Vol.26 さまざまなご縁を感じた出会い

新年新しい年が明け、少しゆったりとできた、年始のひととき。そのような時間に、改めて花の姿を見ると、一生懸命に生きている力を感じ、そして、心温まる空気を放っていることもわかり、花のふしぎな力を、より一層強く感じます。昨年は、秋から年末まで、まるでジェットコースターに乗ったかのような慌ただしさが続き、文字通りのがむしゃらな日々を過ごしていました。

年が明け、少し余裕のある時間ができたことで、昨年後半を振り返りながら、様々な思いを巡る時間を過ごすことができました。昨年は、幸いにも、ありがたい仕事に恵まれ、そのひとつひとつに、どれも思い入れがあったのですが、その中で、特に印象深かった出来事がありました。それは、11月に、チェンバリストの植山けいさんからご依頼を受けた、コンサートのステージ花の仕事です。色々とお話してみると、彼女とは、ご縁の輪がいくつもつながっているのではないか、というたいへんな驚きがありました。

10月のある日のこと。「植山けいと申しますが、今年1月にピアノ発表会のステージ花をお願いいたしましたが、また次回、2015年1月の発表会でもお願いしたいと思いまして……」という1本の電話が。ピア二ストでピアノ教室も主宰する、私の友人から、4〜5人の先生とご一緒に開催する、ピアノ発表会のステージ花依頼を、数年前から、毎年お受けしていました。ご一緒の4〜5人の先生、というのがどなたなのか、いまひとつ把握しないまま、今までご依頼を受けていましたが、その中で、次回発表会のお花担当になったのが、植山さんとのことで、今回は彼女から私宛に、依頼の電話があったのです。用件をうかがい、電話を切った途端、「“植山けい”さんって、あの植山さんとお名前が一緒だわ。」と思いました。

八重桜の花束

5年前の八重桜の花束。これをラッピングしてお届けしたのです。

あの植山さん、というのは、5年ほど前に、私が花束をお届けしたことがある、チェンバリストの方でした。知人であるガラス作家の方から、「親戚が、パリ在住のチェンバロ奏者で、4月末に一時帰国してリサイタルをするので、御祝の花束をお願いできますか。」というご依頼を受けた時のものでした。華やかな花束をとのリクエストで、海外在住の方が日本で花束を受け取る時、どのようなものだとうれしいだろうかと考えました。植山さんのブログも拝見し、ご本人の、なんとなくの印象もわかりました。季節は春。そう、春の日本といえば桜です。やはり日本人であれば、桜には特別な思いがあります。「そうだ、花束にはぜひ桜を入れて。」とすぐに決めました。一重の桜は時期的に少々遅かったのですが、運のよいことに、市場で八重桜の美しい枝と巡り合うことができ、八重咲きのトルコキキョウも取り入れて、和風でもあり、でも、ジャポニズムを感じるような花束に仕上げたのです。会場に花束をお届けすると、リハーサル中の植山さんにかわり、楽屋にいらしたお母さまが花束を受け取ってくださいました。

そんな5年ほど前の出来事を、ふと思い出し、同姓同名の方もいらっしゃるのだな、と思いながら、何年かぶりに植山さんのブログを拝見したところ、2012年に日本に帰国され、東京を拠点に活動されているとの文章が、チェンバロと一緒に写った彼女の写真とともに掲載されていたのでした。あの植山さんは、まさに先ほど電話をくださった、ご本人だったのです。何とも言えない嬉しさのあまり、すぐに彼女に電話をし、「以前、リサイタルの時に、○○さんから八重桜の花束が届いたかと思いますが、じつは、お作りしてお届けしたのは私でした。」とご連絡してしまいました。ご帰国後は、チェンバリストとして活動されると同時に、東京でピアノ教室も主宰されており、ピアニストである私の友人とは、学生時代から親しいようで、昨年から一緒にピアノの発表会を開催されるようになったことなどをうかがいました。

チェンバロ&花

淡いピンクと白を中心としたアレンジ。

そして、その数日後、けいさんから、11月にご自身がおこなう、チェンバロコンサートのステージ花を依頼したい、とのご連絡がありました。そして、チェンバロの絵柄やドレスの色などもうかがいながら、メールでお花の打ち合わせを進め、いよいよコンサートの当日。アレンジしたお花を会場に届けに伺うと、広すぎない、非常に雰囲気のある空間に、彼女のチェンバロが置かれ、リハーサルをされている、けいさんがいらっしゃいました。ほぼ初対面の私たちでしたが、様々なご縁を感じて、その日がはじめての出会いではなかったような……。そして、今回のステージにアレンジしたお花は、白い八重咲トルコキキョウのレイナホワイトという品種。淡いピンク色のフリンジ咲きトルコキキョウ、ボンボヤージュという品種。これらは、「Vol.24 生産者さん達との大切な出会い」で記した、秋田の荒川さんのトルコキキョウです。そして、ぽってりとした、淡いピンク色のバラ、オール4ハート、カーネーション、それに白いカラーのクリスタルブラッシュという品種を取り入れ、仕上げに、利休草という、すらっとした葉を加えました。

遠くから見ると、けいさんがお召しになった、紫がかった濃いピンク色のドレス、そして、チェンバロに描かれた、ぽってりとしたバラに、非常にマッチしていたように思います。当日は、私もコンサートを聴き、心洗われる気持ちになり、忙しい日々の中で、なんともいえない幸せな思いがしました。じつは、チェンバロだけの演奏を生で聞くのは初めてで、今までは、どれも似たような曲調ではないかしら、という印象がありました。ところが、けいさんの演奏だったからということもあるのでしょうか。個々の曲のひとつひとつの音に意味が込められているように感じ、そのようなコンサートの花をアレンジすることができ、私も心躍るひとときでした。

チェンバロ&花

チェンバロの絵柄やドレスの色ともピッタリでした。

5年前の花束のことが、私にとってもたいへん印象に残っていたので、このご縁に気づいたのですが、その時に花束を依頼くださった、けいさんのご親戚のガラス作家というのは、「Vol.21 奥様へのサプライズなプレゼント」でご紹介した方。そして、顔と名前を一致させるのが苦手な私は、5年前の花束お届けの時には気づかなかったのですが、遥か10年以上も前に、植山さんという素敵なご婦人と数回お目にかかったことがあるのですが、じつは、その方が、けいさんのお母さまだったということがあとでわかり、なんともさまざまなご縁がありました。

ひとつずつの仕事を私自らがおこない、どれもほぼ記憶に残っているので、それに助けられた、ということもありますが、不思議につながったご縁を強く感じた昨年のこの出来事。ほかにもたくさん、ご縁のお蔭で、おこなうことができた仕事もありましたが、きっとこれも、不思議な力をもつ花に携わっているからこそだと思います。

〜 ステージに飾るお花について 〜

発表会やリサイタルなどの際に、ステージに飾るお花の依頼をうけることがよくあります。でも、舞台上にお花を置くことを許可しているホールって、じつはそれほど多くはないように思うのです。なので、そのような花をお花屋さんに依頼される際には、事前にホールに確認するのがよいでしょうね。名の知れたホールになればなるほど、納品時間や撤去に関する段取り、そして、どういう花を飾るのかなど、事前に詳細な報告を求められる場合もあるんですよ。でも、ホールの方が、そのようなことを詳細に尋ねる理由もよくわかります。というのは、よい音質のコンサートをおこなうために、ホール内の湿気管理など非常に徹底されていますから、納品用のシャッターが何時ごろに何分くらい開くかなどの、細かなことも影響してくるのだと思います。私も、何度もステージの花を手がけることで、湿気を入れないよう、納品や撤去時はできる限り素早く、また舞台を汚さないために、ステージ上での作業はほぼゼロで済むような準備をし、あまり音のしない靴を履くようにするなど、細心の注意をはらっています。これも、当日ホールにいらしたお客さまに、音楽と花で豊かな気持ちで帰っていただくため。ホールのスタッフの方々がうまく段取りを進められるよう、心から協力することが大切なのでしょうね。

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