Vol.51 ある“知られざる”舞踏会〜その11 社交の場は出会いの場

王宮舞踏会にて、私の知り合いの男性とマティアス先生と一緒に。
王宮舞踏会にて、私の知り合いの男性とマティアス先生と一緒に。
友人の“伯爵”とガールフレンドのエリーさん(仮名)と一緒に参加した、特別な舞踏会でのこと。友人たちが踊っている間、ひとりで見ていた私に、「踊っていただけませんか」と、私に声をかけてきた男性がいました。ウィーンでは、街中のカフェや市電の中でも、男性から声をかけられることが少なくなく、さらに、お茶にまで誘われたことも、一度や二度ではありません。それが、舞踏会という社交の場、とりわけ参加者が限定された特別なソサエティでは、いきなり声をかけられても、安心して、差しだされた男性の手に、自分の手を委ね、踊ることができます。

踊り始めて、私はドイツ語が片言しか話せないことを伝えました。すると相手の男性は、フランス人だったのです。その後は英語で、簡単な自己紹介から始まって、踊りながら話ができました。彼も一時的にウィーンに滞在しているとのことでした。英語も、踊りも、そんなに上手ではなかったのですが、とても優しい印象の人でした。初対面の方にいきなり、貴族かどうかまでは、聞けませんでしたが……。

何曲か踊って、「それではまたいつか、この舞踏会でお会いできればいいですね」と、その男性にお礼をいい、私は友人の“伯爵”とエリーさんと再び合流しました。そしてこの出来事を報告すると……エリーさんは、「マキコさん、あなたは、せっかく踊りに誘ってくれたその人の、名前しか聞かずに、別れてしまったの? せっかくの出会いのチャンスをフイにしてしまうなんて」と私にいうのです。

……そうなのです。この、一般の人が参加できない特別な舞踏会という社交の場こそ、素敵な出会いの場でもあるということだったのです。

この、エリーさんについては後日談で改めてご紹介したいと思います。