「9番」はストライカー
2011.11.03
スポーツ紙ネタだが、浦和レッズの原口が、リーグ戦で10ゴール取ったら背番号9をクラブに要求する気持ちをコメントしたとか。それ自体は結構なことなんで、OKで~す。原口がストライカータイプかどうかはさておき、頑張ってくれたまえ。私が言いたいのは「9番」という背番号の意味するもののこと。
現代フットボールでは、かつては今日よりはるかに明確に存在していた「点取り屋」=ゴールゲッター(ポイントゲッター、ストライカー)の概念が非常に希薄になってきている。昔はゴールを決める役の人っていったら、本当にそうであって。しかし今日では誰でもゴールを決めるし、ストライカーも点だけ取りゃあいいっていうわけではなく数多くの仕事・役割を背負っている。そんな中で「9番」の重みというか意味合いというか、それがとっても忘れられがちになっているように感じて久しいのだが、それでも海外では(国際的には)「9番」を背負うことの意味はまだ根強く残っているというか、理解浸透度が深いと思うのだが、日本ではそこが希薄な感じがしていて。。。
だいぶ昔に、こんなコラムを書いたこともある。
「背番号が持つ本来の意味を、探ってみましょう」(2003.2.15)
どんなスポーツでも、背番号というのがあります。
今日では数多くの選手たちがチームに所属しているので、当然、背番号の数字も多く(大きく)なります。サッカーチームで言えば、当然No.1から No.11にNo.14とかNo.18までだけではなく、No.25とかNo.32とかの選手も存在するわけです。
ですが、背番号は「ただの順番」「ただの数字の順」ではなく、それぞれに、長い歴史の中で培われた本来の意味というものが備わっているものです。それは、どんなスポーツでも同様でしょう。
ところで、サッカーでは以前、スタメン(先発メンバー)がNo.1からNo.11までの背番号を付ける決まりになっていたことがありました。Jリーグでも、設立当初はそうでした。もちろん現在は、どこの国でも背番号は「固定制」で、No.32の選手が先発することもあります。
背番号が固定制だと、もちろん選手と背番号が一致するので、観戦する側にとっても便利ですし、マーケティング的にもプラスでしょう。レプリカユニフォームを販売できますから。でも、それによって段々、その背番号が持つ本来の意味や役割というものが見失われてきつつあるというと、言い過ぎでしょうか。
もちろん、サッカーのシステムやフォーメーション、戦術は高度化し複雑化し、過去の背番号の意味など無用かもしれません。でも、そうしたことを知っていれば、なお一層サッカーを深く楽しみ味わうこともできるでしょう。若い世代の方々の間でも、背番号の意味について時折議論が交わされている場面に、これまでも何度か遭遇してきました。背番号の意味を考えてみようなんて、なかなか深いじゃないかい! と嬉しくなってみたりします。
そんな時、オジさんとしてはちょっと気になるケースが時々あります。背番号の意味や役割について、ちょっと違うんだけど・・・というケースがある、ということです。
背番号の本来の意味や役割を語る時には、若い世代の方々はご存じない頃のシステムを知っておくことが必要になります。私も子どもの頃、日本サッカー協会の技術書や海外のサッカー学の講義本や戦術本などを眺めて、面白がっていたものです。今回は、そういうオジさんだからこそ知っている、最も原初的なシステムと背番号の意味・役割を少しお話ししてみましょう。
今日ではシステム、フォーメーションといえば、4-4-2とか、3-5-2とか、あるいは3-4-3とか、そういうのが大部分ですよね。ところが、最も原初的なシステムは、実は2-3-5というフォーメーションだったのです。図をご覧下さい。
この2-3-5システムから長い時間をかけて進歩し進化し変化してきて、今日のシステム、フォーメーションが形成されているのです。この2-3-5システムにおける背番号をご覧いただくと、それぞれの背番号が持つ本来の意味・役割が見えてきます。今日のシステムにおいても、どこかにその名残があるでしょう。
今日でも、右サイドバックはNo.2、左サイドバックはNo.3であることが多いですよね。センターバックは、No.4とかNo.5という場合が今日では多いと思いますが、この2-3-5システムの中盤のNo.4とかNo.5が最終ラインに下がってきた系譜をうかがうことができると思います。
また、南米のチームでは、No.6が左サイドバックもしくは左ウイングバックをすることが多いようです。ブラジル代表のロベルト・カルロスなどは、 No.6ですね。南米では、2-3-5システムの中盤左のNo.6が、左アウトサイドの役割を担うようになった系譜が想像できます。一方でヨーロッパでは、今日では、No.6はボランチ(中盤の底)をすることが多いようです。この辺りにも、南米とヨーロッパでのサッカー文化・戦術史の変遷の違いが感じ取れます。
さて、今日では「エースナンバー」はNo.10と言われることが多いですが、実は昔は、点取り屋(ゴールゲッター)こそが「エース」と考えられていました。2-3-5システムの図でも推察していただけるように、最前線(フォワード)の中央、すなわち「センターフォワード」(CF)が点取り屋になります。ですから、長らく「エース」とはNo.9であることが普通だったのです。
点取り屋を意味する背番号は元来No.10と思っておられる方も少なくないようですが、本来の点取り屋の背番号はNo.9ということです。私は、日本では No.9が少し軽視されているような気がします。国際的には、ゴールゲッターは今でもNo.9であることが多いはずです。必ずしも点取り屋を「エース」とするのではなく、攻撃の中心選手、つまりゴールもするけれども、No.9や最前線(フォワード、トップの選手)を操って攻撃を形づくる、いわば「攻撃の核」となる選手を「エース」と考える傾向が出てきたのは、1970年代後半から80年代にかけての頃からではないでしょうか。
No.7は、主として右サイドを突破してチャンスメイクの役割をする「右ウイング」ということに、No.11は、主として左サイドを突破してチャンスメイクする「左ウイング」ということになります。
2-3-5システムにおいてNo.8とNo.10は、ちょっとわかりづらいかもしれませんが、それぞれに「右インサイド」とか「右インナー」、「左インサイド」とか「左インナー」と呼ばれていました。センターフォワード(No.9)よりも少し下がり目で、中盤よりも前で、攻撃陣の一角をなし、ゴールも狙うという役割です。No.8とNo.10とは、右サイド寄りと左サイド寄りの違いあるだけで、役割としては本来同じようなものであったと思われます。今日でも、どちらかというと右サイドのプレーを得意とする選手にNo.8が、どちらかというと左サイドのプレーを得意とする選手に No.10が与えられることが多いはずです。
No.10は、今日では「攻撃の中心」ということで、多くの人々の注目の的です。「ゲームメイカー」とか言われて、「攻撃の核」となる選手です。しばしば話題になる「トップ下」というポジション・役割は、No.10であることが多いですね。No.10がトップ(フォワード)よりも1列もしくは0.5列下がった位置で「攻撃の中心」の役割を果たすというのは、2-3-5システムを基本的に踏襲しているとも言えるのではないでしょうか。
左右の違いだけで同じような役割であったNo.8とNo.10とで、No.10のほうが「攻撃の中心」という意味になってきたのは、2-3-5システムの当時から、No.10がNo.9とともにゴールも多くあげてきたことにあるように感じます。
主に中央から左サイド寄りをプレーエリアとしてきたNo.10がゴールを多くあげるには、1つの理由があります。それは、相手ゴールに対して左寄りをプレーエリアとしたほうが、右利きの選手にとっては、右足でも左足でもゴールを狙いやすいということです。
左足でシュートする場合は、相手ゴール左サイドから、やや角度がない所から左足シュートを放つことになりますが、右足でシュートする場合は、中に切れ込んきての右足シュートです。相手ゴールに対して角度がありますから、シュートの決定度はより高くなるわけです。
もちろん、左サイド寄りをプレーエリアとするには、左足のシュートも得意である必要があります。意外に思われる方もいらっしゃるでしょうが、利き足は右足でも、シュートの上手な選手は左足のシュートが得意なのです。軸足(右足)がしっかりするのと、利き足でないので余計な力みがなく、スムースに足を振り抜くことができるのでしょう(私も、左足のほうがシュートは得意でした。プレースキックはもちろん右足でキックしますが)。
そんな経緯もあって、また「サッカーの神様」と言われるペレが常に背負っていたということも相まって、さらにゴールだけでない攻撃そのものを形づくる役割の重要性がより強く認識されるようになって、No.10という背番号が、やがて「攻撃の中心」「ファンタジスタ」「エース」の代名詞となっていったのだと考えられます。
さらに今日では、チームの頭脳・プレイメイカー(攻撃だけでなくチーム全体の司令塔・演出家)は、どんどんその位置(ポジション)が下(後方)に移ってきています。フォワードでもない、トップ下でもない、もっと後ろの選手がNo.10をつけているチームも、既にしばしば見られます。今後は、No.10をどのような位置の選手が付けていくのか、関心をはらっていくのも楽しいでしょう。
少しわかりづらい話になってしまったかもしれませんが、最も原初的なシステムである2-3-5システムに触れてみました。
この2-3-5システムが、やがて3-2-5になり、4-2-4になり、4-3-3になり、そして今日の4-4-2や3-5-2へと進化・変遷を遂げていったのです。そしてさらに、今日の4-4-2や3-5-2でも様々な変化形が登場してきています。4-5-1とか、4-2-3-1とか、4-3-2-1 とか。あるいは、3-4-3とか、3-6-1とか、3-3-3-1とか、3-4-2-1とか。とにかく様々なバリエーションがあります。
今回紹介した2-3-5システムと、その中で背番号が持っていた本来の意味・役割について、少しだけ知っていただくことができれば、これからのサッカー観戦を、また一味違うものにしていただけるのではないでしょうか。
ところで、2-3-5システムでの試合を私はリアルタイムでは見たことはないです。いくらなんでも、そこまで年寄りではありませんので。
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