Vol.47 ある“知られざる”舞踏会〜その7 独特のオープニングセレモニー

オープニングセレモニーの“デビュタント”たち。
ウィーンでも、普段は参加することのできない舞踏会。そのオープニングセレモニーが行われる部屋へやってきました。壁には何枚もの絵がかけられ、並べられた椅子にはすでに、人々が座って開始を待っています。男性は燕尾服、あるいはタキシードなのでいつものように黒一色ですが、女性の方たちはというと……私はドレスがブランドものかどうかを見極めることはできませんが、それよりも、ひと目見て上質であることがわかりました。華やかではあるけれど決して華美過ぎず、上質な生地に美しいライン。細部まで手の込んだつくりの丁寧な仕立て。そんな、上品さ、エレガンスが漂うドレスの女性たちを見ただけでも、この舞踏会の格式の高さを感じてしまうのでありました。

ウィーンの舞踏会では必ず見るといっていい、オープニングセレモニーのデビュタントたち。ただしそのデビュタントになる人たちは、以前とは変わってきています。かつては王侯貴族の子女たちが舞踏会で「社交界(ソサエティ)デビュー」するのが伝統でした。それが公に貴族階級のなくなった現代では、特別なソサエティが主催する例外的な舞踏会以外では、出場の制限はなくなりました。一定の資格と条件さえ満たせば一般の女性たちでも、デビュタントになれるようになったのです(なにせ、外国人である私も、王宮や市庁舎などの舞踏会にデビュタントとして参加できたくらいなのですから)。

けれども今夜の「聖シュテファン舞踏会」は、誰もがデビュタントとして出られるわけではありません。伝統に従い、彼らは旧オーストリア=ハンガリー帝国時代下の、縁の深い国に関連のあった名家から選ばれた若者たちです。そのことからでも、今回の「聖シュテファン舞踏会」は、特別な舞踏会の一つであることがわかります。

セレモニーの行われる部屋にはさらに人々が集まり、10時を少し過ぎたころ、オープニングセレモニーが始まりました。エスコートの男性と共に入場してきたデビュタントの女性たちは、独特の形をした帽子のようなものをかぶっています。これは、帝国下にあった某国の、伝統的なコスチュームの一つなのだそうです。デビュタントダンスは、他の舞踏会で見るような、誰もが知っているヨハン・シュトラウスの曲に合わせた華やかなものとは、どことなく違いました。私には詳しくはわかりませんでしたが、やはりこの舞踏会が開かれている大使館の国独特のものであったのではないかと思う、雰囲気のあるダンスでした。