Vol.49 ある“知られざる”舞踏会〜その9 複雑な歴史を物語るメダル

大晦日にバーデンで開かれた舞踏会に参加しました。新年のお祝いということもあり、外観の飾りつけも華やかです。
貴族たちが多く参加する特別な舞踏会で、彼らの多くが、それぞれの家の紋章が彫られた指輪を、一族の証として身につけていることを教えてもらいました。それ以外にも、他の舞踏会ではあまり見かけないことがありました。オペラ座や王宮などの有名な舞踏会では、男性の第一正装である燕尾服の上に、勲章のようなものをつけているのは珍しいことではありませんが、たいていは年配の方が多いようでした。それが今日の舞踏会では、若い世代の人たちもジャケットの胸元に、色々な形の飾りをつけていたのです。

後日、この舞踏会へ連れていってくれた友人の“伯爵”宅へ伺った時に、この飾りについて聞いてみました。すると、マルタ騎士団に由来するや、××時代の神聖ローマ皇帝の王冠を形どっている……などのメダルであると、一生懸命、彼も持っている実物や分厚い本を取りだして、その中の写真を説明してくれました。大事なところは私がよりわかりやすいように、インターネットでわざわざ、日本語の説明ページまで探しだしてプリントしてくれました(もちろん彼は日本語が読めないのですが、どうやって検索したのでしょう?)。

私は興味深く聞きながらも、一方で、彼の説明の中にでてくる、歴史上の固有名詞のほとんどについて、自分がごく表面的な知識しか持ちあわせていないことを思い知らされたのです。きっと外国人だって、日本史をある程度勉強しても、細かい話を理解するのは難しいに違いない……と、心の中では苦しい言い訳です。このように、“舞踏会で服につけているメダル”ひとつとっても、その奥にある文化、歴史の深さ、特に、色々な国と長年に渡り絡み合ってきたオーストリアという国、そしてヨーロッパの複雑さを、感じずにはいられませんでした。

私はウィーンに滞在して新しいことに出会うと、楽しいと同時に勉強しなければと思うことも増えていきます。そしてそのたびに、私の質問に対して、充分すぎるほどの説明をしてくれる現地の友人を考えると、自分は、日本の歴史や伝統文化を外国人に、日本人としてはたしてどれほどきちんと説明できるのだろうかと、自信のなさに加え少々、情けなさも感じてしまうのでありました。