Vol.09 「初めての王宮舞踏会」〜準備とドレス編2〜

これが私にとっての初めてのドレス。小物もコーディネートしてみました。
私は舞踏会で着るドレスを見つけられないまま、ウィーンへの出発の日は近づいてきました。ある日、ふと会社の近くの、ドレスショップへ行ってみました。真白なウエディングドレスやカラーのロングドレス、ティアラも美しくディスプレイされている店内に、何度かその前を通ったことのあるものの、足を踏み入れるのは初めてでした。

さっそく「結婚式ですか?」「演奏会か何かで?」と聞いてくる店員さんに、“いいえ、ウィーンの舞踏会で着るので!”とは何となく気恥ずかしくて言えず、「いえ、まあ」などと、あいまいな返事でかわしていました。

初めて手に取るピンクや赤や、ブルーのドレスはどれも美しく、あれもこれも試着してみたい思いでした。お値段も非常にリーズナブルです。多くのドレスの中から、踊りやすいように袖が短く、派手過ぎず、でもあまりシンプル過ぎず、子供っぽくはないけれど、ある程度かわいいタイプのドレス……という自分のイメージを限りなく満たしてくれる一着に出会うため、その後何度もショップへ足を運びました。

ふだん洋服を買うにも優柔不断な私が、初めての、しかもウィーンの舞踏会で着るドレス選びでは、どれだけ迷ったことでしょう……。女性の友人はもちろん、男性の友人までもわざわざそのドレスショップに連れて行き、あれは? これは? と、とっかえひっかえ着替えては、見てもらったのです(男性にはドレスのデザインの違いなど毛頭わからないらしく、まったく、意味がありませんでしたが……)。

部屋でドレスを着た後ろ姿を撮ってみました。
結局、最終的にドレスを選ぶことができたのは、もう裾上げのお直しに出す日数もない、ウィーンに発つ日の直前でした。

購入したドレスは光沢のあるサテン地の、鮮やかなブルー。同じデザインで英国のシルク製はお値段も二倍くらい高いのですが、上品なサテンで充分満足のいくものでした。胸元から二の腕の部分まで共布が幾重にも重なり、かなり華やかな雰囲気を出しています。オフショルダーにするとイブニングドレス、肩にかければワンピースのようにもなるのも気に入りました。スカートの部分はそれほど広がっていないので、全体的にはシンプルなラインです。「手袋は、いかがなさいます?」とお店は黒やブルーの手袋を出してきましたが、私にはすでに、これ以上の心の余裕は残ってはいませんでした。

「買っちゃった、買っちゃった」と、ドレスを手に小踊りせんばかりに家に帰った私に、母はすっかり呆れてしまったようです。言ってみれば、子供が前から欲しかったおもちゃを手に入れたようなものなのです。高価ではないけれども、自分にとっての初めてのロングドレス。とにかく単純に嬉しくて、自分の部屋でさっそく着てみました。シンプルだけれど、くるっと回ってみるとスカート部分は少しふわっと広がり、それだけで気分は舞い上がってしまいます。ひとりで、鏡の前で手を頬に当ててニヤニヤ。周りの人たちがどんなに呆れようと、こうして少しずつ、自分の「夢」が実現していくという喜びは、もう誰にも止められなかったのです。