Vol.14 舞踏会ダンス「カドリール」その1

ヨーロッパの舞踏会……というと、きっと多くの女性は、おとぎ話の中でプリンスやプリンセスがお城で優雅にワルツを踊っていたり、あるいは中世の時代、宮廷でロココ調のドレスにモーツァルトのような、カツラの男女が列になって踊っている映画のシーンなどをイメージされるかもしれません。

現代ヨーロッパ、私が参加したモナコやパリの舞踏会では、社交ダンスはあまり踊られていませんでした。伝統もドレスコード(服装規律)も守られつつ、老いも若きもが朝まで社交ダンスを楽しむ、といえるのがウィーン舞踏会です。舞踏会は踊るだけの場ではないといっても、踊れればより楽しい……。ここで“ダンス”に関する基礎知識を少々、お話し致しましょう。

皆さん目にする機会もあると思いますが、いわゆる「社交ダンス」とは、ワルツやタンゴ、今の熟年世代が若かった時代に特に流行したという、ジルバ(正式名はブギ)、チャチャチャなど10種類近い踊りの総称です。その中には、ヨハン・シュトラウスの音楽で有名なウィンナーワルツも含まれています。

ウィーンフィルのニューイヤーコンサートで世界中に有名な、ウィーン楽友協会。ここで開かれたある舞踏会の、デビュタントたちのカドリール。
この「社交ダンス」は文字通り、“社交の場で楽しむダンス”なのですが、日本のダンススクールではほとんどが、「競技ダンス」(競技会用のダンス)指向であるようです。そして、競技ダンス種目としてはウィンナーワルツはかなり高レベルの段階にならないと踊られず、普通にダンスを楽しむ方々には、ウィンナーワルツを踊る機会はほとんどない、というのが実情です。一方ウィーンでは、中級以上の家庭では子供の頃から、大人になるための教養のひとつとして、社交ダンス社交マナー、女性のエスコートマナーなどを習わせます。その中で必須なのが、ウィンナーワルツなのです。

さて、そんな「社交ダンス」やウィンナーワルツを踊るウィーンの舞踏会でも特に、中世からの名残を受け継いだ踊り……それが、カドリール(Quadrille フランス語読みではカドリーユ)と呼ばれる古典舞踊です。これは社交ダンスとはまったく異なるもので、ロングドレスにタキシードの男女が向かい合い、手に手を取り回ったり、すれ違ったりお辞儀をしたりして踊っている様子は、それこそ映画の一シーンのような光景です。

かつて上流階級の子女が社交界にデビューした伝統が残るオープニングセレモニーでは、“デビュタント”と呼ばれる若い男女が踊りを披露しますが、今も上流階級が多く参加することで知られるあるウィーンの舞踏会では、デビュタントたちが、オープニングでカドリールを踊っています。

今日、わずかの例外を除きほぼすべてのウィーン舞踏会で、カドリールは皆で踊られています。深夜零時になると、舞踏会のメインホールには続々と人々が集まり、カドリールの始まり始まり……。この先、どのようにカドリールタイムとなるかは、別のエピソードにてご紹介したいと思いますが、日本人で舞踏会に参加された方も、日本に帰ってきてからもぜひカドリールを踊りたい、教えてほしいと言われるほど、1度経験したら大変楽しい踊りなのです。