昨年開かれた『椛の夜会』というデビュタント舞踏会で、プロデュースをお手伝いした際のデビュタントたちによるカドリール。レッスンの成果が実り、とても美しいオープニングになりました。
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とうとう彼は、自分のパートナーの女性だけでなく私のことも、大忙しで引っ張ったり押し出したり、面倒を見るはめになってしまいました。私も一生懸命周りを見ながら合わせつつ、動かされるままにあっちを向いたりこっちへ来たり、と思うと「あら?」と言う間にくるっと回ったりという具合で、忙しく場所を移動します。私もパートナーも、そして向かいのカップルも笑いが止まらなくなってきたのです。「これ、踊り!?」
音楽はさらに速くなってきます。女性はただでさえボリュームのあるドレスを着ている上に、ぎゅうぎゅうに列に並んでいた状態から全員が一斉に動くので、もう何が何だかわからなくなってきます。気が付くと自分のパートナーが違う人になっていたって、直すこともできません。全員、ノッてくる、文字通り老いも若きも、です。6番後半では、男性たちがいきなり声を合わせて歌う、というより叫ぶようです。そして皆で足を踏み鳴らします。
極め付けは最後。カドリールが終わるとポルカがかかり、全ペアはギャロップで飛び跳ね始めました。続いて端からアーチを作ると、次から次へとその下を馬のように走ってくぐりぬけるのです。ただでさえ暑いのに、皆、汗だくになって、走り、叫ぶ……。最後は数千人がめちゃくちゃに入り乱れて歓声と拍手で終わりました。
……と、面白いのは、その一瞬後にはウィンナーワルツが大まじめに演奏され、十秒前まで運動会のように大騒ぎで走り回っていた人々が、まるで何事もなかったかのように再び、優雅にドレスをひるがえして踊り始めるのでした。
これまでの舞踏会ではカドリールの時間、指をくわえて眺めていたけれど、参加してみると、思っていた以上に楽しいものでした。踊り自体、面白かったのだけれど本当に楽しかったのは、カドリールに参加できて、現地の人たちにつかの間、溶け込めた、一員になれたような気分が味わえたこと。そしてこの頃から、“舞踏会は踊るだけの場ではない”、しかも地元に息づいた文化であることを実感し始めるのでした。
日本のデビュタント舞踏会『椛の夜会』にて。カドリールが終わりデビュタントたちが挨拶をしているところです。日本でもこのような、デビュタントのイベントが増えていくことを願っています。
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ウィーンで出会えたこの、楽しい踊りを、今後も少しづつでも日本の皆様に広めていければと思っています。