Vol.25 夏だからこそのアレンジメント

デンファレ&利休草今年の夏は"冷夏になるらしい"というニュースを聞いた気がするのは、記憶違いかと感じる猛暑の夏がやってきました。30度を超えるのが当たり前のような日々。そして、暑さの後にやってくる、恐ろしい雷雨は、都心でも床上浸水のニュースを聞くほどの勢いです。約10年前、花関係の友人と、冗談のように「日本はもう亜熱帯ね」などと話したことがありましたが、それがまるで現実になったかのようです。

こんなに暑いと、花を飾る気持ちも薄らいでしまうかもしれませんが、やはりお部屋の中に1輪だけでも花があると、心が和みます。花1本とグリーンだけでよいのです。そういう季節だからこそ、私がここ何年も頼りにしている花は、ランの仲間たちです。それも国産、沖縄産のもの。輸入物に比べると、格段にもちがよい上に、花のつき方や美しさが違います。たとえば、デンファレなどは、茎の先端から下のほうまで、美しく咲いた花がびっしりとついているので、見た目も非常に豪華なのです。沖縄産は、輸入のものに比べて値段は高いのですが、断然長く楽しめ、美しさも格別なことを考えると、ある意味お得ではないかな、と思います。私がよく使うデンファレは、白い色のジャックハワイ、そして黄緑色のレモンブーケやプリティミサキ。この季節が旬の、すらりとした夏の葉、利休草とあわせ、ガラスの器に飾ると、なんとも涼しげなのです。

ランやトルコキキョウ

ランやトルコキキョウで作った 小さくて軽いアレンジ

花関係の仕事をおこなっている方は、みなさま同じ状況と思いますが、やはり夏は忙しくない季節。しかも、これほどの猛暑だとなおさらです。でも、ありがたいことに、この季節もギフトのご依頼をいただくことがあり、30度を超える日ですと、どのような花を使おうかとちょっと頭を悩ますこともあるのですが、できる限りご依頼主のお気持ちが伝わり、ある程度の日数楽しめるものを、と思っておつくりしています。置き場所によっても異なりますが、生花ですと、この季節は1週間ももてば申し分ない、という状況も多々ありますが、この夏は、ご依頼主のリクエストをうかがい、こちらのアイディアを盛り込みながらおつくりしたフラワーギフトを、いくつかお届けしました。

最初にご紹介するのは、小さく、そして軽いことがご希望の生花アレンジ。お渡しする方の持ち帰りの状況とともに、ご依頼主が電車で少々遠方までアレンジをお持ちになり、直接手渡されるというリクエストをいただきました。そこで、最適な花として考えたのは、沖縄産デンファレのレモンブーケ。そして、やはり同じ沖縄産のランである、バンダのバラエティという品種。優しいオレンジ色が華やかでエレガントな雰囲気なのです。ほかに入れたのは、花びらがヒラヒラしている、コサージュ咲きトルコキキョウで、マンゴーという品種。どれも軽く、多少の暑さにも強いのです。後日、お客さまとお話する機会があったので、「あの時のお花は、無事にお持ちになれましたか?」とうかがったところ「大きさは思っていたより少々大き目でしたが、軽かったので大丈夫でした。」とのことで、ホッとしました。

アジサイとルリタマアザミのドライアレンジ

アジサイとルリタマアザミのドライアレンジとしても楽しんでくださっているとよいのですが

そして、次にご紹介するのは、生花のアレンジだけれど、一部分の花が終わったあとは、ドライフラワーアレンジとして少し長く楽しんでいただけることを想定したギフトです。毎年ご依頼のある、お中元のアレンジですが、今年は「夏らしく、できたら少し長く楽しめるものを」とのリクエストでした。お届け先の方とも面識がある私は、先方が、生花のアレンジを非常によく手入れされ、生花として終わりを迎えたアレンジの一部分を抜き、残りの部分は、そのままうまくドライフラワーアレンジとして飾ったことがある、とうかがったことがありました。以前、レストランで見た光景ですが、開店祝いとして贈られた生花アレンジが、日にちが経ち、ちょうどよい水の枯れ具合になったことで、ドライフラワーアレンジとして、大きな違和感もなく、そのまま飾られていたことがあります。花も、種類によって、きれいなドライフラワーになるものと、そうでないものがあります。都内でもかなり有名な花屋さんから届いた様子のそれは、おそらくその花屋さんが、生花アレンジとして楽しんだあと、アレンジに入れたすべての花がドライフラワーになること見越して、花選びをおこなったのだと感じ、私もそれに少し習ってみようと思ったのです。

きれいなドライフラワーになるであろう、ということで選んだのは、青みがかったグリーンの秋色アジサイと、ブルーが鮮やかなルリタマアザミ。希望的観測として、最終的には、これらだけの半球型ドライフラワーアレンジとして飾っていただけるよう、まず形をつくり、アレンジしました。そして、そこに加えたのは、ヒマワリの東北八重という品種、沖縄産デンファレのジャックハワイ、そして利休草、スプレーデルフィニウムです。大きすぎないアレンジのほうがお好み、ともうかがっていましたので、ジャックハワイの美しい"しなり具合"を生かすべく、アーチのように左右に挿し、額のように見立てて、ヒマワリなどを配置するデザインにしました。

ドライフラワーアレンジ

届け先の方々に、わくわく感が伝わったと実感できたドライフラワーアレンジ

そして、最後にご紹介するのは、ドライフラワーのアレンジです。絵本展へ御祝として贈りたいとのことで、ご依頼をうけました。会期は約1か月とのことで、できれば1か月間飾れるものを、とのこと。そして、リクエストは「アレンジから、新しい物語がはじまるような、夢が広がっていくような、わくわくドキドキが、キラキラと音を奏でて羽ばたいていく感じ」ということでした。それ以外に、花の種類や色などの特別なリクエストはありませんでした。まず、飾る期間の関係から、生花という選択肢は外し、ドライフラワーのアレンジに決めました。プリザーブドフラワーという選択肢も考えましたが、絵本展の多くは、自分で製本する手製本ということで、ドライフラワーのほうが、絵本展にふさわしい、自然な雰囲気と手作り感を出せるのではないか、と思ったのです。ご依頼主に、考えたアイディアをお伝えしたところ、ぜひそれで、とのこと。「わくわく」という形容詞を、様々な色のドライフラワーに託して、箱に入った花が、夢を広げるように箱のふたを押し上げ、芝生の上にあふれ出る雰囲気をアレンジしてみました。当初は、「キラキラと音を奏でて羽ばたいていく感じ」を出すべく、花とともに、ワイヤーでつくるト音記号や音符なども取り入れる予定でしたが、実際に添えてみたら、少し違和感があったので、ご依頼主に相談して、音を連想させる要素を入れるのはやめました。アレンジから音が奏でられるかどうかは、そのアレンジを見る人に、心の中で想像していただけばよいかな、というのが、二人の一致した意見となりました。お届けの際に、絵本展メンバーの方々が「わ〜っ」という歓声をあげてくださったことが忘れられません。

最近は、プリザーブドフラワーに少々押され気味のドライフラワーですが、アレンジをつくっているあいだ、私も非常にわくわくしました。そのわくわく感を与えてくださった、アレンジのご依頼主は、「Vol.20 失敗が、不思議なご縁に…」でご紹介した、葉子さんと和子さんの妹さん。こうして、花と少し縁遠くなりがちな猛暑の夏に、もう一人の妹さん、僚子さんと知り合えたのも、花のふしぎな力のおかげだと思っています。

〜 花の重さについて 〜

花は、種類によって、重さにかなりの差があることをご存知でしょうか。花束などによく使われるバラは、意外と重いのです。丈の長い花束ですと、茎がある程度長いですから、ユリなどのように花自体はそれほど重くなくても、茎による重さを感じる花もありますね。また、アレンジですと、水を吸った吸水性スポンジが、ある程度の重さになりますから、大きなアレンジを持つと、どっしりとした重量感になりますね。

大きさのある花束やアレンジをご自身でもって行く際、心配であれば、そのあたりもお花屋さんとよく相談してオーダーするとよいかもしれませんね。なぜか腕が痛いと思ったら、花を持ったことによる筋肉痛だった、というようなことも起こりえますから・・・。

また、結婚式の時に花嫁がもつブーケですが、たとえば、バラとトルコキキョウを同じ輪数だけ使った、同じ形のブーケを持ち比べてみると、その差は歴然。トルコキキョウを使ったもののほうが圧倒的に軽いのです。ブーケを持って、長時間歩き続ける立食パーティーなどでは、軽いブーケのほうが花嫁の負担も少ないと思いますから、これもやはりオーダーする際に相談してみることをおすすめします。

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