Vol.42 ある“知られざる”舞踏会 その2 特別な人しか参加できない舞踏会

ある舞踏会にて。受付の人まで楽しい扮装をしています。
友人を通して知り合った“伯爵”とは年代も近いこともあり、ウィーンに滞在するたびにお茶をご一緒し、時には自宅にお邪魔したり、別の友人を紹介されたりというお付き合いが続きました。私は“伯爵”と知り合った間もない頃に、「舞踏会には行かないのですか?」と聞いたことがあります。すると、彼は「もちろん社交ダンスは高校生の時に習っていますが、あまり舞踏会へは行きません。特に規模の大きい舞踏会には……」と言った後で、「でもひとつだけ、毎年でも参加したい舞踏会はあるんです」と、話してくれました。

それは、特別なネットワークの人々(つまり貴族たち)にのみ招待状が届く舞踏会、市中に出回っている「舞踏会カレンダー」には掲載されていない舞踏会だったのです。オペラ座舞踏会や、王宮での大きな舞踏会はたいへん有名で、チケットの入手も困難ですが、チケットさえ手に入れれば “一般の人でも参加できる”舞踏会です。“伯爵”が毎年でも参加したい舞踏会……とは、一般の人は決して入れない「特別な舞踏会」のことでした。

それまで「一般にはチケットが売り出されない貴族たちの舞踏会」の存在は、聞いたことはあっても、もちろんその詳細は知る術もありませんでした。「そんな舞踏会への招待状が毎年来るから、早めに申し込めば同伴者として連れて行ってあげられるよ」と“伯爵”に言われ、「もちろんぜひ参加してみたい」と、お願いしていました。けれども残念ながらお互いの日程が合わず、なかなか実現しませんでした。なにしろその招待状は、ある日突然送られてくるので、前もって予定を立てるのがむずかしいのです。

その舞踏会の話を聞いてから何回目かのシーズンに、私にようやくそのチャンスが巡ってきました。“伯爵”がようやく、舞踏会に申し込んでくれることができたのです。ただし、彼はその少し前にできたばかりの“彼女”と一緒に参加するので、私は2人の“お邪魔虫”としてではありますが……。

その「特別な舞踏会」に参加できるということを知らされたのは、私が舞踏会シーズンに、ウィーン入りした後のことでした。