Vol.10 「初めての王宮舞踏会」〜いよいよ王宮へ〜

王宮を入ってすぐの大階段踊り場。白い胸像が、フランツ・ヨーゼフ皇帝です。この周りのお花の色や装飾も、舞踏会により違っているのも楽しみのひとつです。
わからないことばかりで“初めてづくし”だった末に購入した、念願のロングドレスは、ウィーンへのフライト中も大切に機内持ち込みにして持参しました。舞踏会当日、そのドレスを着て、最後に、ウィーンで購入したブラックの長い手袋をはめ、真珠のネックレスとイヤリングを付けたところで、夜8時25分。約束の5分前に、「今、ロビーにいます」と、私のパートナーからの電話が部屋にあった時、やっと準備ができあがったのでした。ロビーに下りると、燕尾服に黒いコート、白いマフラーをしたパートナーが待っていました。私の姿を見ると、帽子を取って自分の胸のところへもって行き、騎士(ナイト)のように私にお辞儀をしました。

外にはすでにパートナーが頼んだタクシーが待っていました。彼が開けてくれたドアから私が乗りこむと、ドレスのすそを車内に収めるのを手伝ってくれます。そして彼は反対側から乗って、出発です。「王宮へ」。その瞬間から、私の舞踏会の夜は始まったのです。

王宮に着くとちょうどその時、真っ赤なロングドレスのすそを手で持って、宮殿に入る女性の姿が目に入ってきました。私たちもタクシーを降り、王宮のドアをくぐると……そこにはいきなり別世界が広がっていました。そこにもここにもドレスの人たち、という、映画の中でしか見たことのないような光景に、本当に、舞踏会に来たのだという実感です。

まずはクロークでコートを預けます。もちろん私のパートナーが、コートを脱ぐのを手伝ってくれます。そして改めてドレス姿でパートナーと腕を組み、片手でドレスを持って、赤いカーペットの敷かれた白い大理石の大階段を登っていくのです。このような場合、男性が左、女性は右です。大階段を半分まで昇った踊り場には、豪華な花に囲まれた白い胸像。ハプスブルク帝国の末期、悲劇と波乱に満ちた生涯を送ったフランツ・ヨーゼフ皇帝です(奥方はシシィの愛称で日本でも有名な、エリザベート皇后)。吹き抜けになったその大階段を上りきると、控えの間のような所に続いて、メインホールへの入口をくぐっていくことになるのでした。