシマエレガンシア”という品種をとり入れて、濃いピンク色のモカラという蘭などと合わせたアレンジを手がけました。贈り先の方は、元気で華やかな印象の方、とのこと。濃いピンク色と、うっすらとした赤いアンスリウムがお互いを引き立てあったようで、利休草のすらっとした感じも、少し涼しさを演出したようでした。

生花は残らずに枯れてしまうから・・・と思いがちで、確かにそうなのですが、そこには、枯れて形が残らないからこそのよさもあり、美しく存在していた時の姿は、永遠に心の中に映し出されるのだと思います。これも、花に不思議な力があるから、といえるでしょう。


〜夏の花を選ぶときのワンポイント〜

部屋に花を飾るとはいえ、暑い季節はやはりちょっとためらってしまう方も多いでしょう。せっかく飾るのであれば、できるだけ長く楽しみたいもの。草花っぽい花は、残念ながら都心の暑さにはちょっとかわいそうな気が…。そして、葉だけを飾るのも少々さびしい気も…。そんな時は、その花の原産地に注目して、花を選んでみるのもよいかもしれませんね。

アンスリウムは南米、デンファレはニューギニアやオーストラリア北部、モカラは東南アジア。最近、花屋さんでよく見かけるクルクマは、ショウガ科の花で、東南アジアが原産なんですよ。オリンピックにちなむわけではありませんが、トーチのような美しい花が魅力で、色は、白、ピンク、グリーンがあり、グリーンは特にもちが良い気がします。このように、暑いところが原産地の花たちは、この季節比較的長く楽しめかと思うので、花屋さんでご覧になってみてくださいね。

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