ヨハン・シュトラウスも演奏した格式のあるパークホテル・シェーンブルンのメインホールの天井。シャンデリアも美しく、見ているだけでも夢見心地です。
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日本出発前に時間がなく、私は舞踏会で着る予定だったドレスの、「裾上げ」をしないままウィーンに来てしまいました。ウィーンに着いてからは、毎晩部屋でドレスの裾を自分でちくちく縫いました。それがやっと完了したのが、王宮舞踏会当日の午後5時。時間が迫っています。
裾上げが終わった私は、まずシャワーを浴びました。そしてへアセット……といっても、横の髪を飾りピンで留めるだけなのに、やたらと時間がかかってしまいました。次にお化粧。ふだん、お化粧をしていても、なぜか周りの人には「すっぴん?」と言われることが多いので、今日こそはちゃんと美しく(?)お化粧をしなくてはと、力が入ります。ですが、「そうだ、今日が私にとって、“舞踏会デビュー”なのだ」と思うとうれしさがこみ上げ、ドキドキし、手が震えました。アイシャドウも塗れなかったくらい……。
そしていよいよ袖を通す、私にとって初めての舞踏会用のドレス……。そこにも長い“苦労話”がありました。
私はウィーンの王宮舞踏会に参加すると決め、各種手配を進めてきながらも、とても重要なこと・ドレスに関する情報は持っていなかったのです。「ウィーンの舞踏会に参加してきました」という人など、どこを探してもいなかったし、どんなドレスを選ぶべきかは、どの本にも書いていなかったのですから……。ロングドレスといってもさまざまです。色は? デザインは? 小物については? など、まったく何もわかりませんでした。
私は王宮舞踏会用のドレスを選ぶにあたり、元同僚の親戚というウィーン在住の人を探し出して突然エアメールを送ったり、都内にあるウィーン出先機関の方にしつこく質問をした結果……ドレスは裾が床まで届いていること、色は何でもいいけれど、白はデビュタントが着る色なので避けたほうがいいこと、手袋は一応正式にはするけれどなくてもいい……などは知ることができました。それだけでも、当時の私にとってはどんなに助かる情報だったことでしょう。
どこでドレスを入手するかは、いくつかの選択肢がありました。日本からレンタルしていく(長期間ではかなりの金額になる)、音楽家の友人に借りる(意外にもドレスを持っていなかった)、現地でレンタルする(日本人にはサイズが合わないことは歴然)……を検討の結果、“自分のロングドレス購入”を決定しました。
けれどもドレスショップにあるのは、結婚式のお色直し用の、かなり豪華でスーツケースにも入らなさそうなドレスが中心。当然お値段も大変ゴージャスでした。旅費や舞踏会参加費二人分、ダンスレッスンなどに費用もかかるぶん、いえ、たとえかからなくても、20代のOLに数十万もするドレスにはとても手が出せません。どこに“私のドレス”はあるのだろう……と困ってしまったのです。