Vol.52 ある“知られざる”舞踏会〜その12 女性が外国で生きていくということ

王宮舞踏会のメインホール天井。照明が色々変わり、とても美しい雰囲気をかもしだします。
王宮舞踏会のメインホール天井。照明が色々変わり、とても美しい雰囲気をかもしだします。
特別な舞踏会に参加して少し経ったある日、“伯爵”のガールフレンド、エリーさんと2人でお茶を飲みました。舞踏会の話題になると、「せっかくいい人にダンスを誘われたのだから、連絡先だけでも交換したらどうかしら。あなたは日本人、彼がフランス人だって、いつかどこかで再会できるかもしれないし、それがマキコさんの人脈となっていくのですよ」そういうエリーさんに、私は「でも、日本人としては、自分から連絡先を聞きにくくて……」というと、エリーさんは「マキコさん、あなたはとても素敵な女性なのです。こうして一人でウィーンへやってきて、舞踏会に参加するという貴重な経験をし、それを他の人たちにも、伝えようとしている。それは素晴らしいことだし、他の誰もができることではないと、私はとても尊敬しています。だからもっと、自分に自信を持ってくださいね!」

そして話は、生きていく姿勢についてへ。エリーさんは、オーストリア人ではなく外国人で、ウィーンに住んで働きながら、国家資格を取るため一生懸命勉強しています。ウィーンに住みたいと思い、年に何度も滞在している私にとって、彼女は年下ながらも尊敬できる、とても素敵な人です。「こちらでは尊敬されることが大事。でも、女性はかわいいだけでは尊敬されません。仕事でもプライベートでも、こちらではどんどん自分からアピールしていかないと、自信のない人、何もできない人と思われてしまう。そうしたら、チャンスを逃してしまうのですよ」

エリーさんのこの言葉は、外国で生きている、彼女の経験からきたものでしょう。舞踏会というウィーンの文化を、日本人にもっと紹介したいと活動している私は、いつも彼女に励まされます。「もっと自分に自信を持って、もう一歩、踏み出して!」というのです……。「もちろん仕事ではとても頑張っている、だから恋愛の面でもね!」と。

エリーさんの彼であり、私の友人の“伯爵”は、ひと昔前なら、きっととても保守的であったであろう、元貴族社会に属する人です。もちろん今も、そのソサエティの文化や人脈を大切にしていますが、その一方で、自分の目標にむかって頑張る、外国人のガールフレンドを持ち、彼女を応援しているのです。そんな2人の姿に、「帝国時代の名残り」と、「貴族制度がなくなったことの自由さ」の共存をみて、友人としてほほえましく思う私なのでした。