Vol.46 ある“知られざる”舞踏会 その6 入口での厳しいチェック

ある年の夏に舞踏会場となったベルベデーレ宮殿。開始の時間になっても、まだ空は薄明るいのです。
ウィーンで開かれる舞踏会の多くが、夜9時開始が一般的です。それがオペラ座舞踏会やウィーンフィル舞踏会など、格式の高い舞踏会ほど開始時間が遅くなっていきます。

今夜の「聖シュテファン舞踏会」は開始が夜の10時。友人の“伯爵”とその彼女と合流したのは、9時少し前のことでした。そこから少し歩いて、今夜の舞踏会場、某国大使館へと向かいます。ここは、舞踏会の主催団体が旧オーストリア=ハンガリー帝国の頃より関係の深い国の大使館です。

その大使館はウィーン旧市街(1区)の中でも、観光客が滅多に通らないような少し入り組んだ場所にあり、それまで何度もウィーンに滞在していた私でも初めて通る道でした。このような、観光客が知らない場所にくると、またひとつウィーンに詳しくなったようで、うれしい気持ちになるものです。到着すると、入口では腕組みをしたセキュリティーの男性が私たちを迎えました。そこで“伯爵”は、まずチケットを見せます。それぞれに私たち3人の名前が記されていて、セキュリティーの人はそのチケットが本物かどうかを確認しています。次に、荷物をひとつひとつ赤外線検査にかけてチェック。さすが、大使館での舞踏会です……もちろん、普通の舞踏会では会場入り口で赤外線チェックなど、あり得ません。

小さなお城で開かれた舞踏会の、オープニングで踊ったデビュタントたち。この時も夏でしたので、窓の外は明るいですね。
それら、少し物々しいチェックを経て、ようやく中に入りコートを預けました。雨の中を歩いてきたので、ホッとひと息、やれやれです。会場は大使館といっても、中はシャンデリアがある美しい宮殿のような部屋が続いています。部屋に並べられているテーブルには、食事のセッティングと、そのテーブルを予約している人の名札が置かれていました。それらを眺めていると、私でも知っている家の名前もいくつかありました。例えばその中の一つは、ウィーンにある宮殿の名前から、貴族であることがわかります。友人の“伯爵”によれば、他のテーブルの予約名も「ほとんどが貴族の家の人たちだった」と言います。

ちなみにこの舞踏会は「小規模」と、前回のご紹介で書きましたが、それは「数百人規模」ということです。日本のパーティーからすれば、それでも大きいほうかもしれませんが、ウィーンでは王宮などでの舞踏会はたいてい、2,000〜3,000人という規模が普通なので、それに比べれば小さいといえますね。