Vol.20 失敗が、不思議なご縁に…

ブーケ秋のお花が美しい季節となりました。ダリアやバラ、また、実のついた枝ものが出回っています。そして、私の大好きな秋色アジサイも、微妙なグラデーションやアンティーク風の色合いで私たちの目を楽しませてくれています。秋色アジサイという言葉に馴染みがない方も多いかと思いますが、梅雨の時期に咲いたアジサイが、枝についたまま最盛期を越して、色が変わったアジサイを"秋色アジサイ"と呼び、ここ数年、この季節ならではの人気を集めています。

先日、秋色アジサイを取り入れたブーケをつくりました。オランダから輸入された、アンティークヴァイオレットという品種で、名前の通り、落ち着いた紫色の、アンティークを思わせる色調がじつに美しいアジサイ。そして、このブーケをおつくりした花嫁とのご縁は、ある方との出会いがきっかけでした…。

思えば、この連載も今回で20回目となりました。毎回様々なエピソードを書いていますが、私の手がけたお花がお客さまに喜ばれた話などがほとんどで、正直なところ失敗談まで書く勇気はありませんでした。でも、私も人間なので、細心の注意をはらっていても、失敗することはあります。この秋色アジサイのブーケを手がけた花嫁とのご縁は、そんな失敗が始まりでした。

アレンジ

お祝いにお送りしたアレンジに取り入れたト音記号

ちょうど今から2年前のこの季節、いつもお花をご依頼くださるお客さまから、お祝いのお花を送ってほしいとのご連絡がありました。送り先は富山県。したがって、宅配便でのお送りとなります。宅配便の場合、先方がお留守だと到着が遅くなりお花にダメージがあるといけないので、事前に在宅確認のご連絡をすることが多いのですが、お留守のことも少ないと思うのでサプライズで、また、寒い季節ということもあり、比較的丈夫なお花をお入れすれば大丈夫であろうと思い、事前にご連絡はせず午前着でお送りしました。お届け先の方は、クラシックの音楽関係の方でしたので、ワイヤーでつくったト音記号の飾りをアレンジに添え、きっとこのアレンジなら喜んでいただけるであろうと確信し、お花を旅立たせました。到着日当日、宅配便の荷物検索をしたところ、午前中はご不在で、夕方にお受け取りいただけた模様でした。また、お花破損のご連絡などもなかったので、ホッとひと安心。

そして、その年の12月。私はいつも、お花をご依頼くださったお客さまや、お花を送った先の方にもクリスマスカードをお送りしており、その富山県のお客さまにも、お送りしたお花の写真とともにクリスマスカードをお送りしました。そして、年末も近いある日。その方からお返事の封書が到着し、うれしく封を開けたのです。

「丁寧に、細やかなご配慮まで、あたたかさをお花と共にたくさん受け取らせていただき、感激いたしました」

という、とても丁寧な美しい文字で書かれた文章。喜んでいただけてよかった、と安心。ところが、読んでいくうちに

「ただひとつ残念でしたのは…」

の文字を見つけ、ドキッとしました。届いた時点でお花がクタッとなっていた、とのことだったのです。私の頭は真っ白になり、やはり事前にご連絡をすべきだったのだろうか、また、もっともっと強いお花でおつくりしておけばよかったのだろうかなどなど、取り返しのつかない失敗をしてしまったことへの、様々な思いが錯綜しました。ただ、その文章の最後に、

「お心を込めておつくりくださったことが充分伝わっておりましただけに、とても残念で…。お写真、大変うれしゅうございます!! 感謝を込めて」

と記されていたことが、せめてもの救いでしたし、正直にご報告いただけたことで、私も非常に参考になりました。

そして、すぐさまその富山県のお客さまにお詫びの電話をしました。穏やかな口調でご対応くださり、もし差し支えなければ、この件はご依頼主にご報告し、私のほうからお花は再びお送りすることも…との提案に「お気持ちがすごく伝わったので、ありがたく受け取ったということで、ご依頼主へご報告いただかずとなさってください」と、お言葉を頂戴しました。私のミスでこのような結果となってしまいましたが、その方の心の広さを感じ、その富山県のお客さまは、その時から私の中で、お客さまのお名前である、葉子さんという認識にかわりました。そして、年が明けて春のお花が美しく、まだまだ寒さの残る時期に、私からのお詫びの気持ちとしてささやかなお花をお送りしようかな、などと思っていました。

しかし、その翌年、お花をお送りしようかと思っていた矢先に大震災が起こったこともあり、タイミングを逃したまま、暖かい季節を迎えることになってしまいました。そして、その年、つまり昨年のクリスマス前まで、葉子さんには何もしないままで来てしまって気になっていました。お花をお送りするのもよいかもしれないけれど、やはり、あのお花はあの時お送りしたものひとつ、ということで、本当に子供のお小遣いでも買えるくらいの、クリスマス柄のアートキャンディ、西洋風の金太郎飴とでもいうのでしょうか、をお送りしました。

「今日、サンタクロースが早めに私のところにやってきて、これを葉子さんに渡すように、と言われました。Merry Christmas!」

のメッセージとともに。

花冠

お色直し用の髪飾り花冠

そのあと、驚いたことに、葉子さんからお花のご依頼をいただくようになったりと、ささやかな交流をもつようになりました。そして、今年の夏が終わる頃のある日、横浜で結婚式を挙げる妹さんのブーケをお願いしたい、とのメールが届きました。そのメールには、葉子さんが「ブーケのことを野崎さまにお頼みしたらどうかしら?」と薦めたわけでもなく、以前お送りしたお花とその後の交流を、妹さんが感激して聞いていたとのことで、妹さんも私のホームページをご覧になり、「ますますお願いしたくなった」とのうれしい文章がありました。

そして、妹さんの和子さんともブーケの打ち合わせを無事に終えた1ヶ月後の、挙式当日。挙式用の白ブーケや、お色直し用のブーケ、そして、それにあわせてアーティフィシャルフラワーでつくった花冠、プリザーブドフラワーの贈呈アレンジをお届けし、美しい花嫁姿の和子さんにもお目にかかってホッとしたところに、葉子さんとの嬉しい対面を果たしました。

贈り物

葉子さんからは、こんなうれしいプレゼントが…

思えば、あの日、もし宅配便が無事に届いていれば、富山県のお客さまという認識で私の頭の中にいたかもしれない葉子さん。あの失敗があったから、その日を一緒に迎えることができたのかもしれません。妹さんの挙式という晴れの日に。お花が無事に届かなかったお詫びの気持ちを、宅配便ではなく手渡しで、小さな花束に託し、葉子さんに直接差し上げることもできました。そして、葉子さんからは、ご自身のCDと富山のお菓子のプレゼント。そう、葉子さんは、リードオルガン奏者なのです。私のお客さまからご依頼があった、葉子さん宛のお祝いのお花というのは、アドヴェントからクリスマスへというサブタイトルの、このCDを発売なさったことへのお祝いのアレンジでした。リードオルガンは、パイプオルガンのような派手さはないかもしれませんが、繊細な音色に、心の奥から何かを語りかけるような雰囲気を感じ、折にふれて聴いています。そして、なんとも不思議なことに、いただいた富山のお菓子は、数ヶ月前に、友人とこのお菓子のことが話題になりながらも、東京で見つけられずにいたものでした。

失敗がきっかけの、こうしたご縁をもてたのも、生きているからこその、花の不思議な力のおかげ、だったのかもしれません。

〜 結婚式の髪飾りについてのワンポイントアドバイス 〜

今回のエピソードで少し話題にした、結婚式の髪飾りに関することを少しお話しましょう。

髪に飾るお花は、ブーケとあわせたものがよいですね。事前にヘアメイクリハーサルがあると思いますが、たぶんその時にアーティフィシャルフラワーを髪につけて、様子をみると思います。たとえばバラの花でも、種類や咲き方で大きさが様々ですから、リハーサルではこのくらいの大きさのお花をつけてちょうどよかったなど、できたらリハーサル時の写真もあわせて、お花屋さんにお伝えになるとよいでしょう。

また、最近流行の花冠は、花に一輪ずつワイヤーをかけ、さらにそれを組んでいく、というつくり方になります。なので、二次会まで身につけるなどの長時間ですと、花の保水などが充分ではなく、ちょっとグッタリしてしまう可能性もあるのです。本当は、ブーケとあわせた生花でつくるのがいちばんよいのですが、そういう場合は、アーティフィシャルやプリザーブドなども選択肢に加えて、お花屋さんに状況を細かく伝えて、相談することが大切ですね。お花屋さんとの心の交流も、思い描いたものを身につけられる助けになると思いますよ。

PAGE TOP▲