Vol.38歴史息づくお城のプリンセス その9〜プリンセスとのお話6

僕の部屋に猫がいます、とご子息がおっしゃるので、猫好きな私としては「もし……会えたらうれしいのですけれど」と言ってみましたら、わざわざお部屋から連れてきてくださいました。寝起きで少々機嫌の悪い、ウィスキー君です。
ハプスブルグ家末裔のプリンセスのご子息は、お話とランチにも同席くださいました。ご自分の家(つまりお城)の中でもスーツをパリッとお召しになり、爽やかな、かわいい(オバさん発言ですね……)笑顔と共に、けれども大変はっきりとした口調でお話をしてくださいます。

「自分はこのお城で育ち、食事や服装のマナーなどすべてを学びました。けれども(留学先の)イギリスのパブリックスクールでは、ネクタイの締め方もベッドメイキングの方法も知らないという、外国からの友人たちもいました。彼らの自国の家ではいつも、それらは使用人たちがやってくれていたからです」

「ベッドメイキングやアイロンがけはメイドの人たちがやってくれるとしても、“プリンセスだから、伯爵だから、自分は何も知らなくてもよい”ということではないのだと、自分は母から躾けられました。まず自分が、どうやってそれらをするのかを知っていることが大切です。それで初めて、メイドの人たちにどうやってもらうかを言えるということなのです」

……このお話はとても新鮮でした(もちろん私の家には、アイロンをかけてくれるメイドさんはいませんが)。どんな身分や立場にいてもそれにおごらず、甘えず、身の回りのことは自分でできるという、人としての基本がきちんとしていること、それは“人としての品格”のひとつとも言えるのかもしれません。

ところで……プリンセス、ご子息と一緒にランチをいただく時間となりました。案内されてお部屋を移動し、テーブルについてふと見ると……見慣れないテーブルセッティングだったのです。

通常私たちがフランス料理や、日本でも“洋食”をいただく時には、お皿の右側にナイフ類、そして左側にはフォーク類が並んでいるのが普通ですね。けれどもその日のお城のランチでは、ナイフとフォークが重なって、すべてお皿の右側に並べられていたのです(以前のエピソードに写真を掲載しております)。「あら? これはどちらから使うので……?」と、心中、少しどきどき。そこでさりげなく、プリンセスがどう使われていくのかをチラチラと見ながら、その後お食事を進めました。このように、ご自分の知らないマナーの場に出会ってしまうことも、充分あり得ることですが、まずは“基本を知っていること”、そして臨機応変に振る舞う、これが大事なのかもしれませんね。