デンマーク戦。

立ち上がり、デンマークは右サイドのロンメダールが中央に、中央(トップ下)のトマソンが右サイドに張り意表をついてきた。そのうち戻すだろうと思ってはいたが、トマソンをほとんど捕まえられず心配な状況で試合は展開していった。

日本はメンバーは過去2戦と全く同じだが、中盤の構成を変えていたんだな。見ている時は気づかなかった。むしろデンマークのプレイメーカのクリスチャン・ポールセンへのチェックのために長谷部がアプローチしている(そのために長谷部が高い位置になっている)のだと思っていたが、試合後に解説者たちの話を聞いていると、これまでの4-1-2-2-1ではなく、4-2-3-1というフォーメーションだったらしい。つまり中盤底に阿部と遠藤で、その1列前に松井と大久保に長谷部を並べていたらしい。長谷部が1列前だった意図は、やはりポールセンをチェックしようということだったはずで、そこは同じだったのだがフォーメーション自体を変えていたとは思わなかった。
しかし前述のように誰をどうチェックするのかを修正した結果、そして2列めからゴール前に入ってくるトマソンをどうチェックするかを明確にしたことで、これまでの2戦と同様、阿部をアンカーに置いてその前に遠藤と長谷部が位置する形に修正したようだ。迅速で適切な応対であったと思う。

本田と遠藤のフリーキックについては何も言うことはない。素晴らしい。感動的に素晴らしい。
本田のフリーキックの時は、本田が蹴った瞬間の弾道を見て、おぉっ!!!と叫んでしまった。それくらい予感の走ったものだった。

それから序盤、左サイドから大久保の低いアーリークロスに右から松井が走り込んできてジャンプしながらヒールで合わせたシーンは実に惜しかった。相手ゴールキーパーにわずかに当たってしまった。あれが決まっていたら、最高の芸術ゴールとして歴史に残ったことは間違いない。

勝つしかないデンマークとしては後半立ち上がりからパワー全開で来るのは当たり前。オランダ戦と同じ。だが押し込まれていても危険な感じはあまりしなかった。危ないっ!!って叫んだのは2度ほどだったし。クロスバーを叩いたシュートが1本あったが、あれはヒヤッとしたほどではなかった。バーやポストに当たるシュートの1本や2本はありますよ。
このまま無失点で試合をクローズできそうな気もしたが、前回書いたようにレフェリーがナンだったのでPKを与えてしまうかもな、と思っていたら案の定。ありゃぁシミュレーションでしょうが。ただ残された時間少ない中で立て続けにPKを同じチームには与えにくいので…もちろんよほど明確にPKが与えられるファウルならそんなこと無関係だが…そういう意味では逆にもうPKはないだろう、むしろ無意識のバランス感覚でファウル判定が有利になるかも、、、なんてことも考えたりした。空中戦での競り合いでの、デンマーク選手の肘を神経質にとってくれたのも上手く働いた。

本田がドリブリングから岡崎のゴールをお膳立てしたシーンは、本田のあのステップは「プチ・クライフターン」だと声を上げてしまった。
本田はオランダ戦でイマイチ機能しなかった経験を生かして、彼なりの1トップのプレーを見いだしていたのに感心させられた。確かに楔のボールをおさめたりターゲットになったりといった普通のフォワードの1トップのポストプレーのやり方ではないが、後方からのボールをきちっとトラップしておさめてやったり、大柄なデンマークのディフェンダーともフィジカルで崩されることなく、胸トラップやチェストパスを決め十二分の働き。おさめるだけでなく、自らターンしてのドリブルを駆使して巧みにデンマーク守備網を揺さぶる。足技があんなにあったとは知らなかった。タッチライン沿いに、相手2人に囲まれながら果敢に魔法のようなフェイントなんだか足さばきで突破を図りスローインを取ったシーンは出色。ぶっちゃけ本田は足は速くはないが、それでも懐の深さと足さばきを使ってあれだけのプレーをしてくれるのは予想外、予想以上で、本田もまた短期間に進化を遂げているということだろう。それと、日本人の足さばきは(コネ回すのとは違って)こうして大柄な選手相手の国際試合でも十分に使えるということだ。そこは自信をもってこれからも磨くべきだ、コネ回すのではなく。

オランダ戦では、本田にボールが入ると必ずセンターバック2枚が挟んできて封じようとしていた。それだけオランダは本田を警戒していたことの表れだと思うが、それで余計に本田が機能できなかったのだが、デンマークとしては、あのオランダがあれほど警戒してんだから、、、ということで同じように本田を警戒していたと思われるが、本田はオランダ戦とは相当違う動きや意図やアイディアを駆使してデンマーク・ディフェンスを攻略したと言えるんじゃないだろうか。そしてデンマークが本田を警戒すればするほど、他の選手が生きてくる。オランダが本田への警戒を示してくれたことの副産物。

ホームではない大会でグループリーグを堂々と勝点6ポイントで突破したこと、しかも最終戦の直接対決に完勝して自力で勝ち取ったこと、しかもヨーロッパの伝統国、実績も信頼もある、仮に中堅国だとしても中堅国のトップというか、そんな強豪国を叩いたこと。これらは私たちが感じる以上の大きなインパクト、センセーションと思われるのだ。それはヨーロッパと南米各国はもちろん、中国やベトナムやアメリカやメキシコでも、実に多くの国々のメディアで讃えられていることからもわかる。
この試合の各国の実況放送では、かつての名選手たちがそれぞれに賛辞を述べてくれたらしい。イングランドのリネカー、シアラー、ドイツのカーン、クロアチアのボバン、イタリアのコスタクルタ…それからあのモウリーニョ監督が、私たち日本チームの戦いを評論しているなんて。しかもモウリーニョは日本のことを、ありがちな守備に引きこもりだけのチームではない、、、、ボールを奪った後に多くの選手が攻撃参加しているのは理想的なシステムの1つ、、、とまでコメントしたとか。シュートの放つのが誰か予測しづらいこと、試合中のシステム修正まで評価しているようで。

そういうのも嬉しいが、運ではなく勝ち上がったとされているのに一番目頭が熱くなる。

さて、全てのグループリーグの試合が終わり、グループステージが終了した。
グループリーグ初戦で私が絶賛したドイツを破ったセルビアは、最終戦でよもやの敗戦を喫してグループ最下位に。スペインを絶妙な守備文化で破ったスイスも、グループリーグ敗退。グループリーグ最終戦のスイスは、後半は守備をかなぐり捨てホンジュラスに打ち合いを挑んでいったのも面白かった。その分、当然にして決定的なピンチも招くわけで、単に守備的な戦いしかしないわけなんかじゃないのだ。
そのスイス、スペインと同グループだったチリは、ビエルサ監督のもとで実に見物(みもの)のフットボールを見せている。あのフットボールは凄い。Round of 16 ではブラジルVSチリ。これは楽しみ。

北朝鮮チームにはJリーグでプレーしている選手が2人いる。川崎フロンターレのチョン・テセと、大宮アルディージャのアン・ヨンハ。アン・ヨンハは過去にアルビレックス新潟、名古屋グランパスでプレーした。彼が過去に所属したクラブのある街の方からポルトガルVS北朝鮮の試合中に私にメールが届き、雨の中でアン・ヨンハ頑張っている、、、なつかしい、、、と。何年も前、雨の中のスタジアムでアン・ヨンハが奮闘しているシーンを思い出されたのだろう。これもJリーグの趣(おもむき)の1つ、Jリーグが世界と繋がっていることの一端、フットボールならではの小話。


前述のようにモウリーニョが日本のフットボールを論評してくれた。
ものすごく大まかに言うと、きわめてバサっと言ってしまうと、カウンター型とポゼッション型があるとする。日本人が好みなのはポゼッション型だと思うし、岡田監督も、それからものすごく好意的に言うとジーコ監督時代もその志向があったと思われる。
カウンター型は日本チームにはイマイチ馴染まない。なぜなら数人でゴールを奪うような芸当ができないから。Jリーグでもカウンター型がやれるチームは、必ず外国人プレーヤが関与している。それにカウンター型の要件である大きな展開とかロングボールよりも、ショートパスの繋ぎが根底に嗜好としてあるようだから。
2002年大会の頃のトルシエ監督がつくったチームは、中盤でのプレッシングでボールを奪ってのショートカウンターだった。それはここで言うカウンター型とはだいぶ違う。
しかし今の日本チームがやっているのは当然のこと、ポゼッション型ではない。しかしカウンター型でもない。トルシエの時のショートカウンターでもない。そうすると、人数をかけた組織的な守備ブロックを構築し維持しつつも、カウンター型とポゼッション型が合わさったような(あえて融合とは書かないが)そんなフットボールが当面の日本サッカーなのか。将来はさらに異なるフットボールを追求する(追求したい)としても、そこまでのプロセスとしては、そういうフットボールを描いて磨いていくのか。そこには当然、日本らしいフットボール、日本人の特性を生かしたサッカーというものが存在するのが前提であり、それなくしてはプロセスとしてのそういうフットボールも不可能ということで。
いずれにしても今大会が終わったところで、日本チームがどういう戦績で終ろうとも、こういう議論をちゃんとやらないといけない。何より日本サッカー協会が。
やるわけないし、やれないことも知っているけど。日本の政治と全く同じ。そういう歴史をずっと見てきているので、かれこれ30年も40年も。

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